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名探偵はあてにならない。  作者: 龍
CASE:1 或る村での出来事
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第2話  ふたつの殺人

 早朝の長野駅を出発した穂坂村行きのバスは1時間ほど走って山道にさしかかっていた。車はほとんど通らない。


「さおりさん。穂坂村ってすごいところなんですね」


 それを褒め言葉と受け取ったのか、さおりは微笑んで「ソバが名産の良い村よ」と答えた。


 冬休み、長野県の穂坂村にある実家に帰省する小早川さおりに、俺と出町は同行していた。と言うのも、それがさおりの依頼だったからだ。出町は終始だるそうにしていたが、俺はこいつの扱いには慣れている。ちょっとおだててやるとホイホイついてきた。


 依頼。それは小早川家に送られてきた奇妙な脅迫状についてだった。


『罪深キ小早川家ヘト年ノ末、我ノ手デ裁キヲ下サンコトヲココニ記ス』


 深紅のインクでおどろおどろしく書かれた簡素な脅迫状だった。差出人は不明。いたずらかもしれないが、不安なので護衛を頼みたい、というのがさおりの依頼だった。警察に相談すればいいのではないかと俺が言うとさおりは、当主である小早川紀夫が警察沙汰にするのを嫌ったのだと答えた。



 雪がちらつき始めた午前11時過ぎにバスは穂坂村に到着した。一面の雪景色だが、辺りに民家のようなものは見られない。


「さおりさん。ここが穂坂村なんですか?」


「そう。びっくりしたでしょ。ほんとに何にもないところなの。いちばん近い商店が車で片道2時間のところにあるくらいだから。不便なのよね。だから今日も安藤さんに頼まれていろいろと買ってきてるの。」


 さらっととんでもないことを言ってのけるさおり。そう言えば彼女は大きなリュックをかついでいた。どうやらそこに買ってきたものが詰めこまれているらしい。


「安藤さんっていうのは?」


「ああ、ウチの家政婦さん。3年くらい前から働いてくれてるの。苦労かけてるから、こっちに帰るときはいつもいろいろと買ってくることにしてるのよ」


「何を買ったの?」


 今までだるそうに押し黙っていた出町がようやく口を開いた。てか今日の一言目が質問かよ。


「ほんとにたくさん。食べ物がほとんどかな。あとはトイレットペーパーとか雑巾とかノートとか」


 どれほど入っているのか、さおりのリュックは今にも爆発しそうなほどだった。


 バス停から30分以上歩いてようやく小早川家に到着した。どうやら村のいちばん奥まった位置にあるようだ。さおりの話では明治から続く名家らしく、普通の民家が点在する中でその大きさは異彩を放っていた。雪に覆われた庭は日本庭園になっていて、人工的につくられた大きな池もあった。


「まあ、さおりちゃん。おかえり! それと出町君と古野君ね? 遠いところをようこそ」


 出迎えてくれたのは家政婦の安藤忍さんだった。40歳くらいの人の良さそうな女性だ。 


「お荷物はお部屋へ運んでおきますから、どうぞ食堂へ。お食事の準備ができてますよ」


 お食事、と聞いた途端、それまで死んだようだった出町が元気を取り戻した。安藤さんに食堂の場所を聞くと、普段のナマケモノぶりを感じさせない猛ダッシュで廊下に消えた。それを見てさおりが少し微笑んだ。

 食堂は洋風の造りになっていた。大きなテーブルには既に小早川家の人間が勢揃いしていて、出町もなぜかその輪に溶けこんでいた。恰幅の良い老人の隣の席にちゃっかり座って、よく分からない話で盛り上がっている。


「もしかしてあの老人が……?」


「うん。紀夫おじいちゃん。小早川家の当主よ。その横にいるのがわたしの両親。その正面がたかしお兄ちゃん。東京の国立大に通ってるの。」


 ますます盛り上がっている出町をよそに、俺はたかしさんの隣に座った。たかしさんは真面目な風貌ではあるが気さくな人でいろいろとこの家のことについて話を聞かせてくれた。さおりとの関係を聞かれたのでただの友達だと答えておいた。


「ウォッホン!!」


 突然の咳払い。


「えー。諸君。それから東京から来た高校生たち。よく聞いておいてくれたまえ」


 紀夫だった。突然立ち上がって声を張り上げるもんだから家族でさえ驚いてるじゃないか。至近距離で大声を浴びせられた出町は耳をおさえていた。


「おかしな脅迫状が届いたことは諸君も承知の通りだと思う。じゃが、あんなもんは頭のイカれた野郎が書いたに決まってる。さっさと忘れて良い年末にしようじゃないか!」

 若干、迫力に気押されてはいたが、小早川一族は皆盛大な拍手を送り、そのまま昼食は続いた。


「おい、古野」


 食後の紅茶を飲んでいると、出町がだいぶ疲れた様子でやってきた。


「何か情報収集はできたのか?」


「情報収集?」


 何の話だよ。


「バーカ。せっかくの情報収集タイムだって言うのに、暢気に食事してたのか? まったく……」


 ちょっとムッとした。お前と違って俺は探偵でも何でもないんだから、情報収集するならそうと言っておいてくれよ。無論、こんなことを言うとまたナマケモノモードに入ってしまうから口には出さないが。


「じゃあお前は何か掴んだのかよ?」


「もちろん」


 当たり前だろ、とでも言いたそうな表情で出町は何かを俺に差し出した。どうやら写真のようだ。


「これがどうかしたか?ただの家族写真だろ」


「よく見てみろよ」


 10年くらい前の写真だろうか。赤いランドセルを背負ったさおりを中心に兄のたかし、父親の渡、母親の水穂、紀夫、そして30歳くらいの男性が桜の下に集まって微笑んでいる。


「この男性は?」


「やっと気づいたか」


 出町がニヤリと笑う。


「小田広成さんと言うそうだ。何でもその頃紀夫さんが県議会議員をしてたそうで、その秘書らしい。10年前に謎の失踪をしているそうなんだが……。どうだ? 今回の件と関係あると思わないか?」


「どうだろうなぁ? 10年も前の話だろ? 今さら出てくるとは思えないけど」


 にべもない態度にムッとしたのか、出町は「じゃあ、自分で調べる!!」と言って食堂を出ていってしまった。



 紅茶を飲み終えて食堂を出ると、さおりが待っていた。なぜかそわそわしている。


「どうしたの?」


「お兄ちゃんが散歩に行っちゃったの。雪がひどいからって安藤さんが止めたんだけど聞かなくて……」


「さ、散歩!?」


 眼鏡をかけたたかしさんの顔が浮かぶ。とてもこんな雪の中を散歩に行くような人とは思えないが。


「ま、まあ。大丈夫だと思うよ? 俺たちならともかく、たかしさんはここの地理にも詳しいだろうから」


「で、でも・・・」


「心配し過ぎだよ。それより聞きたいことがあるんだけど良い?」


 さおりはしばらく心配そうに窓外を眺めていたが、ようやく「何?」と答えてくれた。


「小田広成さんのことなんだけど」


 一瞬にしてさおりの表情がこわばる。うん? まずいこと聞いちゃったか?


「あ……うん。小田さんね。わたしはあんまり覚えてないんだけど、お兄ちゃんは勉強を教えてもらったりとかいろいろとお世話になってたみたい。だから突然いなくなっちゃった時はお兄ちゃん泣いてたわ……」


「なるほど……。小田さんの家族については何か知ってる?」


「お兄ちゃんから聞いた話だと両親は既に他界してたそうよ。お兄さんかお姉さんがいたらしいけど……そこまで詳しくはお兄ちゃんも覚えてないみたい」


「そっか……ありがとう」


 まだたかしさんを心配しているさおりを置いて俺は三階に用意された俺たちの部屋に戻った。俺だって情報収集くらいできるんだぜ!



***



 その頃――。



「バカ野郎!!」


 紀夫は男を殴り飛ばした。男の名は山原光蔵。紀夫の主治医だ。床に崩れ落ちた山原は紀夫を睨む。


「今さらバレるわけなかろう! 10年も前の話だぞ。あんな脅迫状ハッタリに決まっとる。お前は何もしゃべらなくていいんだ! 分かったらとっとと自分の部屋に帰れ、山原!!」


 その一部始終を扉の隙間から何者かがのぞいていた……。



***



 悲鳴が上がったのは午後6時を少し回った時だった。自室でゲームに興じていた俺と出町は飛び起きると悲鳴の聞こえたあたりへ急ぐ。どうやら2階から聞こえたようだ。


「どうしました!」


 出町がそう叫びながら階段をかけ下りると、2階の廊下にさおりの母親の水穂が座りこんでいた。その目の前のドアからは明かりが漏れ、水穂の目はその部屋の中を見つめて見開かれている。


「水穂さん、いったいどうし……」


 部屋を覗きこんだ出町が絶句する。いったい何が? ようやく追いついた俺も部屋を覗きこむ。


「!」


 そこにあったのは、胸部をナイフで刺されフローリングの床に横たわる紀夫の死体だった。


 悲鳴を聞きつけた皆も集まってくる。いつの間に戻ったのか、たかしさんもいた。


「水穂!どうしたんだ!」


 さおりの父、渡さんが駆け寄ってくる。


「来ないでください!」


 そこに出町の鋭い声が飛ぶ。渡さんは思わず足を止めた。


「出町くん。いったいどうしたって言うの?」


 さおりも後ろの方から恐る恐る声をかける。言いにくそうな出町に代わって俺が答える。


「紀夫さんが……殺されました」


 それが逆効果だった。一同は堰を切ったようにドアへとなだれ込んできた。


「きゃあああああ!」


 さおりの痛ましい悲鳴が上がる。他の皆も一様に絶句していた。


「皆さん揃っていらっしゃいますか?」


 出町が静かに声を出す。しばらく呆気にとられたり涙を流したりしていた一同は、今度は互いの顔を確認し合う。


「あら? 山原先生がいないわ」


 それに気づいたのは安藤さんだった。


「誰です?山原先生というのは」


 山原という人物を知らない俺と出町は聞き返す。


「紀夫さんの主治医の方です。今日はうちにおられるはずなんですが……」


「その方の部屋は!?」


 安藤さんが指さしたのはわずか2部屋先のドアだった。これだけの騒ぎが聞こえないはずはないんだが。


 今度は一転、山原氏の部屋へ集まる一同。出町がドアを開けようとするが鍵がかかっているらしくドアはびくともしない。


「私、合い鍵を取ってきます!」


 安藤さんが駆け出したその時、外からものすごい水音が聞こえてくる。そしてバサバサと水しぶきが上がるような音。やがてそれも聞こえなくなる。


「たしかこの部屋の下は池……!」

 

 誰かがそうつぶやくと、出町はドアに体当たりを始めた。途中からたかしさんも加わる。やがて木製のドアは分厚い音とともに吹き飛ばされた。


 そこには誰もいない。床に血痕が散らばり、窓は開け放たれて雪が舞いこんできていた。出町を筆頭に一同は、血痕を踏まないようにしてその窓に近寄る。


「山原先生!」


 今度は静かな悲鳴。


 山原氏は冷たい師走の池に浮いていた。

 急展開&拙い文章ですみません。皆さん頑張って推理してみてください。


被害者

 小早川紀夫・・・刺殺

 山原光蔵・・・・溺死


犯人は誰か?

 小早川さおり・・・東都高校2年

 小早川たかし・・・さおりの兄

 小早川渡・・・・・さおりの父

 小早川水穂・・・・さおりの母

 安藤忍・・・・・・家政婦


 (小田広成)・・・・失踪した紀夫の

元秘書

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