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名探偵はあてにならない。  作者: 龍
CASE:5 探偵クラブの怪事件
17/34

第17話  恋の行方【解答編】

◇あらすじ◇

 探偵クラブの部室である書庫で発生した、本の盗難事件。犯人の正体とその動機とは!?


◇事件関係者◇


 出町昇之介(でまち しょうのすけ)・・・東都高校2年。探偵クラブの創設者である、天性のナマケモノ探偵。


 古野直翔(ふるの なおと)・・・東都高校2年。探偵クラブのメンバーで出町の助手を務める。


 佐伯青葉(さえき あおば)・・・東都高校1年。新聞クラブに所属。花粉症。


 沖津博美(おきつ ひろみ)・・・東都高校数学教師。探偵クラブの顧問。


 森村(もりむら)まどか・・・東都高校2年。出町の幼馴染み。


 榎田孝平(えのきだ こうへい)・・・東都高校2年。今回の依頼人。

 探偵クラブ蔵書盗難事件(命名:古野)があった翌日。出町、古野を含めた容疑者6人は再び書庫に集められていた。昨日、出町に何かを頼まれていた沖津先生が、いつになく険しい顔で話を始める。


「昨日、探偵クラブの部室である書庫から、本棚1つ分の本が全て盗まれるという重大な(?)事件が発生しました。書庫の前に設置された防犯カメラの映像を解析するなど、顧問として本の捜索に尽力しましたが、残念ながら本は見つかっていません」


 尽力したのは実質的には出町だったように思うが、その出町は半分寝ているようだったので、古野は何も言わなかった。


「そこで、苦渋の決断ではありますが、警察に動いてもらおうということになりました。この件については既に校長に報告し、早ければ明日にも警察が捜査に乗り出すことになるでしょう」


 その場にいた、出町を除く4人の生徒の目が、いっぱいに見開かれた。


「これはれっきとした盗難事件です。警察が捜査をするのは当たり前ですからね」


 沖津はそう言い残し、職員室へと戻っていった。残された生徒たちは皆一様に顔を曇らせ、重い足取りで書庫を出ていく。警察沙汰になるとは誰も想像していなかったらしい。


「出町、お前警察に丸投げしようっていうのかよ」


 古野は、相変わらずまぶたの重そうな出町に問う。すると、出町はにやりと笑って答えた。


「いや、いくらナマケモノだからってさすがにそのつもりはないし、そもそも警察にはまだ知らせていないよ」


「ん? どういうことだ?」


「答えはもうすぐはっきりするよ」


 出町はそう言って、またにやりと笑った。



***



 下校時間をとっくに過ぎ、真っ暗になった書庫。そこに、段ボール箱を乗せた台車を押す生徒が近づいてきていた。辺りをキョロキョロと見回しており、明らかに挙動がおかしい。やがて書庫の扉の前まで来ると、その生徒は慎重に扉を開ける。部屋の中を念入りに見渡し、そろりと侵入する。落ち着いた手つきで段ボール箱を開け、中から何かを取り出そうとした、その時。


「!!」


 突然、明かりがついてその生徒は声にならない悲鳴をあげた。無人と思われた書庫には、出町と古野が隠れていたのだ。2人の姿を確認したその生徒はへなへなと座りこむ。


「やっぱりお前だったのか、榎田」


 ため息まじりに出町がそう言うと、その生徒_榎田は無言でうなずいた。


◇◇◇


 事情を知らされていなかった古野は驚きを隠せなかった。書庫に潜んでいれば犯人は必ず現れると出町に言われ、その通りにしていたら現れたのは榎田だったのだ。


「警察沙汰になると思ってその前に本を返しに来たんだろ?」


 出町の問いに、またしても榎田は無言でうなずく。沖津のしていた警察云々の話は、出町が仕組んだ狂言だったと気づいたらしい。


「で、でも出町。榎田はいったいいつ、本を運び出したんだ?」


 古野がずっと疑問に思っていたことを口にすると、出町は淡々とした口調で説明を始める。


「もちろん、最初に榎田が生徒会の資料が入った段ボール箱を書庫に持ちこんだ16時30分の時点で、だよ」


「でも、その後に青葉ちゃんが撮った写真では、本はまだ消えてなかったはずだ」


「確かにそう見える。でも忘れたのか、古野。あの写真のおかしなところ」


 古野は例の写真を思い出す。もちろん忘れてなどいない。


「ああ……。でもあれと事件とどういう関係が?」


 出町はすぐにはその問いに答えず、2人のやり取りをよく分からないという顔で聞いていた榎田に、青葉の撮った写真について教える。榎田はようやく事情をのみこんだらしい。


「さて、じゃあまず、あの写真のおかしな点から説明しよう」


 出町は説明を再開する。


「16時47分に撮られたあの写真には、本棚は7つしか映っていなかった。ところが、半年前の文化祭で撮られた写真には本棚は8つ映っていて、今も本棚は8つある。つまり、青葉ちゃんが写真を撮った時点で、本棚は1つ減っていたということになるんだ」


 それくらいは古野にも分かる。問題はそれが示す意味だ。それを聞くと出町は、あくびを一つしてから答えた。


「きわめて単純なからくりだよ。つまり榎田は、16時30分に書庫に入ったとき、持ちこんだ段ボール箱から資料を全て取り出し、代わりに本を詰めこんだ。それから、空になった組み立て式の本棚を解体し、それも箱に入れて持ち去ったんだ。そうすれば、本棚が一つ減っただけで、パッと見では本は盗まれていないように見える。あとは、17時10分にもう一度書庫に入ったとき、解体した本棚を持ち込んでその場で組み立て、再び並べておくだけでいい。恐らく榎田は、書庫の前に防犯カメラが設置してあるのを知っていて、犯行時刻を分からなくするためにそんな手のこんだことをしたんだろう」


 出町の説明を古野は唖然として聞いていた。目の前でうなだれる榎田がそれだけのことをやってのけたという事実に驚愕していたのだ。


「……完璧だ、出町。お前の言う通り、本を盗んだのは俺だ」


 榎田の敗北宣言を聞いた古野は、もう一つ疑問に思っていたことを口にする。


「なんで本を盗んだんだ? やっぱり出町に挑戦するのが目的だったのか?」


 すかさず答えたのは出町だった。


「いや、それは恐らくカムフラージュだろう」


「じゃ、じゃあいったい……?」


「真の動機は……ラブレターかな」


 出町が言うと、榎田は苦笑して答える。


「やれやれ……。参ったなあ。その通り、俺の目的はラブレターを取り戻すことだった」


「……どういうことだ? 俺にはさっぱりだぜ」


 勝手に納得する榎田と出町に対し、蚊帳の外に出された古野が口を挟む。榎田は自虐的な笑みを浮かべたまま話を続けた。


「自分でもバカな話だ。出町にラブレターの捜索を依頼したあとで、ラブレターの在処を思い出したんだよ」


「在処?」


「図書室でこっそりラブレターを書いていた俺は、人が来る気配を感じてとっさにその辺にあった古本にラブレターを挟んだんだ。でもそれがどんな本だったかを思い出せなくて、司書のおばちゃんに聞いたら古本は書庫に移したっていうんだ。それで、その本が入った本棚は特定したんだけど、どの本かは分からなかったから仕方なく本棚の本全てを盗んで調べることにしたってわけだよ」


 その話の間、古野は終始呆れていた。それなら、わざわざこんな手のこんだ事件を起こす必要はなかったのではないか。そう言うと、榎田は力なく首を横に振る。


「動転してたんだ。早くしないと、出町に先を越されるんじゃないかと」


 そこで名前を出された出町はキョトンとする。古野はあわててジェスチャーで榎田を制止し、出町を帰らせようとした。ここで森村まどかの名前を出されたら、さすがにマズいだろう。


「さ、さーさー。もう帰ろうぜ、出町。事件も無事解決したことだしさ」


 だが出町はなかなか動こうとしない。


「ちょっと待て。榎田、お前にはまだ聞きたいことがある!」


「い、いいから帰るぞ! 出町」


 ナマケモノにあるまじき驚異の力で踏ん張っていた出町だったが、古野に引っ張られてゆっくりと書庫から引きずり出されていく。


「お前のラブレターの宛先は誰なんだよ!? 教えてくれ、榎田!」


 出町の声が次第に遠ざかっていくのを聞いていた榎田は、ポケットからラブレターを取り出す。ついさっき、古ぼけた推理小説の間に挟んであったのを見つけたのだ。


「出町はやっぱり……森村のことを……。フフ、俺じゃあ勝てないよなあ、あいつには」


 想いの丈を丁寧にしたためたラブレター。榎田がそれを破り捨てる音だけが、夜の書庫に響いていた。



***



「へええ。あの榎田くんがね……。でもまあ良かったじゃん。事件が無事に解決して」


 翌日の放課後、部活をとっとと切り上げて帰路についていた出町と古野は、偶然まどかと合流していた。

 事件については公にするほどのものでもなかったため、榎田の行為は不問に付された。たださすがにまどかには黙っておけず、古野から話しておいたのだ。


「全然良くないよ。結局、榎田がラブレターを送るはずだったのが誰かは聞けずじまいだし」


 そう言って出町は古野をじろりと睨む。榎田から聞けないなら、事情を知っているらしい古野から聞くしかないとでも思っているのだろう。古野は知らん顔をした。


「そんなことより出町、俺としてはお前の話が聞きたいんだけどなあ」


 出町の顔に一瞬焦りが浮かんだのを、古野は見逃さなかった。


「お、俺の話って何だよ」


「あれー、ごまかすのか? ここで言ってもいいんだぜ? 出町の好きな……」


「バ、バカ! 俺に恥をかかせようっていうのか!?」


「なーに赤くなってんだよ。お前の好きな……とまでしか言ってないだろ?」


 出町はむぅと唸る。不機嫌そうな顔が不思議とよく似合うので古野は思わず吹き出してしまった。


「んー。わたしも気になるなあ、昇ちゃんの好きな人。そう言えば、昇ちゃんとはそういう話したことないかも」


 まどかが割って入ってくる。出町は余計に動揺していた。


「だからその名前で呼ぶなよ! それに何で俺の好きな人の話になってんだよ……!」


「ええ? わたしに言えないってことは、わたしの知ってる人なんだ!」


「い、いやそれは……」


「んー?」


 まどかに顔を覗きこまれて出町は完全にうろたえていた。どうやら出町は、まどかには弱いらしい。


「ハハハ。出町、お前いつもの飄々とした態度はどうしたんだよ。完全にやられっぱなしじゃないか。そんなんじゃ、肝心なときに犯人を追い詰められないぜ」


「う、うるさい! とっとと帰るぞ!」


「あ、ズルいよ昇ちゃん、待ちなさい!」


 耐えきれずに逃げ出した出町をまどかが追いかける。これではどっちが探偵か分からないなと苦笑しつつも、たまにはこんな出町の姿を見るのも悪くないと古野は思うのだった。

CASE:5終了! 出町くんの恋の行方はどうなるんでしょうねー。

さて、次回はシリーズ初の倒叙モノです。出町くんの印象が変わってみえるかも……?


次回

 CASE:6 The malpractice


 カリスマ外科医が、過去の医療ミスを隠蔽するために犯した殺人。警察は自殺として処理しようとするが、たまたま検診に訪れていた出町は現場の状況に疑問を抱き……。

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