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名探偵はあてにならない。  作者: 龍
CASE:5 探偵クラブの怪事件
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第16話  間違い探し

◇あらすじ◇

 クラスメイトの榎田孝平から、紛失したラブレターの捜索を依頼された古野。何とかして出町の協力を取り付けるが、そんな矢先。書庫の本棚の一つから、全ての本が盗まれるという奇妙な事件が発生した。犯人の目的は何か? そして、ラブレターの行方は……?


◇事件関係者◇


 出町昇之介(でまち しょうのすけ)・・・東都高校2年。探偵クラブを創設した、ナマケモノ体質の名探偵。


 古野直翔(ふるの なおと)・・・東都高校2年。出町の助手で親友。探偵クラブのメンバー。


 佐伯青葉(さえき あおば)・・・東都高校1年。新聞クラブに所属している。花粉症。


 沖津博美(おきつ ひろみ)・・・東都高校数学教師。探偵クラブの顧問。


 森村(もりむら)まどか・・・東都高校2年。出町の幼馴染み。


 榎田孝平(えのきだ こうへい)・・・東都高校2年。今回の依頼人。

「……というわけなんです。沖津先生」


 古野は、出町の指示で職員室に沖津を呼びに行き、本が盗まれたことを報告した。沖津は一瞬困惑したようだったが、顧問としての責任を果たすべく書庫へとやってきた。


「あら、ホントに盗まれちゃったみたいね」


 空っぽの本棚に貼り付けられていた紙を見て沖津は不敵な笑みを浮かべた。


「まさか私以外にも出町くんに挑戦しようとする者がいたとはね……」


 その出町は、さっきからずっと腕を組んだまま黙りこくっていた。仕方なく古野は沖津と話を続ける。


「じゃあ先生は、誰かが出町に挑戦するために本を盗んだっていうんですか?」


「この貼り紙を見る限りではそうでしょ。それとも、それ以外に本を盗む理由なんてある?」


 言われてみればその通りだが……。


「とりあえず、書庫の前の防犯カメラの映像を調べてみましょう。もしかすると犯人が映ってるかも」


 そう言うと、沖津は急いで書庫を出ていく。それを見送った古野は、出町を小突く。


「おい、何か疑問でもあるのか?」


 出町はゆっくりと顔を上げ、本棚の方を向く。


「犯人の目的は、本当に俺への挑戦なんだろうか?」


「どういうことだよ」


「挑戦にしちゃ、やってることがあんまりパッとしないんだよ。どうせやるなら、全ての本棚から本を消すくらいのことをしないとインパクトがない。どう考えても、ずらりと並んだ本棚のうちの一つだけを選んで本を盗み出す意味が分からないんだ……」


 出町に言われ、古野も本棚に目を向ける。書庫の壁に8つ並んだ、組み立て式の小さな本棚。そのうちの右から3番目の本棚だけが、全ての本を抜き取られている。その光景はよく見ると確かに奇妙だった。



***



「……というわけで、防犯カメラの映像をチェックした結果、放課後、書庫に入ったのはこの6人だけだということが分かりました」


 沖津に呼び出され、古野と出町は警備室に来ていた。そこには困惑した顔の老警備員に加え、青葉、まどか、榎田の3人が集まっていた。沖津の説明によれば、書庫前に設置された防犯カメラに映っていたのは、沖津を含めた6人だけなのだという。


「つまり、この中に本を盗み出した犯人がいるということか……」


 出町が難しい顔でつぶやくと、すかさず榎田が口を挟む。


「それにしても、見事に6人に絞りこまれたな。まるで推理小説だ」


「……先輩、まさかわたしを疑ってるわけじゃないですよね……?」


「昇ちゃん、わたしは本なんて盗んでないわよ?」


 青葉、まどかも口々に文句を言う。出町はそれらを手で制して沖津に目を向けた。


「先生、とりあえず映像を確認してみませんか。話はそれからです」


◇◇◇


 映像は16時の時点から再生された。そこには、図書室に向かうべく出てきた古野に続き、沖津とまどかが出てくるのが映っている。


「この時点では、まだ本は盗まれてなかったよな」


 古野が同意を求めると、出町がゆっくりとうなずいた。

 早送りになった映像はしばらく無人の廊下を映していたが、16時20分、書庫へと入るまどかの姿を捉えた。しかし、1分もしないうちにまどかは出てくる。


「何をしてたんだ?」


「あ、えーと……。昇ちゃんの様子を見に来たのよ」


 出町の問いに苦笑いで答えるまどか。


「俺の様子?」


 出町は首をかしげたが、それ以上詮索はしなかった。映像で見る限り、まどかが何も持ち出していなかったからだろう。

 再び映像が再生されると、今度はすぐに人が映る。それは、段ボール箱を3つも積んだ台車を押しながら書庫に入る榎田だった。時刻は16時30分と表示されている。


「うーん、あからさまに怪しいな。榎田、この段ボール箱は何なんだ?」


 古野が疑いの目を向けると、榎田はすかさず首を振って否定する。


「あー、いや、これはな。生徒会の友達に頼まれて、いらなくなった書類を運んでたんだ。書庫に持っていってくれって言われたんだよ」


「ホントか、それ」


「あ、当たり前だろ」


 榎田は古野をじっと見つめる。対応に困った古野は、出町に助けを求めようとするが、出町は映像を見たまま微動だにしなかった。

 5分ほどで榎田は出てきた。来たときと同じく、3つの段ボール箱を台車に乗せて去っていく。


「やっぱり怪しいぞ。その段ボール箱なら、本棚一つ分の本を入れることは可能なはずだぜ」


 古野はなおも榎田を疑っていたが、再び映像に動きがあったため、視線を戻した。

 16時45分と表示されていた。一眼レフを持ち、マスクをした青葉がうきうきとした足取りで書庫へと消えていく。そのすぐ後、今度は古野が映った。


「お! これはあのときのだな」


 古野が青葉のほうを見ると、彼女はこくりとうなずいた。状況が飲みこめない様子の出町は、二人の顔を交互に見つめる。


「ええと、青葉ちゃんは何をしに書庫に入ったんだい?」


「あ、実はですね、クシュン……。発行する新聞に載せる特集記事で、探偵クラブを取材することになったんですよ。それで、部室である書庫の写真を何枚か撮らせてもらいました」


「ふーん。写真を撮ったんだね」


「あ、もしかして、マズかったですか?」


「いや、そういうわけじゃなくて……。その写真のデータ、よければあとで見せてくれないか?」


「ええ、いいですけど……」


 出町の目に独特の光が宿る。何か手がかりをつかんだらしい。

 古野と青葉が書庫を出たあと、17時10分に、再び台車を押した人物が映った。ただし、今度は榎田ではなく沖津だ。段ボール箱を2つ積んでいる。


「えーと、沖津先生。何を運び入れたんですか?」


「……図書室にあった古本よ。新刊が入るとスペースが足りなくなるから、古いのを書庫に入れることになってるのよ」


 3分ほどで沖津は何かを持って出てくる。見たところ雑誌のようだ。


「これは科学雑誌よ。出町くん、また枕代わりに雑誌を持ち出したでしょ。それを返しにいったの」


 ばつの悪い顔を浮かべる出町。また雑誌を枕にしていたのか、とさすがの古野も呆れて物も言えなかった。

 その後、17時20分に榎田が再び映った。今度は段ボール箱1個を抱えている。どうやらまた生徒会の書類を持ってきたらしい。2分ほどで書庫から出てきたが、段ボール箱は持っていなかった。

 次に現れたのは古野だった。17時40分。本の消失が発覚した時間だ。


「これで全部か……」


 出町が大あくびをする。それから皆の方を向いてゆっくりと話し始めた。


「この映像を見る限りでは、まだ誰が犯人かは分からない。問題は“いつ本が盗まれたか”。そして、“どうやって盗まれたか”の2つだ」


「昇ちゃん、ホントにそう思ってるの? どう考えてもいちばん怪しいのは榎田くんじゃない!」


 まどかに名指しされた榎田は、心外だという表情を浮かべる。


「だ、だから俺じゃないって! それより、出町と古野はどうなんだよ? 探偵と助手が犯人だっていうパターンは、推理小説でもたまに見るぞ」


 そう言われ、出町と古野は互いに見つめあう。それからあわてて首を振った。


「出町はこれまで何度も事件を解決してきた! 盗みなんてするような男じゃないことは俺が保証するぜ」


「そうか? 居眠りばっかしてて、授業もまともに受けてないじゃないか。あてになるもんか!」


 榎田は「出町犯人説」がお気に入りらしい。古野は反論するのをあきらめ、出町に判断を委ねた。


「ふぅむ。とりあえず今日は皆帰っていいよ。古野と青葉ちゃんはちょっと残ってくれ」


 出町の一言で一同は散会した。



***



 出町の指示で古野と、カメラのデータを入れたノートパソコンを持った青葉は書庫に集まっていた。既に下校時間を過ぎていたが、沖津に頼んでもう少し残らせてもらったのだ。


「さてと、じゃあ青葉ちゃん。データを見せてくれ」


 ソファーに深く腰を下ろした出町がそう言うと、青葉は手慣れた操作でノートパソコンを起動させた。

 問題の画像が画面に表示される。16時47分に撮影された書庫の写真には、しっかりと7つ並んだ本棚が映っている。この時点ではまだ本は盗まれていないようだ。


「ダメだ、出町。本はまだ消えてない。ということは、これ以降に書庫に入った沖津先生と榎田が怪しいってことになるんじゃないか?」


「でも、古野先輩。沖津先生は雑誌しか持ち出してなかったですし、榎田先輩は段ボール箱を持って入りましたけど、出てくるときに箱は持ってませんでしたよ」


 青葉にそう指摘され、古野はしばし沈黙する。それに構わず、青葉は出町と問答を始めた。


「犯人が窓から出た、とは考えられないでしょうか」


「いや、それは不可能だと思う。窓には内側から鍵がかかっているし、大量の本を持ち出すには、窓は狭すぎる」


「うーん。じゃあ、その辺に積んである古本を本棚に入れておいて、盗まれた時間を誤認させたとか」


「良いアイデアだけど、古本はどれもくたびれた本ばかりだ。本棚に入ってるのは割りと新しい本だから、古本が紛れていたらたちまちバレるだろうね」


 青葉の考えについては、出町も一度検討したらしいが、どうやらその可能性は却下されたようだ。

 古野はそこで、あることを思い出す。


「出町! 榎田の依頼、忘れてないだろうな!」


「ん? ああ、もちろん。今回の事件はどうやらそれに関係しているらしい」


「ホントかよ!」


 古野と出町のやり取りを、青葉はよく分からないという顔で聞いていた。さすがにラブレターのことは話せないので秘密にしておくしかない。


「……というか、犯人はもう分かってるんだけどね」


「何!? 誰だよ、それは」


 古野が詰め寄ると、出町は笑ってごまかす。


「そうあせるなって。ところで青葉ちゃん、さっきの画像、俺にも見せてくれないか」


 青葉はノートパソコンを出町の方に向ける。その画像を見た瞬間、出町の顔に満面の笑みが浮かんだ。


「ハハハ、やっぱりね。なあ、古野、お前は気づかないのか? この画像のおかしなところに」


「おかしなところ?」


 古野も出町の横から画面を覗きこむ。本棚が映っているだけで、特におかしなところはないように思える。


「やれやれ……。青葉ちゃん、以前にこの書庫を撮った写真はないかい?」


 青葉は素早い動作で画像フォルダの中を確認している。やがて該当する画像を見つけたのか、再び出町の方にパソコンを向けた。


「ほら、古野。これで分かるだろ? 初歩レベルの間違い探しだ」


 ムッとしつつも、古野は画像を凝視する。半年前の文化祭で撮られたものらしい。本の配置は多少変わっているが、8つの本棚は正しく並んでいる。

 しばらく画像を見ていた古野は、やがて画面から目を反らし、目の前の本棚をしげしげと見る。それからもう一度、16時47分に撮られた写真を見てみる。そこでようやく「間違い」に気づいた。


「どうやら分かったようだね」


「ああ……。でも、これはいったいどういうことなんだ?」


 出町はにやりと笑う。


「今日はもう疲れたし、説明は明日にしよう。あ、そうだ。沖津先生を呼んできてくれ」


「沖津先生を? どうして?」


「先生にはやってもらいたいことがあるんだ。そうすれば犯人は、自ら名乗り出ることになる」


 出町の眠そうな顔にはかすかに、絶対の自信が浮かんでいた。

本を盗んだのは誰か?

 出町昇之介

 古野直翔

 佐伯青葉

 沖津博美

 森村まどか

 榎田孝平


 次回、解答編です。今回は、明らかに怪しい人は一人しかいないのですぐに犯人は分かると思います。

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