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名探偵はあてにならない。  作者: 龍
CASE:4 降霊会殺人事件
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第13話  右手首の傷

あらすじ

 “ブラッディメアリー”なる人物の手で次々と無残な死体と化していく『ミディアム』のメンバーたち。犯人の目的は何なのか?


容疑者


 水野康一みずの こういち・・・『ミディアム』のメンバーで、白馬大学3年生。オタクに間違えられやすいが、オタクではないという。


 八原俊也やつはら としや・・・『ミディアム』のメンバーで、白馬大学2年生。眼鏡をかけた美青年。


 佐和山灯里さわやま あかり・・・『ミディアム』のメンバーで、白馬大学2年生。オカルトは苦手。


 城戸健治きど けんじ・・・『ミディアム』のメンバーで、白馬大学2年生。理系エリートのチャラ男。


 浅沼春奈あさぬま はるな・・・『ミディアム』のメンバーで、白馬大学2年生。美人だが、気が強い。

 出町のベッドのすぐそばに、大剣を携え、血染めのローブをまとった人物が立っていた。

 どういうわけか体が動かせない出町は、ゆっくりと目を閉じた。余計なことに首をつっこみすぎたのか、と後悔してももう遅い。自分は犯人の手で殺されるのだ。そう言い聞かせて。



◇◇◇



 まぶしい光に目が覚める。

 気がつくと朝になっていた。相変わらず体が重い。やっとの思いで体を起こした出町は、大きく息を吐き、それから自分の両手を見る。異常はない。

 カーテンが開きっ放しになっていた。昨夜、月光に照らし出された人物のことをまざまざと思い出す。あれは夢だったのだろうか。

 ―何やら階下が騒がしい。出町は急いで着替えると、悪夢の余韻を振りはらうように小走りで部屋をあとにした。



***



「……やっと名探偵のお出ましだ」


 やれやれといった様子で、椅子にだらしなく座っていた古野が立ち上がった。青葉、八原、佐和山、城戸、浅沼も揃っているが、水野はいない。


「水野さんはどうしたんだ?」


「……今朝、部屋で死んでいるのを見つけたよ」


「!」


 眠そうだった出町の目が見開かれる。


「ドアが開いていたから部屋に入ってみたらベッドに横たわってたんだ。首に絞められた跡があったぜ……」


 死体の第一発見者になるのは初めての古野の口調は少し震えていた。


「待て、古野。死体は切断されていなかったのか」


「え? ああ。絞殺の痕跡以外には、ほとんど傷はなかった。あとは、右の手首の切り傷ぐらいか」


「右手首に傷?」


「とりあえず現物を見てみろよ」



 出町は古野に連れられ、2階の水野の部屋へと向かう。

 水野は確かにベッドの上に横たわっていた。カーテンは閉まっており、電気が消えているので部屋は薄暗い。部屋は特に荒らされているということはなく、壁に「ブラッディメアリー」からのメッセージが書かれているということもなかった。そして何より死体は切断されていなかった。寝ているところを襲われたのか水野はパジャマ姿で、抵抗した跡はあったが、死体に目立った損傷はなかったのだ。


「……確かに傷があるな」


 水野の太い右手首に、何かで切りつけた跡が残っていた。傷はそれほど深くない。ベッドのそばにカミソリが転がっており、刃に血が付着していた。


「なあ、出町。どう思う?」


「うーん……。犯人がやったとは思えないな。もし犯人が切りつけたのなら、カミソリは回収しているはずだ」


「ってことは……。水野さんが自分で切ったってことか?」


「ああ、死の間際にな」



***



 恨めしいくらいの青空が広がっている。本当なら家でゴロゴロできたのにな、と古野はため息をつく。

隣では出町と青葉が難しい顔でうなっていた。

 寺田の死体が発見された礼拝堂の前に来ていた。正直に言って、今回ばかりは出町の助手を放り出して泳いででも帰ろうかとさえ思った古野だったが、結局はこうして調査に付き合わされることになるのだ。


「……もう一度、昨夜のことを思い返してみよう」


 ようやく出町が話を始めた。


「寺田さんの提案で、急きょ降霊会が開かれることになった。午後8時、佐和山さんが少し遅れてやってきた。寺田さんは現れず、水野さんの提案でそのまま降霊は始まった。この時点では、礼拝堂は真っ暗だった。そうだったよな?」


 出町が同意を求めたので、古野も青葉もうなずいて答えた。


「その後、降霊は約10分間にわたって続き、その後、浅沼さんがカーテンを開けたら礼拝堂から灯りが漏れていた。全員で礼拝堂に向かったが、ドアには内側から鍵がかかっていて、大広間にあったはずの鍵も消えていた。それで、体当たりでドアを破って中に入ってみると寺田さんのバラバラ死体があった。ドアの鍵は死体の右手が握っていて、窓はどれも内側から施錠されていて、天窓は開いていたが鉄格子がはまっていて人間の出入りは不可能……」


 つらつらと当時の状況を述べる出町に、古野は心底感心していた。これだけの能力が、なぜ日常で発揮できないのかと改めて不思議に思うくらいだ。


「謎は2つ。礼拝堂の灯りと、密室」


「たった2つですけど、厄介な謎ですね。出町先輩」


 青葉がそう言うと、出町は何度もうなずきながら礼拝堂を見上げた。


「確かうしろにハシゴがついてたな。何とか天窓をのぞければいいんだけど」


 それから古野のほうにちらりと視線をやる。その目は何かを語っていた。


「何だよ……! 俺に上れって言うのか!?」


「うん、それがいい。俺は運動神経には自信が無いし、青葉ちゃんは女の子だぜ」


 平然と言ってのける出町に対して古野はあきらめの表情をつくった。探偵モードの出町に何を言っても無駄だということは痛いほどよく分かっている。

 礼拝堂の裏手にまわると、ハシゴが設置してあった。それを上り、天窓から中をのぞく。


「うおっ!!」


「どうした、何かあったか古野」


 古野が驚いたのも無理はない。天窓の真下に寺田の切断死体が見えたのだ。火の消えた蝋燭がそれを取り囲むように並んでいる。

 そのことを出町に伝えると、出町は薄く笑う。


「なるほどね……。よし、古野。次は礼拝堂の中を調べるぞ」


 青葉は外で待たせておき、古野と出町が礼拝堂に入る。空気はひんやりとしていたが、相変わらず鼻を腐らせるような血のにおいは消えていなかった。死体も少なからず腐敗が進んでいるはずで、そのにおいも混じっているのかと想像すると背筋が一瞬凍りつく。


「やっぱりそうか」


 鼻をハンカチで覆いつつ寺田の死体を調べていた出町がつぶやいた。


「何か分かったのか?」


「まあな。やっぱり、死後硬直のせいで右手は鍵をしっかりと握った状態になってる」


「じゃあ糸とかで鍵を手の中に送り込むことはできないなあ」


「いやいや、糸なんて使わなくてもいいんだぜ」


 出町は笑った。


「いいか、古野。ブラッディメアリーは、意味のないことは絶対にしないんだよ。死体を切断するという、一見すると常軌を逸したような行動も、実はちゃんと目的があるんだ。その証拠に、水野さんの死体は切断されていなかったろ? つまり、寺田さんの死体がバラバラにされていたことにも理由があるんだ」


「うーん、どういうことだ?」


「……ま、それについては後で話すよ」


 出町はそこで言葉を切る。顔からゆっくりと笑みが消えた。


「なあ、古野。ちょっと聞いてくれないか」


「ん? どうした」


「笑うなよ……。実はゆうべ、目を覚ましたら、ベッドのそばに大剣を持った人物が立ってたんだ。マスクをしてて顔は分からなかったんだけど……」


「そ、それ本当か? そいつがブラッディメアリーなんじゃないか?」


「最初は俺もそう思った。だけどそいつは俺を襲わなかった―。だからただの夢かもしれない」


 どうも話が見えない。


「どうして起きて確かめなかったんだよ!?」


「いやー、一度は死を覚悟したんだぜ」


 結局へらへら笑いだす出町。いったい何が言いたいのだろう。


「でもな古野。そのことと、今朝の水野さんの死体を見て、ゆうべの、礼拝堂の灯りのトリックが見当ついたんだ!」


 そこで出町はガッツポーズをした。


「ホントかよ!」


「ああ。それで古野、窓を調べてくれないか。俺の推理が当たってれば、きっと何か痕跡が残ってるはずだ」


 出町の指示で古野は窓を調べ始める。

 やはり鍵はしっかりとかかっている。窓に穴があいているということもない。窓枠には蝋燭が置かれていた。


「それだっ! なぜ窓際にも蝋燭が置いてあるんだろう?」


「えっ……。降霊になぞらえてるんじゃないのか」


「床に並べられてるのはそうだろう。でもさっき言った通り、わざわざ窓際にまで置いたってことは何か理由があるからだとは思わないか?」


「うーん……」


「窓際に何か落ちてないか?」


 出町にそう言われ、古野は改めて窓際をまじまじと見つめる。そこには何かの燃えカスのようなものが残っていた。それを出町に伝えると、


「これで決まりだ」


 出町はもう一度ガッツポーズで応えた。



***



 大広間から中庭を見渡す。やはり何度見てもこの庭の美しさには言葉もない。ろくに手入れもされていないはずなのだが、中世ヨーロッパの宮殿の庭を想起させる整然とした美が広がっている。もはやこの庭自体が一つのミステリーだ。


「おい、ボウズ! 犯人が分かったってホントかよ?」


 声を上げたのは城戸だった。

 彼だけではない。八原、佐和山、浅沼の3人も大広間に集められていた。もちろん出町の指示である。青葉が心配そうに成り行きを見守っていた。


「はい。ブラッディメアリーを名乗り、橋本さん、石川さん、寺田さん、そして水野さんの4人を殺害した犯人は『ミディアム』のメンバーの中にいます」


 場に衝撃が走る。


「そ、そんな……」


「あ、あたしたちの中に犯人がいるっていうの!?」


「だとしたら動機は何だ?」


 お互いの顔を見つめ合うメンバー。その目に警戒心をたたえている。


「動機については俺の想像なんですが……。殺された4人は、いずれも『ミディアム』創設時のメンバーです。そうすると、もう一人の創設当初のメンバーで、2年前に自殺したという小林那月さんに関係があるんだと思います」


「でもあたしたち、小林さんて人のことは知らないわよ?」


 浅沼が言うと、他のメンバーもあわててうなずく。だが、出町はそれを冷めた目で見つめていた。


「本当でしょうか? まあ、動機については犯人に直接聞いてみるとして、今からその犯人の正体を暴きたいと思います」


 沈黙が訪れた。


「ヒントになったのは、今朝死体で発見された水野さんです。右の手首にカミソリで切りつけた傷が残っていました」


 自分の右手首を指さしつつ説明を続ける出町。古野は今朝の出来事を思い出していた。


「俺は、それが水野さんのダイイングメッセージではないかと推理したんです」


 そこまで言ったところで、出町は上着のポケットから輪ゴムを4つ取り出し、『ミディアム』のメンバーに一つずつ渡していく。


「出町、輪ゴムなんかでどうしようっていうんだよ」


 古野が詰め寄ると、出町は小さく笑った。


「ま、見てろって。今から犯人は、自ら名乗り出ることになるんだよ」


被害者

 橋本京介・・・絞殺

 石川真平・・・絞殺

 寺田紗希・・・絞殺

 水野康一・・・絞殺


“ブラッディメアリー”の正体は?

 八原俊也

 佐和山灯里

 城戸健治

 浅沼春奈


次回、いよいよ解答編です。皆さんは犯人が分かりましたか?

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