9 双傷
―――双子のマジックは、驚きの連続だ。
椅子に座り、布をかけた人間が消えた。
戻ってきて、また消えてを繰り返す。
次に水の中に入った少年と、少女が一瞬で逆転し、それでいて衣服も濡れていない。
まばたきしている間に何が起きたんだ。
どういう仕掛けか、未知への好奇心を煽られた。
日がくれて、マジックショーも終わる。
「ねぇお兄さん」
「なんだ?」
「見てくれてありがとー」
マジックを披露していた少年と少女だ。
にこにこと屈託のない笑みを浮かべている。
まさか声をかけてくるとは思わなかった。
俺は目立つ事をした覚えはない。
「俺に用でもあるのか?」
二人にたずねると、ケラケラ笑いだした。
「おもしろいからだよー」
「面白い?」
この二人は俺のどこが可笑しいと言っているんだ。
「こんなに晴れてるのに傘をさしてるんだもーん」
「帝都は雨が多いからな」
旅のマジシャンなら、この地の気候を知らなくてもおかしくないが。
「ボクはゾザ」
「あたしはザウ」
二人はほぼ同時に名乗った。
「…俺はレツだ」
「明日もまたマジック披露するからよろしくね!」
二人同時に、宣伝をして返った。
あの二人は子供だけで各地を転々としているのだろうか。
――――――
「ひっひいいいい!!」
「ほらほら!!さっさと出すもんダしなよ!!」
「ゼニ出すかナイゾウ売るか、どっちがいい~?」
「払います!!払います!!」
「はい、逝ってヨシ~」
―――――
「そろそろ夕飯ですよー」
ついさきほど知ったのだが、この宿屋の女将は、あの婆さんの娘らしい。
「今日の夕飯はキドニィパイですよ―」
「う…いらない。パンだけでいいよ」
「俺もパンでいいや」
「私もパス、パンでいい」
カツはうまそうに食ってる。
こいつはなんでも食うだろうからな。
「女将さん!!」
もう夜だというのに、訪れた客により静寂は切り裂かれた。
中年女性はそんなに慌ててどうしたんだ。
「どうしたのおとなりの奥さん」
「旦那が帰ってこないんだよ!!」
「お酒でも飲んでるんじゃない?」
「旦那は酒を飲めないんだよ…家は貧しくてそんな金もないしね…」
泉に――――
「嫌な予感がする…」
「借金はしていたのか?」
「ああ…ほんの少しだけどね」
――――沈められたか
「お気の毒にってやつだ」
「レツ、どこいくの?」
「通りすがりとはいえ、骨拾いはしてやらないとな」
「私もいく!」
「メルドラはまだ本調子じゃないだろ」
セッカはモバィルをいじっている。
カツはガツガツ晩飯を食っている。
この様子じゃついてこないだろう。
帝国兵に比べれば、金貸しなんて大したことなさそうだ。一人でいこう。
「あ、私もいくわよ」
モバィルをバッグにしまうセッカ。
「オレも!」
食ったばかりでよくそんなに喋れるなこいつ。
「カツ、セッカいくぞ。見知らぬ旦那が沈んだ泉に」
手当たり次第に路地の裏や泉を探す。
「あ、おい…なんで沈んだ前提なんだよレツ!?」
「あ、あの泉は精霊ウォーターが出るらしい」
「文献によると精霊ウォーターは超美形らしいわ」
精霊が出そうにないので、次にうつる。
「次の泉は…」
「泉じゃなくて池とか海とかさ…」
「オサレじゃないわ」
ぐだぐたやっていると、そこらで倒れている人間を発見した。
「おい、あんた。どうした」
「借金とりに!借金とりに!!」
「おちついて」
セッカがなにかを注射した。
ひとまずおっさんはだまった。
「おいらは借金をしちまって」
「知ってる」
おっさんは泣きながら語はじめる。
「二人の子供がめちゃくちゃこええ顔で取り立ててきてなあ」
「子供?」
二人の子供と聞いてなぜか、あの双子の顔がちらついた。
そんなまさか、考えすぎだ。
「返さないとナイゾウがやばいんだ」
「よく逃げられたな」
「いやーそれがな、めっちゃ美人な姉ちゃんが二人の子供をおっぱらってくれてようー」
おっさんはにやにやと思いだし笑いをはじめた。気持ちが悪い。
「あれは地上に舞い降りた女神様だ!!」
「奥さんに怒られてもしらねーぞ」
その美人とやらはともかく、借金取りのガキをどうにかしないとだ。
―――――
「フフフ…!」
「あいつなにもんだよ」
「しらない!!」
「早く逃げないと死ぬ!殺される!!」
「でもこいつ、逃げても追いかけてくるよ」
「バイバイ?」
「うわああ!」
――――――
「いるんだろ!!借金取り!!」
俺は廃屋の倉庫におとずれた。
「レツううう!」
「うわああああん!」
暗くてよくわからないが、ゾザとザウの声だ。
二人を倉庫から出す。
「フフフ…」
そのすぐあと、誰かが、倉庫から君の悪い笑いをしながら出てきた。
「お前は…」
「ジョク!!」
これはまずい、カツがまた悩殺されてしまう。
とにかくおっさんが見た美人はこいつで間違いない。
「レツうう!」
双子は怯えて、俺の後ろにまわった。
「こいつらに何をしようとしたんだ。言えよ」
「フフフ…」
口がきけないのか、馬鹿にしているのか、何も答えようとしない。
「なあ、あのオジサンが言ってた借金取りってその二人だろ?」
カツがいま思い出したという。
「そうなのか?」
俺は双子から距離をとる。
「まさか!」
半信半疑、だが親もなく子供がこんな怪しい場所にいること、おっさんの借金取りが子供なのとで辻褄があう。
「ち、ちがうよ~」
明らかに動揺している。