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Ⅵ 企み


「今日の宿屋、どうする?」


俺は両親が死んでからは妹と二人で暮らしていた。


よくよく考えれば、金は家から持ってきたもので、もうほとんど無い。


冒険者というのは、ただのカモフラージュ。


実際にはまったくそれらしいことをしていないのだ。


「依頼でも受けて、宿代稼ぐか」


まずは森を出るのが先だが。




森を歩いて、小一時間、嫌な気配が一つ近くにある。


どこだ――――。


「レツ!あぶない!」

メルドラに押し倒され、一緒に地面に倒れこんだ。


「助かったよメルドラ」

「うん」


目の前から現れたのは、筋肉質で大柄の男。


「“小娘”よく気がついたな…」

ニヤり、男は口の端を上げた。


鋭い眼光、常人のそれではない。

制服はソウのものと似ており、帝国軍の上位に値するようだ。


「あれ?こいつどこかで見たような…」


メルドラがなにかを思い出そうと、目を閉じながら思考をめぐらせている。


「知り合いか?」

帝国軍の仲間ならソウといる時にメルドラがこいつを見かけているとかかもしれないが。


「あ思い出した!こいつ兄さんの部下だよ!」

すっきり、といった表情のメルドラ。


「あなたたち、いつまで……」

「え?」

「あ…ごめん」


メルドラと密着していたことを、セッカに言われるまで忘れていた。



「まことなる某は、某は“シソヴ”新たなる世界の統治者たる真帝が為の右腕でありけり…」


また真帝か、いったい誰なんだそいつは。


「真帝ってなんだよ、皇帝とはどう違うんだ」

答えてくれるかわからないが、取り合えず聞いてみた。


「真帝は皇帝を殺すことを望まれる」

「なら真帝も皇帝のように、リシル…俺の妹の命を狙うか?」


「あの聖女か…真帝の望みに神仏など有りはせん」


――――真帝がなんだろうとリシルを狙っていないならどうでもいい。


「そうか、それでアンタは俺たちに用があるのか?」

こいつがただの、冒険者の俺たちに、用があるわけがないが。


「…皇帝を始末せよ」

「真帝のためか?」


どうやら、皇帝を憎むのは俺だけではないようだ。


だがメルドラやセッカやカツは、別に皇帝を始末に来たわけじゃない。

そのあたりの話をしていないのだ。


「俺は最初からそのつもりだったけどな…真帝の部下ってんならお前がやれよ」


城内に怪しまれず入れるなら、スキをついて皇帝ザックリやれるだろう―――


いや、立場が厄介なのか。

メルドラが言うにはこいつはソウの部下。

身動きがとれないのだろう。


「今すぐには無理だ…俺はともかく、仲間には事情を話してない」


「……なるほど」


ジソヴは一応了承してくれたようだ。

俺たちに背を向けて、去った。

――――――



「今夜のパーティーの用意は?」


きらびやかで繊細な刺繍の入った礼装。

端麗な容姿に、水色すいしょく髪の男。

皇帝シラヨウの息子にして、ヴィルカムル帝国の皇子である。

機嫌良く、椅子にもたれ脚を組む。


「フフ…。ならば良いんだ」

作りもののような笑みを浮かべる。


皇子は退屈げに長い袖をいじると、指には花飾りのついた指輪が光っていた。


青年が視線をそれにうつすと、皇子が目を鋭く細め、金髪の青年をみやる。


「そういえば、明後日は、君の妹と祝言か…」

憂鬱・と大袈裟なため息をつく。


「はい」

青年は跪いたまま、返答した。


「わかっていると思うが、どうにかしてもらわないと困るんだ」


「問題ありません。すでに手配を済ませました」

――――



俺は三人に、全てを話した。


「そんなことがあったんだ…」

セッカはしんみりと頷く。


「怒ってるか?」

「怒ってるわ」

メルドラは頬を膨らませた。


「なんで最初に言ってくれなかったんだよ!ダチだろ!」

カツは拳を強く握った。



「みんな自分のことを話してくれたのに、俺だけだまってて悪いと思ってる。ごめん」


「気にしてないわ」

「おう!」

「いいよ、話してくれたから」


問題は片付いた。

依頼でも受けにいくか。

仕事を探すには、まず役場だ。


妙齢の受付嬢が紙をめくり、俺たちの顔を確認する。

「あなたたちは新規の人ね」

「ああ、すぐに金が入る依頼はあるか」


カウンターの後ろから、年輩の男が紙を持ってきた。

どうやら依頼の資料のようである。


殺人、誘拐、ダークサイドなものから、窃盗野郎、迷子のペット探し、害獣退治など。


その中に、動物による人間の怪我、死亡被害が何十件もあると書いてあった。



「これを受け「ちょっとまったああああ!」


「なんだ」

「その依頼は、ワタシが狙っていたものデース!」


茶髪に茶色の目、外見は特にこれといって特徴のない普通の男。

だが地方なまりのきつい奴だ。


「いきなり現れて、依頼を横取りなんて…」

「ワタシ、ジェールいいマス」


後ろに背負っているのは、おそらく長めの猟銃だ。


「そうか、でもそう簡単に依頼は譲れない」

絶対やりたいわけではないが。


「じゃあ、悪い獣を倒した側が報酬を、それでどうだい」

「いいぞ」


「え!?いきなりバトル勃発?」

「私たちのほうが数が多い、勝利は明らかだわ…」


「こうなったら絶対負けられねえ、いくぞ!」

「おー!!」

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