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Ⅲ 杖刀

「わっ」


少女はメルドラを軽く横に倒し、後ろへ後退する。

おそらくジョクとくらべれば少女には腕力、背丈の差があるのだろう。


それにしても、よくあんな脆そうな杖で防げたものだ。



「すごい力…杖の塗装がハゲるわ」


二人は更に武器を打ち合う。


キンと鉄か刃物同士がぶつかり擦れた音がする。

あれはただの木杖ではないのか。


「フフフ…」


ジョクが怪しい粉をまき、扇子であおぐ。

オレや赤茶髪の少女の動きが鈍る。


そのまま攻撃せずに、妖艶な笑みを浮かべ、姿を消した。


おそらくこれは眠り薬、

敵の視点から考えれば絶好のチャンス。

だが逃げるだけなら何のために薬をまいたんだ。


きっとあいつはわざと俺達を見逃したんだ。

ナメられているようで腹が立つ。


「それはさておいて、あんた」

俺は去ろうとする少女に声をかけた。


「なにか?」

「メルドラをかばってもらって助かった」


「ありがとう!」


メルドラは少女の手をブンブン振り回した。


「気にしないで、アイツを追っていたとき、偶然助けた形になっただけ」


つっぱねているが、こいつの手には微かな擦り傷がある。


「素直じゃないね~」

メルドラと俺は、ついニヤニヤしてしまった。


だが、なぜこいつはジョクを追っていたのか。


「紹介がまだだったな俺はレツ、冒険者だ」

「私はメルドラ」


「ついでにあそこで伸びてるのがカツ」

あいつまだ倒れているのか。


「…私はセッカ、職業は多分、魔女見習いだわ」

杖の切れ目からに刃らしいものが見える。

しかし追求しないでおく。


「なんでこんなところに?」

「私は、ついこの前まで森で暮らしていた

婆様の言いつけで修行の旅をしているの」


「おい、ババサマだってよ」

「なんかすごいわねー」


それがなぜジョクを追いかけることになったのか、それを知りたいが、自分からプライベートに関することを聞くのはダメだ。



「帝都に来てから森と違って、修行のことがどうでもよくなってきたの」

「あー」


たしかに田舎から出てきたからわかる。

利便な物、上手い物は都市に多くある。

そういう違いを知ると、今まで損をして来た気分にもなる。



「城仕えしようと思った私は、城の近くを通ったら

偶然そいつを見かけたのだけど」

「ああ」

話してくれるのはありがたいが、長くなりそうだな。


「何か嫌な雰囲気を纏っていたから城仕えは止めたの」

「いびられるの嫌だもんね」


しかしなぜ、逃げた相手を、わざわざ追いかけるようなことをしたんだ。



「あいつ、私の指輪を盗んだの」

「え?指輪…」


「森には指輪がないと入れないの

修行していないからどちらにせよ帰れないわ」


ということは、こいつは暇人だな。


「よかったら俺達の仲間にならないか?」

「いいの?」

「わーい!たった一日仲間が増えたわ!」


メルドラがはしゃぐ。

俺は第一印象でこいつをクールタイプだと思っていた。

こういうふうに、感情を表に出せるやつだったのかとおどろいた。

―――――――


カツリ、カツリ、地下牢へ向かう靴音が、恐怖を仰ぐ。


「ハハハハ伝説の聖女よ、儀式の日が楽しみだなハハハハハ!!」


老いた男の高笑いがこだまする。


光届かない、閉鎖空間で、響くは絶望の早鐘。


「お兄ちゃん…わたし生け贄になんてなりたくないよ…」


《早く助けにきて――――――》

――――



「おい、そろそろ起きろ」

いつまでも呆けているカツを、軽くしばいて叩き起こす。


息はあるが、起きない。


「メルドラ…」


弾を補充したメルドラが、カツの耳元へ一発。


「うわああああ!!」

「おはようお前が寝てるあいだに仲間が増えたぞ」


カツは何がなんだかわからないと、茫然としている。


「やったね!」

「よろしく」

「お、おう?」


仲間が出来たはいいが、すぐに城へ乗り込むのも変だ。


これから何をするかも言っていないしな。

こいつらがわけもわからないまま連れて行って敵にやられたら申し訳ない。


まずは互いに親睦を深めて、それぞれの戦い方を学ばないと城の兵士は倒せない。


「とりあえず宿でも探して、身の上互いの話はそこでしようぜ」

「そうだね」


三人は納得したようで、こくりと頷いた。


「いらっ~しゃい~ませ~」

近くの宿屋に着くと、年老いた女店主が、にこやかにむかえ出ていた。


ヨボヨボで、背中が曲がっていてなんだか色々と心配だ。


「ささ~どうぞ~ごゆっくり~お休み~」


急に宿屋の婆さんは居眠りを始めた。


「大丈夫?」


メルドラは、他の宿にうつりたそうだ。


「この宿、値段も安いしな」

メシは出るのだろうか、そこが不安だ。



「メシ出るかなー楽しみだよな!」

「お前は昔からそればっかだな…」

同じくメシを考えていた俺が言えたことじゃないが。


「あーだりー」

「お前は何もしてなかったがな」


向こうはどんな会話をしているのだろう。

壁に耳を当てて聞いてみよう。

カツまで俺のまねをして壁に耳をつけた。


「あーつかれたー全然戦ってないけどー」

「そうですか」


「あーだるー」

「はい」


「ごはん楽しみねー」

「そうだわね、宿といえば美味しい夕飯だもの」



やっぱり向こうもメシのことを考えていたようだ。

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