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09・カーウェン鍾乳洞 その二

やはり異世界の最初の魔物はゴブリンさんだと思います。

 歩き出してから数分もしないうちに、ここが“異世界”なんだと分かる地球ではあり得ない生き物に出会った。


 見た目は緑色の肌に人のような顔、手には棍棒を持ち腰には汚ならしい布を巻いているだけの子供の身長くらいしかない生き物。

 こちらは九人、あちらは一匹のみだからか威嚇のように(うな)り棍棒を地面に叩きつけているが、襲ってこようとしなかった。


 「何、あれ?」

 「…………ファンタジーとかゲームで言えば、ゴブリンかな?」

 「とりあえず、あいつをなんとかしないと先に進めそうにないな」


 後ろからする会話に耳を傾けながら、前方への警戒心は忘れない。

 例え相手が一匹でも、なんか弱そうに見えても、あんなすぐ折れそうな武器で威嚇してる姿が滑稽(こっけい)だなって思っても油断なんかしてはいけない。


 だが、一つだけどうしても言わせてほしい………





 「…………鍾乳洞にゴブリン、似合わねぇ……………」

 「「「「「「そういう問題じゃない‼」」」」」」


 言ったら即、突っ込まれた。静葉と刹那を除く六人で、だ。静葉は同意するようにコクコク頷いてるし、刹那は苦笑いだ。



 そんな六人で突っ込まなくてもいいじゃないか、ちぇっ


 でも仕方ないと思う。鍾乳洞って壁の岩も水晶自体も澄んだ水もキラキラ光ってて幻想的なんだよ?その中に汚ならしいゴブリン…………似合わない、よな?



 こんなアホなやり取りしててもゴブリンからは視線を外さない。ゴブリンはどうしようか考えあぐねているのか、先程から一歩も動かない。

 (らち)が明かないのでこちらから攻撃してみることにした。瑠華は左手の薬指で眼鏡の位置を正す。


 「とりあえず僕が攻撃してみるよ。皆は何があってもいいように油断しないで警戒してて」

 「気をつけてね?」


 前方を見据えたまま告げれば、頷く気配がする。静葉が不安そうに声をかけてくる。

 それに小さく笑って頷き、腰を落として攻撃体勢に構える。勢いよく踏み込み数歩でゴブリンの目の前に行き、顔の側面を蹴りつける。

 ドッゴォォォと凄まじい音を出して、ゴブリンが横の壁に頭から突っ込み動かなくなった。


 「………………は?」

 「………………え?」


 自分と誰かの声が聞こえる。

 

 暫しの沈黙―――





 チ――――――――ン




 「うん、まぁ先に進むか!」

 「いやいや、待て待て!瑠華、今何やった?」


 ナチュラルに流そうとしたら許してもらえなかった。ちっ……


 「何って、見てただろう?蹴りいれたらゴブリンさんが吹っ飛んだんだよ」

 「いや、だよって……………」

 「って言われても、本当にただ蹴りいれただけなんだけど?」


 皆はだいぶ動揺してるみたいだけど、僕だって相当だよ?蹴りいれただけだよ?言っとくけど、10メートルは飛んだからね⁉子供のような身長って言っても、細っこくないからね⁉ずんぐりむっくりだからね⁉体重はきっと倍以上あると思うよ⁉



 ふぅ、ちょっと落ち着こう。



 左手の親指と薬指で眼鏡の左右を持ち、上げながら息を吐く。



 僕だって首がへし折れればいいなってくらいは思ってたけど、まさか飛ぶとは……………弱すぎじゃね?


 「えっと、ゴブリン?動かないし、行かない?」

 「そうだな、行こう」


 さっきのは横においといて先に進もう、と数分歩いたらまたゴブリンが現れた。


 「今度は誰かやってみる?」


 ゴブリンはさっきのやつと同じで、威嚇するばかりで襲ってこない。



 何がしたいの?



 肩越しに少し振り返りつつ尋ねてみる。あの攻撃が瑠華だけなのか、ゴブリンが弱すぎなのか、試してみることに。

 すると、紗霧が元気よく挙手をする。


 「はいは~い、私行きたいです‼」

 「と、言ってるけどどうする?」

 「まぁ、本人がやりたいならいいと思うよ。但し絶対油断しないこと!変化があったらすぐに引くこと!分かった?」


 女子の中で一番年長の櫻花に確認をとるように瑠華が聞けば、許可が出たので紗霧に譲るように一歩下がる。


 紗霧も瑠華と同じように僅かに腰を落とし、数歩でゴブリンの目の前に行き顔の側面を蹴りつける。

 キレイな蹴りが決まり、瑠華ほどではないにしろやはり吹っ飛び壁に突っ込み動かなくなるゴブリンさん。


 「よし、ゴブリンは弱いってことで!」

 「そうだな、でも他がこうとは限らないから油断しないようにしよう。」



 それからも何度かゴブリンに出会い、その度に違う人で攻撃してみたけど結果は変わらなかった。

 一時間程行き当たりばったり的に歩いていたら、開けた場所に出た。湖のようになっていて底が見えるほど澄んでいる。天井からも水晶が沢山突き出ていてキラキラ光る。本当に幻想的な空間がそこにはあった。


 瑠華達はここで少し休憩することにした。


 「結構歩いたのに、出口が見つからないな」

 「そうだね、それにこれだけ歩いたのにそんなに疲れてないって変じゃない?」

 「漫画とかだと異世界人は大体チートだからそのせいじゃない?魔法とかも使えたりして」

 「はぁ……………普通なら何言ってんだ!って笑えるのに、今の状況だと笑えない…………頭がおかしくなりそうだ」


 女性陣が水辺でキャッキャッしている間に、男性陣で話し合いをする。情報がほとんどないこんな状況では実りある話し合いなどできはしないが…………


 少しだけ休み、さあ出発しようとしたところでそれは聞こえた。


 「きゃああああ‼‼」

 「な、なんだ⁉悲鳴⁉」

 「私達の他にも誰か居たの⁉」


 この場に動揺と緊張がはしる。声は反響していて分かりにくいが、大分(だいぶ)近くから聞こえた。


 「行こう‼」

 「そうだな、もしかしたらクラスメイトかもしれない‼」


 その可能性は十分にある。ゴブリンのような生き物が他にもいれば襲われて危険かもしれない。

 瑠華達は急ぎ、声がした方へ走り出す。


 そこにはやはり瑠華達の知っている人達がいた。


 「はぁぁ‼」


 勇ましい声とともに出された右拳が、青い芋虫を吹き飛ばす。その光景を見て心配が杞憂(きゆう)だったことに安堵する。


 「桃輝!鈴木!瀬川!」

 「静葉‼」



 声をかけたのは櫻花なのに、その斜め後ろに居た静葉の姿を見て名を叫ぶ天條院。





 ここで一つ。












 お前は静葉しか見えんのかい⁉






 失礼致しました。








読んでいただいてありがとうございました。

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