72・サラ その二
テトの気配を探り、瑠華は小走りに通りを駆ける。閑散としている通りは、倉庫街にむかうにつれ人の気配が無くなっていく。
以前来た時には活気があった街だっただけに、物悲しい雰囲気が漂っている。
「っと、ここか」
倉庫が建ち並ぶ場所に入り、更に奥へ進んでいくと小さな倉庫の中にテトの気配が止まっている。
瑠華は周りに気配がないかを確認して、扉から中に入った。
「おかえり」
「ただいま」
瑠華に近付きながらテトは、少しの安心を込めて言う。
それにフードをずらしつつ笑顔で答えて、瑠華はシン達に近付く。
倉庫の中には使い古された棚が壁に並んでいたが、商品になるような物も作業に使うような物も置いてはいなかった。
「ここはシンの家が使っていた倉庫?」
「はい、所有者は別の方なのですが、父がご好意で借りていたんです。その方は既に街にはいませんので、悪いと思いますが使わせてもらいましょう」
「まぁ、文句も出ないだろうけど」
シンと話をしつつ、瑠華は自分をじっと見つめるサラに視線を向ける。
彼女は視線を向けられても動じることなく、見つめ返していたので、小さく笑ったら顔を背けられてしまった。
あらら。
「自己紹介がまだだったね。僕は瑠華、テトとリトにこっちがマリアとムツキ」
手で示しながら従魔達も紹介する。
「シンとはちょっとした縁で一緒にいる」
「私はサラといいます。お兄ちゃんから少しだけ聞きました。危ないところを助けていただいたばかりか、炎晶石を探すのを手伝っていただいたようで。改めまして本当にありがとうございました」
サラが深々と頭を下げ、隣でシンも同じようにする。
「そこは気にしなくていいよ。言ってはなんだけど、シンのことはついでだからね」
瑠華の言葉に頭を上げたシンとサラは、苦笑をしてしまう。
「そうだ。先ずはサラの奴隷契約を解除してしまおう」
「えっ?そんなことも出来るんですか?」
「じゃなかったら連れてきた意味がないでしょ?」
瑠華はサラに近付き、首にある武骨な金属具に手を掛ける。
そして魔眼のスキル「干渉」を使い、自らの魔力を流し込み、マリアがやったように力任せに壊す。
かしゃん、と小さな音とともに首輪は外れた。
「………すごい………本当に取れた……」
「サラ、良かったな。ルカさん、ありがとうございます!」
サラは不思議そうに自分の首を触り、シンは笑顔で瑠華に礼をする。
「ふふ、さぁ取り敢えず、食事しながら話をしようか。君達がこれからどうするのか」
瑠華はアイテムボックスから大きなシートを取り出し地面に敷く。その上に大量の出来立ての料理を出していく。
それを見ていたサラが、感嘆のため息を吐いた。
「……凄い……アイテムボックスなんて初めて見たわ。従魔さん達といい、持っているマジックアイテムといい、ルカさんが何者なのか気になります」
「只の冒険者だよ、僕は」
「それは他の冒険者の方に失礼ですよ、ルカさん」
「僕に失礼なのは構わないのかな、シン?」
瑠華がにっこりと笑いかければ、シンはひきつった顔で乾いた笑いを浮かべる。
真ん中の料理を囲むように全員で座り、食べ始める。
マリアとムツキは瑠華の右隣にお座りし、黙々と食べて皿を空にしていく。
テトとリトは瑠華の左右の後ろに寝そべっている。
「さて、シンとサラはこれからどうするの?」
「………俺はこの街を出ようと思ってます。もう此処にはいられませんから」
「私もお兄ちゃんと同じ考えです。この街には何も残っていませんし、愛想が尽きました」
「ん?愛想が尽きた?」
「はい」
サラは決意を秘めた瞳でしっかりと頷いていた。瑠華がシンに視線を向けると、シンも悲しそうな顔であったが未練は無さそうではある。
しかし、疑問が出てくる。
「この街に愛想が尽きたの?伯爵にではなく?」
「勿論、伯爵は当然ですが街の人達もあんまりだと思います………というか聞いて下さい‼」
突然サラが拳を握りしめて瑠華に詰め寄った。
「あの男、本っ当に最低なんです!もの凄く気持ち悪かったんです‼」
「……まさか……」
「違うわ。お兄ちゃんが今考えた様なことはされてない。でもね、それ以上に精神的に屈辱だったわ……」
サラは思い出したのかわなわなと肩を奮わし、涙目になった。
瑠華はその様子を見て、困ったように首を傾げる。
「その話、僕が聞いてていいのかな?内容的に聞かない方がいい気がするんだけど?」
「いえ、お願いします。聞いて下さい。ルカさんなら信用できますし、なにより私が言いたいので」
「そ、そう?なら話を聞くよ」
「ありがとうございます。先程も言いましたが、あの男は本当に下種です。毎晩のように私や他の奴隷の子達を寝室に呼んで、私達の瞳を見ながら自慰行為をするんです。
直接手は出されませんでした。あの男は自分の行為を見せて、見られてることに興奮していたんです!
その後は自分が寝るまで側で見ててくれって、ずっとあの男の顔を見ていなくちゃいけなくて………」
ああ、それは確かに嫌だね。
「しかも感情で色が変わるとか言って、裸で一日中過ごしたり、他の奴隷の子が鞭打ちされてるところを見せられたり………本当に………最低です………」
サラは俯いて小さな声で呟いた………瑠華は思わず、手を伸ばし頭を撫でた。
「辛かったね」
「ぐす……すみません………えっと、街の人達についてでしたね。私は奴隷になってから、度々あの男の付き添いで街に行っていました。その時に皆と話をしたのですが、皆お兄ちゃんに対して酷いことを言ったんです」
「酷いこと?もしかして、あの話かな?シンが妹を売って、自分だけ逃げたっていう………」
「そうです……あんまりじゃないですか、お兄ちゃんは私の為に危険な所に言ったのに………」
シンが立ち上がってサラの隣に移動して座り、また瞳を潤わせたサラの頭を撫でる。
「でも皆は俺達のことを知らなかったんだろ?だったら仕方ないよ」
「違うわ。私はちゃんと言ったもの。お兄ちゃんは逃げてない、私を助ける為に街を出ていったんだって」
「……へぇ、それを言ってあの態度か」
「可哀想に、信じてるんだねって言って、でもシンは帰ってこないよって………皆信じてくれなくて………」
なんなんだろうな?その妄信的なものは。
「だから私は皆のこと………」
「もういいよ、サラ」
「そうだね。君達がこの街を出たい気持ちは分かったよ」
確かにこんな嫌な雰囲気の場所にいるよりも、新しい場所で一から始めた方がいいだろう。
二人共逞しそうだし。
「で、二人には行く宛てはあるのかな?」
「………ルカさんはこれからどちらに?」
シンが瑠華の目を真剣に見つめて問いかける。
瑠華はこの先の話に見当がついてが、二人に合わせることにした。
「僕?僕はこれからサランヴィーネの港街に行って、用事を済ますよ。その後は別の大陸に行く」
「そうですか。俺達も一緒に連れていって下さいと言ったら、貴方は許してくれますか?」
「サランヴィーネの港街まで?」
「いいえ、ずっとその先までです。俺達を貴方の旅についていかせて下さい」
瑠華は心意を探るように、シン真剣なの瞳を見つめ返した。
読んで頂いてありがとうございました。
次の投稿は予定では11日の20時ですが、あくまで予定になります。




