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07・異世界への光の道

一話から六話を見直ししました。


本編、スタートです。

 四時間目の授業の終わりを告げる鐘が鳴ると同時に席を立つ。

 後ろのドアから教室を出ようとしたら、怒声が聞こえた。


 「る~~か~~‼どこに行く⁉」


 首だけ動かし後ろを見れば、幼馴染みの海藤蛍が腰に手を当てて可愛らしく睨んでいた。

 言っては悪いと思うから言わないが、全く怖くない。(むし)ろ微笑ましいものだ。

 緩みそうになった口元を隠すように、俯き気味に薬指で黒ぶち眼鏡を上げる。



 海藤蛍(かいどうけい)、身長160、肩までの濃い茶の髪で毛先が内側にくるんとしている、鋭くはないが少しつり上がり気味の黒目、運動神経がよくスポーツ万能、程好く日に焼けた小麦色の肌、よく怒るがとても優しく明るいので人気が高く、学年で三指に入る美少女である。


 彼女の声のせいで注意を引かれた視線が集まる。そのことにため息を吐きつつ答える。


 「飲み物を買ってくるだけだよ。先に始めてて」

 「………分かった。取り敢えず逃げたら神父様にチクっちゃうから」

 「はいはい」


 後ろ手に手を振りながら教室を出る。

 食堂に設置されてる自動販売機を目指し、階段を降りていく。すると左側にある一年の教室の方角から、幼馴染みが現れた。


 「あっ、瑠華兄さん」

 「あ~~!ルウくん、逃げる気⁉」


 はぁ。とまたため息が出る。何故幼馴染み達は人の顔を見れば、同じことを言うのか……………自業自得の部分が一部あるが、そこは都合よく無視をする。



 笹川紗霧(ささがわさぎり)、身長150ちょっと、一つ下の16歳で、一言で言えば元気娘。背中の中間くらいまである黒髪をポニーテールにしている。ぱっちり大きな黒目にコロコロ変わる表情、はっきり言いたいことを言うが空気は読む、ボーイッシュな女の子、男女から人気があるらしい。



 白崎刹那(しろさきせつな)、身長170、彼も一つ下の16歳でクセのないストレートな黒髪、黒目で可愛らしい顔をしている。大人しい性格だが気が弱いわけではない、よくからかわれるが笑って受け流す。同じ孤児院の人達を、心から家族と思いなによりも大事にしている。特に八人の幼馴染みは。孤児院を侮辱されると静かにキレる。



 「紗霧、刹那、僕は飲み物を買ってくるだけだから先に行ってろ。逃げはしない」 


 一応言っておく。

 二人と別れ、食堂で飲み物を二本買って教室に戻る。後ろの窓際に、幼馴染み達が既に全員集まっていた。

 四つの机を四角く置き、囲むように座っている。空いているスペースに椅子を持っていって座る。


 「お帰り~~はい、おにぎり」

 「ん、ありがと」

 「今日は環のリクエストの十穀米」

 「美味いよ~~」


 隣になった東雲静葉が笑顔を向ける。彼女の前に広げてあった重箱から、おにぎりを手渡しされる。



 東雲静葉(しののめしずは)、身長165、ふわりと緩く波打つ腰まである黒髪、少し細い涼しげな黒目に魅惑的な泣き黒子が特徴、透き通るような白い肌、小さな桜色の唇、優しく穏やかな性格で学年で一番の人気を誇る。

 よくラブレターなどを貰い、街に出ればナンパされる。告白もされるが、しっかりきっぱりと断る。

 何故なら彼女の心は、三歳の時からただ一人にのみ向けられているから。時折恐ろしく怖い時がある(ただ一人限定)



 勅使河原環(てしがわらたまき)、身長180前半、クセが強い堅そうな黒髪、意思の強さが表れた切れ長の黒目、見た目は細いが均等のとれた筋肉質な体型、パッと見冷たい印象を受けるが、見た目に反し表情豊かで話上手、面倒見が良いので下の者に好かれるお兄さん気質。校内で人気が高いイケメン。



 環は窓辺に寄りかかりながら、おにぎりを美味しそうに食べている。


 僕も一口。うん、美味しい。


 「ふふ、逃げたのかと思ったよ?」

 「それはもうやったよ、櫻花」

 「おや、そうなのかい?」


 僕の正面に座っていた大瀧櫻花が、心から楽しそうに言った。



 大瀧櫻花(おおたきおうか)、身長170前半の一つ上、ゆるふわな黒髪をシュシュで軽く首の右側で縛り垂らしている、少し垂れ気味の黒目、健康的な白い肌と赤い唇、口調も性格も行動も男前な副生徒会長を務める姉御肌の美人。



 「瑠華が終了の鐘と同時に逃げようとしたので」

 「蛍ちゃんに怒られてたんです~~」

 「………逃げてないから…………」


 櫻花の右隣に座っていた柊疾風が真面目な顔で、久藤櫂が軽いノリで同意する。



 柊疾風ひいらぎはやて、身長180、サラサラのストレートの黒髪、冷めた印象を与える切れ長の黒目、黒ぶちの眼鏡、他人の前では基本無表情なので近寄りがたいというのが周りの意見だが、孤児院の人達には普通に感情を見せている。



 久藤櫂くどうかい、身長170後半、ふわふわの黒髪、優しげな黒目、常に笑顔で誰にでも分け隔てなく接し、話上手聞き上手なのでよく女子の相談を受けてついでに告白をされるらしい。性格は真面目な努力家で、でも周りにはその姿は見せないので、チャラい男というのが彼のイメージのよう。



 そして僕、六花崎瑠華ろっかざきるか、身長177の長めのストレートの薄い紺の髪、濃いオレンジの目、黒ぶちの細い眼鏡に前髪がかかっている。中性的な顔で、よく女に間違われるくらい綺麗な顔をしている(らしい)が、表情は乏しい。口は悪い、と思う。父母ともに外国の血が流れていたので、こんな色合いをもつ。何処の血かは知らない。



 僕、静葉、櫻花、疾風、櫂、環、蛍、紗霧、刹那の九人は同じ孤児院出身。全員に親はいない。事故で死亡、捨てられた等理由は様々だが。


 僕は三歳の時、親が事故で死亡してしまい親戚の家に預けられたが、どうしてもそりが合わずに逃げ出し道で倒れていたところを院長先生に助けられ、そのまま孤児院でお世話になることになった。


 子供だからできた行動力だったと今では笑い話だが、自分としては心から褒めてやりたい。

 よくやったと。

 そのお陰で、親友とも家族とも言える幼馴染みや院長先生、神父様に逢えたのだから。



 僕が五歳を迎える頃には、九人全員が孤児院に集まっていた。僕が最初で一日遅れて静葉、最後に来たのは櫻花で、それ以降何故かぱったりと新しい子が来なくなり、必然的に皆で過ごすようになった。僕より先に居た子供達で、それぞれ既にグループが出来上がってたせいでもあるが。


 親がいない、孤児院暮らしということでよく見下され、陰口を囁かれたり、無邪気な子供達に存在すら否定されるような心無いことを言われてしまうから、僕達はいつも一緒に居た。


 だから僕達の絆は強い。

 皆口に出したりしないけれど、皆が大好きで孤児院が大事で、その大事なものが悪く言われれば皆で怒る。

 僕達は誰も血が繋がっていない赤の他人だけど、そんなことはどうでもいいと思える大切で大事な家族。

 そんな関係。



 この日も、孤児院のことで話をするためのお昼休みの集合。

 皆が僕に、逃げようとしてると言ったのは話し合いについて。蛍は半分以上本気っぽいが、他の皆はただの悪ノリのからかい。僕が孤児院のことでサボったりしないと分かっていての悪ふざけ。


 まぁ、僕が学校の授業や行事をサボり、逃げることが時折あるから、遠回しの皮肉と注意のような気もするが。


 だってつまらない上に面倒なんだもの。



 三十分ほどご飯を食べながら話をし、まったりと寛ぎながら食後のお茶を飲んでいたら、こちらに近づいてくる三人組が見えた。僕はその三人、特に真ん中の男を見てしかめそうになる顔を背け、目を閉じて気配を消す。


 尤も、こんなことをしてもこの男には無駄なんだけど。


 「やぁ、皆集まって何の話?」



 天條院桃輝てんじょういんとうき、身長180前半、薄い茶の髪、優しげな黒目、細身ながら引き締まった身体、正義感が強く誰にでも優しい。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能という世の女性がほっとかない完璧な男である。

 名前も物語のヒーローみたいな響きだし。


 只の皮肉。嫉妬でも妬みでもない、只の皮肉。


 実際、彼にはファンクラブがあり、校内の実に八割の女子生徒が入っているんだとか。それだけではなく、他校の生徒まで放課後門の前で待つということがあるほどに人気がある。バレンタインなどは本当に凄いらしい。


 院長と幼馴染みの義理チョコしか貰えない僕なんかとは全然違いますね。



 心からどうでもいいが。





 瑠華は本気でそう思っているが、現実はそうではない。

 瑠華を含む九人は、“孤児院組”(そのまんま)と呼ばれ学校どころか町内で知らないものはいないと言われるほど有名なのである。


 九人全員、見目が良く性格も良い成績優秀と垂涎ものの物件である。バレンタインやクリスマスのイベントなどでは、お近づきになりたい男女が虎視眈々と狙いながら、同じ狙いの者達を牽制しあうという場面がそこかしこで繰り広げられている。


 ちなみにだが、瑠華が貰っているバレンタインチョコには本命が混じっていたりする。瑠華が義理チョコだと思っているだけである。



 けれど、孤児院組はいつも一緒にいる。他にそれぞれ友達と呼ぶ存在はいるがクラスで軽く話したり挨拶を交わすくらいだ。一人になることもあまりない為、遠くから姿を見られればそれでいいという人が多い。


 しかし一つだけ彼等に簡単に近付く方法がある。それが天條院桃輝とその友人の二人だ。


 瑠華を除く八人と天條院は、所謂幼馴染みの関係だ。何故瑠華だけが違うのか、これには理由がある。




 孤児院組と天條院の出逢いは、武術教室だった。

 孤児院組は院長先生の古い知り合いという人が経営している武術教室に誘われた。とりあえず行ってみようということで訪れた先で、天條院に出逢う。


 天條院はその頃から誰とでもすぐに仲良くなるような、物語の主人公のような男の子だった。当然、孤児院組にもすぐに話しかけ友達になる。

 当時は周りから、親がいないことで同情や哀れみの目で見られることに慣れておらず、周りの目が気になっていた時期だったから、天條院が何の偏見もなく話しかけて来たことが嬉しかった。


 天條院は正義感が強いから、周りが孤児院組を悪く言えば庇い、言った者に文句を言って言い争いにまでなったりした。その姿は確かに物語の主人公ように格好良く、良いやつだった。


 だが瑠華はどうしても受け入れられず(当時は自分でもよく分かってなかったが)、教室は一日で行くことを止めた。院長先生には謝り、他の八人にも謝った。理由は言えなかったが。


 だが武術は、その日から本を読みながらではあるが独自に訓練していた。教室で教わってきた八人にも見てもらいながら。


 八人も天條院も今日まで通い続けている。故に彼等は幼馴染みになる。



 瑠華はやはりあの時の自分の英断を誉めてやりたい。今なら分かる。あの時感じたナニか。



 天條院は正義感が強く、そして思い込みが激しい。自分自身を、自分の正義を疑わない、疑うことを知らない。物事全てを自らの価値観で判断する。質の悪すぎるご都合主義。


 それが天條院桃輝という男である。


 そして瑠華の大嫌いなタイプの男。



 天條院は瑠華が一日で教室を辞めた理由を、稽古が辛いからだと思っている。説明してないからだけど。


 根性がなく面倒くさがり、周りの皆(特に静葉)に甘えてる駄目な男というのが、天條院の僕に対する認識だ。

 それは高校に入ってから余計悪くなった。瑠華が学校の授業や行事をサボっていると思っている。




 瑠華達が通う高校には奨学金がある。

 但し入学試験五位いないと門が狭い。しかも県内でも上位の進学校だ。頑張る程度では絶対に手が届かない。


 孤児院では学校に関する全てに、義務教育まではお金は一切かからなかった。けれど高校からはそうはいかない。


 だから皆でこの奨学金を狙った。院長先生はお金なんか気にしなくていいと言ってくれたが、奨学金が取れればそれに越したことはない。


 結果取れたのは、瑠華だけだった。入学試験二位を見事に勝ち取った。

 だけど面倒だったのがこの後、奨学金の義務として一定量のボランティアが課せられる。放課後やお昼休み等に先生や生徒会の手伝いなどだ。


 けれど孤児院で家事の手伝いをしているので早く帰りたい瑠華は、試験で五位以内を条件に授業中にボランティアをしているのだ。

 ボランティアとは別に実際にサボってたりするんだけど。ちょっとだけね?


 つまらなくて面倒というのも偽りなき本心だが、こういう事情もある。

 この事を丸っと全て天條院には言っていない。

 なんで言わなくちゃいけないんだという心境だ。



 話は逸れたが、いつも固まっていて近寄れない孤児院組だが、天條院と一緒なら話せる、という思惑でファンクラブに入っている女子達がいる。

 天條院や瑠華は知らないが、八人は気づいていたりする。



 天條院の友人二人。

 一人は鈴木志朗すずきしろう、身長170後半、逆立った短い黒髪、鋭い黒目、スポーツ万能で筋肉隆々の身体、脳筋の熱血漢。


 瀬川早奈恵せがわさなえ、身長150前半、背に流れる緩くウェーブした茶髪、大きな黒目、可愛らしい声という守ってあげたくなる小動物系女子。男子に人気でいつも囲まれている。自分の可愛さを自覚しているミーハーでいい男には必ず言い寄る。女子には良く思われてなく友達も少ない。


 本人は知らないが男子に、“孤児院組は高嶺の花だが彼女は簡単に手に入る花”と影では言われている。


 この三人は瑠華にとって関わりたくない者である。



 「桃輝、鈴木、瀬川、私達は来週町内で行われるバザーに出すものの話し合いだよ」

 「ああ、そう言えばありますね。孤児院でも参加するんですか。じゃあ、俺もなにか手伝いますよ」

 「わぁ、バザーですか~?楽しそうですね。私も行こうかな」

 「バザーねえ、あんま興味ねぇけど行ってみるかな。なんか掘り出し物があるかもしんねぇし」

 「そういえば今日は瑠華も逃げないでちゃんと参加してるんだね?偉いよ」

 「…………………」


 天條院の質問に代表して櫻花が答えている会話を、お茶を飲みながらなんともなしに聞いていたら、天條院が話しかけてきた。

 他の皆と話してろよ、と心の中で返しつつ、しかし顔にも口にも一切出さずにお茶を飲んでいた。


 「そうやって逃げずにちゃんとしなくちゃいけないよ?やらなければならない事からいつも逃げていると、君自信の為にならない。いい加減、皆に甘えるのはやめなければ。もう高校生なんだから」

 「………………」

 「はぁ、またそうやって都合の悪いことは聞こうとしない。そんなことじゃ、人としていつまでたっても成長出来ない。君が逃げているから皆が迷惑しているんだ。早く気づいてくれ」

 「………………」


 お前が気づけよ、と声を大にして叫んでみたい。絶対にやらないけれど。



 言っていることは至極まともで、本人に悪気はない(というか彼は本気で僕を心配し怒っているらしい)善意の塊の言葉だけど、不快度指数が半端ではない。そろそろ限界を迎えそうだ。


 でもこの感情は僕の勝手な偏見だからね。黙って聞き流すよ。


 ちなみにこういう時、他の八人にはなにも言うな、ときつく言ってある。そんなことをすれば面倒この上ないし、八人にとっては天條院も大切な幼馴染み。

 僕のせいで険悪な雰囲気になるのは本意ではない。


 しかし櫻花と静葉は困ったように笑い、他は眉をひそめ、じっと天條院を見ていた。


 みんな~落ち着いて~。



 「瑠華、聞いてくれ。皆は優しいから何も言わないけど、俺は言うよ。それが君の為だからね。逃げていても今はいいかもしれない。けど将来大人になったらきっと後悔する。だから、もう周りに甘えるのはやめるんだ。今ならまだ遅れた分を取り戻せるから」

 「桃輝くん、そんなこと言わないで。瑠華はやるべきことをちゃんとやってるよ?」

 「静葉、君は本当に優しいね。でもそれでは彼の為にならないんだ。甘やかしちゃダメだよ。心を鬼にして突き放さないと」


 見かねた静葉がやんわりと止めようとするが、暖簾に腕押し状態で全く聞く気配はない。いつものことだけれど。


 静葉が困ったように見つめてきたので、気にしていないと小さく笑って伝える。





 はぁ、と小さくため息を吐いたその時、突然床が激しく光る。


 「な、何⁉」

 「きゃああ‼」


 椅子が倒れる音、誰かの叫び声、教室がにわかに騒がしくなる。光は教室全体を包んでいる。

 ドアから外に、と口にしようとした時には、光は激しくなり全てが呑み込まれる。




 そこで意識が途切れる直前、魂を掻き乱すような、無邪気な女の嗤い声が聞こえた気がした。














 さあ、貴方はどんな風に私の心を満たしてくれるのかしら?











長くなってしまいました。人の紹介文は後で直すと思います。


読んでいただいてありがとうございました。

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