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06・勇者として召喚されて

 俺の名前は桐生暁(きりゅうあかつき)

 黒髪黒目、身長170、体重秘密、平凡な顔したどこにでもいるちょっと泣き虫な普通の14歳です。

 両親と兄、妹の五人家族で俺以外の家族は皆気が強く個性が濃い。両親は共働きであまり家にいないけど、まとまった休みはいつも旅行に連れて行ってくれた。兄と妹はよくケンカをして二人に挟まれて厄介事に巻き込まれるのはいつものこと。

 俺はそんな家族が大好きだ。


 だからもう逢えないのは本当に悲しい。








 あの日、俺は学校から帰る途中で駅までの道を歩いていた。その時突然、後ろから叫び声が聞こえ振り向くと車が突っ込んできていた。避けようもなく強い衝撃があって吹っ飛ばされる。


 俺、死ぬのかな………意識が遠のくのを感じながらそんなことを思う。


 瞳を閉じる直前最後に見たのは、横たわる地面が眩い光を発し包まれた光景だった。






 目を開けたら、目の前に女性の顔があって思わず叫び声を上げながら飛び起きてしまった。

 バクバクと激しく脈打つ胸を抑えながら見れば、女性は面白そうに目を細めて見ていた。


「………ど、どちら様ですか?」


 とりあえず見たことのない女性だったので、聞いてみた。


 女性は二十代前半で無造作に背中を流れるオレンジが強い赤みの髪、身体の曲線が分かる清楚(せいそ)なワンピース、首や手首を飾る簡素だけど美しい装飾品、透き通った白い肌に蠱惑的に笑む紅い唇、強い意思を宿した黄金の瞳。

 一言で言えば、絶世の美女。


 こんな美人さんは一度見たら忘れない。誰だろう?


 首を傾げていれば女性が口を開いた。


 「私は創造神が三の柱、火と悦楽(えつらく)を司る神アザリー・マーズ。よろしくね。これから貴方に勇者としての力を授けるわ」


 はい?………え、ちょっと待って⁉

 神?勇者?力?言っていることが全く分からない‼俺は漫画とかアニメはほとんど観ないから分からないよ‼そういうのは兄と妹が詳しい。いつも漫画やテレビのリモコンを取り合いしてた。俺はその争いに参加できなくて、早い段階で諦めた。

 ………二人の醜い争いを思い出して遠い目をする………じゃなくて‼

なに?此処って異世界とかいうやつ?俺ってば死んだ?



 ここでようやく最後の記憶が蘇る。


 あぁ、俺はあのまま死んだのか………

 自覚して落ち込んだけど冷静になれて、周りが見えるようになる。

 そこは白一色の空間だった。女性と俺の二人だけ。

 俺は説明を求めるように女性を見る。


 「落ち着いた?」

 「はい…………なんとなく」

 「そう、なら説明するわね。さっきも言ったけど貴方は勇者としてここ、ヴェントゥーザに喚ばれたの。貴方に邪神を倒してほしいのよ」


 えっと、こういうのはテンプレって言うんだっけ?でもその場合、魔王じゃないの?魔王より邪神の方が強そうだよね?………恐いんですけど⁉


 「…………魔王じゃないんですね?」

 「魔王?魔王は人と友好関係を結んでいるわよ?って言ってもそうなったのは最近だけど。少なくとも勇者の敵ではないわ」

 「……………そうなんですか」


 弱い方がいいなって思って聞いてみたら、不思議そうにされてしまった。人と仲良くしてるなんてイメージと違うなぁ。


 「いい?邪神を倒す為に貴方に力を与えるわ」


 そう言って神様は俺の胸に手を沿える。そこから暖かいナニかが流れてきて、それが身体全体を満たし馴染んでいく。


 「はい、これでいいわ。後は聖剣ね」


 やっぱり勇者といえば、聖剣なんですね。どうしよう、なんか緊張してきた。

 冷や汗をかきながら固まっていると、目の前に豪奢な剣が(あらわ)れた。

 柄は白銀、刃は鋭く紅色に淡く光っている。刃渡りはちょっと長く感じるけど一メートル程ありそう。鞘も白銀に輝き小さな宝石が散りばめられていた。

 重そうだなと感じたけど、持ってみたらとても軽かった。


 「それは貴方だけのモノ。貴方にしか扱えないわ。それとその剣にはまだ銘がないの。貴方がつけてね」


 剣の名前かぁ…………




 「………氷雨?」

 「ヒサメ?どういう意味?」

 「氷の雨です」

 「……………………………それ、炎の剣なんだけど?」

 「……………………………ですよね―」


 意味を言ったら微妙な顔をされた…………

 だってしょうがないじゃない‼頭に浮かんだんだもの‼ほらもう氷雨以外出てこないし‼全体的に白いのが悪いんだ‼

 心の中で言い訳して剣に八つ当たりしていたら、神様がタメ息を吐かれた。


 「まあ、いいわ。それは貴方の剣だから貴方がいいならいいんじゃないかしら。さて、それじゃあそろそろ行きなさい」


 いよいよ異世界かぁ…………………ちょっと待って?まだ召喚された理由しか聞いてないよ?異世界のこと全く分からないんだけど?


 「じゃあ、送るわね?あっ、あっちに着いたらこの世界の“先輩”が貴方を助けてくれるわ。大丈夫よ。彼の方から接触してくるから」


 不安が顔に出ていたのか、神様が安心させるように言った。

 先輩ってどういう意味だろう?この世界の住人だから先輩なのかな?考えていたら身体が光に包まれる。


 神様が笑顔で手を振っていたので、俺は感謝を込めて深く礼をした。






 光が消えて周りが見えるようになる。

 一目で高そうだと分かる煌びやかな服を着た人達、全身を鎧で覆った剣や槍を持つ騎士?教会の神父様のような服を着た女性、沢山の人の目が俺にのみ向けられていた。

 俺はどうしていいか分からず、声も出せずに固まった。その場には痛いほどの静寂が流れている。


 長いような短いような辛い時間が終わったのは、誰かの小さな笑い声だった。

 笑い声が聞こえた方を見れば、そこには綺麗な顔をした美青年がこれまた綺麗な微笑で俺を見ていた。

 その優しげな笑みを見て恥ずかしくなり視線を外す。頬が熱い………………俺にその気は全くありませんが!


 そう俺の、彼の第一印象は“優しそうな人”です。


 彼の声で周りも動き出す。


 一番豪奢で立派な服を着た男性が、皇帝と名乗り謝罪をしてきた。

 曰く、勇者召喚が行われたのは五百年前で勿論自分達は初めてのこと。少し緊張していたのだとか。


 成る程、前例がそんなに前なら成功するかどうかも不安だったのかな。

 とりあえず場所を移動すると言うのでついていった。


 それから会議室のような場所に入ってから話を始めた。

 内容は神様が言っていたことと同じで、今この世界は邪神によって滅ぼされようとしている。故に邪神を倒せる勇者を神の神託により異世界から召喚した、と。

 そして粗方(あらかた)話して理解したことを示すと、戦いの先生を紹介された。


 驚いたことに彼だった。あの綺麗な人。見た目は戦いとは無縁そうなのに……


 その後、今日はゆっくり休んで明日からいろいろと教えようって言われて、確かに精神的に疲れていることを自覚した。


 豪華な客間に案内され、ベッドに横になったら考えもそこそこに眠りに落ちた。



 翌日から訓練が始まるのかなって思ってたら違った。

 先ずはこの世界、国、魔法、魔物について勉強した。合間に軽く身体を動かしたり、魔力を感じてちょびっとだけ魔法を使ってみたり等、沢山の事を一気に頭に詰め込んだ。


 後は師匠であるカインのことも教えてもらった。

 彼は欠陥色(けっかんしょく)と呼ばれているらしい。必ず誰もが持っている魔力を持たずに生まれたとか。

 けれど彼はその身一つで様々な技術や武器を使って、世界でも三人しかいないSSSランクの冒険者になったんだって。

 彼は自分で創ったクラン《紫紺の太陽》のリーダーを務めているみたいで、彼等が拠点にしている宿屋に連れていってもらった。というかこの宿屋と、商店街にある雑貨屋もカインが全てお金を出したとか。


 …………カインの方が勇者みたいじゃない?って思ったらなんと彼は、“英雄”と呼ばれてるんだって。すごく納得した。


 《紫紺の太陽》のメンバーも紹介してくれて(でも二十人以上居たからいっぺんに覚えられない)カインの武勇伝とか聞いて楽しく話ができた。


そんな感じで二日間過ごして三日目、今日から本格的な訓練が始まった。

 五日ほどカインや騎士を相手に剣の基礎を身体に叩き込んだ。何故か身体が軽く体力も以前より遥かにあって、剣技を簡単に習得できる。自分の身体じゃないみたい………



 その後は皇都近くにある初級ダンジョンで二週間ほど実戦訓練をすることになった。ダンジョンに潜る際の注意事項や持っていくアイテム等を説明を受けながら用意し、皇都を出る。

 持っていると楽だと言うので、上級魔法袋をカインが買ってくれた。白金貨一枚したんだけど………

 確か白金貨って王族貴族や大商人くらいしか使わないって聞いたんだけど?………………返せないよ?


 それに気になることがある。

 カインと二人だけでダンジョンに潜ることを皇太子様皇女様、カインの家族、《紫紺の太陽》の人達に言ったら皆が同じ顔をした。

 売られていく家畜を見る憐れみと悲しみの目だ………俺の心が不安で満たされた。




 皇都近くにある初級ダンジョンは、その名も新人ダンジョン。魔物は最下級しかいなく十階層なので攻略しやすい。簡単な罠や仕掛けもあるので魔物、ダンジョン攻略の訓練にうってつけのダンジョン。

 ネーミングセンスはどうかと思うけれど、恐さが低いのは嬉しい。



 結論から言えば、今まで経験したことがない(当たり前だけど)異世界なんだと(今更だけど)トラウマレベルで(本気で‼)恐ろしかったです‼








 カインが‼


 初めて戦った魔物より恐いってナニ?魔物より恐いってナニ⁉大事な事だから二回言っちゃうよ⁉


 一日目はよかった。肩慣らし程度と学んだ魔物の復習とかで、教わりながらの戦いだったから。

 

 でも二日目から俺一人で戦い始めて、それはよかったんだけど突然背後から全身の毛が逆立つような気配を感じて振り返ったら、首の横一センチのところにカインの剣があった。目の前には綺麗な微笑を浮かべるカインの姿……

 恐ろしいなんてもんじゃなかったよ………


 曰く、前の敵にのみ集中するな。


 

 ある時は、休憩に横になって寝ていたら突然心臓がきゅっとなるような気配を感じて目を開けたら、視界一杯にカインの身長以上ある(カインが確か俺より少し高いくらいだから二メートルかなぁ)大きな鎌を振りかぶるカインの姿………

 確実に鎌の軌道上には俺の首があった………

 

 曰く、寝ていても無意識に気配察知が出来るようになれ。



 ある時は、キャタピラーという紫の芋虫が上から降ってきて悲鳴を上げた時だった。子供の頃から足が沢山ある虫や見た目が気持ち悪い虫が見るのもイヤだったから、思わず回れ右してしまったら後ろにいたカインと目が合った。

 俺と目が合ったカインは、例の綺麗な微笑とともに俺の首根っこを掴み、近くの大きな岩にぐるぐる巻きに縛った。どうするんだとカインを見つめれば、彼はキャタピラー(五十センチくらいの)を三匹捕まえて来て俺の身体に這わせた。


 いくら最下級魔物で噛まれてもチクリくらいだとしても‼あんまりじゃないか‼


 曰く、芋虫系の魔物は大陸地域環境天候に関係なく本当にどこにでもいるらしく、今克服しておかなければ後が大変だという。


 全部理屈としては分かるんだ。でも、もうちょっと違うやり方なかったの…………?

 なんで死の一歩手前のやり方するの⁉殺す気なの⁉


 芋虫の途中から記憶がなく、気づいたら横になって毛布がかかってた。言いたいことがありすぎたが、まだ休めと言われたので軽く食事をして寝た。



 目が覚めてから昨日のは酷すぎる、優しい人だと思ったのに、詐欺だ‼と勇気を出して言ったら、正面から肩を掴まれて足払いをかけられそのまま首根っこを掴み、罠(落とし穴)に放り込まれた。

 落とし穴の先には軍隊あり(一メートルほどで一匹ならGランクだけど十匹以上ならEランクにはね上がる)が五十匹以上いた。俺は絶叫しながら聖剣を振るいなんとか全部倒した。


 落とし穴には隠し通路があり歩いていくと、開けた広間のような場所に出てそこには先回りしたカインが待っていた。

 カインの姿を見た瞬間、泣いた。思いっきり声を出して泣いた。お前はガキか⁉と自分でツッコミたくなるくらい泣きに泣いてやった。


 その間カインは優しさが溢れた綺麗な笑顔で、ずっと頭を撫でてくれていた。

 やっぱり優しいな(鬼畜過ぎるけど)と思って、落ち着くまで撫でてもらった。


 そんなこんなで二週間、地獄を生き抜いた俺はダンジョンを出たら思わず叫んでしまい、その直後カインの厚底ブーツに背中を蹴られました。


 やっぱり酷いね‼



 ダンジョンを出る前夜、カインが大事な話をしてくれた。


 カインも俺と同じ地球から神の力によって転生してきたらしい。彼にも使命というかやらなければならないことがあって、その為に勇者と一緒に行くのだと。

 どんな使命かは聞けなかったけど、そんなことはどうでもよかった。日本や常識、価値観などいろいろなことが分かり合える人がいる。

 なにより、独りじゃないってことが堪らなく嬉しかった。

 火の女神様が言っていた“先輩”とは、どうやらカインのことみたい。


 その時、日本での名前を聞いたら【あお】とだけ教えてくれたので、そう呼ばせてもらうことにした。



 そして俺はこの時何故使命について聞かなかったのか、後で激しく後悔することになった。




 それから更に二週間ほど、この世界について勉強してからアオと二人で旅に出た。

 旅は大変だったけどそれ以上に楽しかった。いろんな人に出逢い、別れて、様々な場所に行った。

 その中で仲間と呼べる人達と出逢った。皆個性豊かで旅がより楽しくなった。


 そして心から愛する女性にも出逢った。彼女だけだと、彼女がいいとそう思った。

 彼女は神官として旅に加わった。

 旅は順調に行った。


 アオが安定の恐ろしさを見せ皆をドン引きさせたり、邪神を倒したら結婚を申し込むと彼女と約束したり、本当にいろんなことがあった。







 旅に出て約三年、ついに邪神との決戦になった。

 

 皆の力を合わせて邪神を倒す。


 崩れていく邪神を見ながら歓喜が心に溢れる。


 神官と涙を流しながら抱き合う。彼女も泣いていた。


 今までの旅が頭に(よぎ)り終わったと噛み締めていたら、ふと視界の隅に聖女の姿があった。


 聖女は悲しみに満ち溢れた表情をして、涙を流して一点を見つめていた。視線を辿ると、こちらに背中を向けた英雄の姿。


 その時になってようやく異変に気付く。空が暗くなり空気が痛い。周囲の魔力が急速に膨れ上がる。


 英雄を呼ぶが、彼は俯き反応はなかった。


 そして英雄の初めて聴く詠唱が耳に届く。


 おかしい……英雄は魔力がなく魔法を使えないはず………


 英雄が何をするつもりなのかは分からないが、イヤな予感がする。


 けれど、身体は動かなかった。


 英雄の身体から魔力が迸る。


 英雄が顔を上げ叫び、視界が白く染まる。



 光が収まり目を開ければ、そこには横たわる英雄がいた。聖女が彼の身体を抱き締め声を上げて泣き叫ぶ。






 何が起こったのか、頭が真っ白になり理解できなかった。


 ただ一つの事実が思考を支配する。



 英雄が死んだということ―――











 ねぇ、アオ?どうして言ってくれなかったの?神様の使命って死ぬことだったの?そんなに俺は信頼できなかった?

 ううん、違うよね。アオのことだからきっと俺の為に言わなかったんだよね?

 でもね、そんな優しさはいらなかったよ。言ってほしかった。話してほしかったよ。

 アオを独りで死なせてしまった。あんなに近くに居たのに。死が逃れられないのなら、せめて最期の瞬間まで隣に居たかったよ。笑顔で安心させたかった。

 でもこんなこと言ったら、アオは怒るかな?

 生意気だって。

 レミーディアのこと、任せてなんて言えないけどちゃんと見てるから。きっと彼女はこの先、幸せになんてならないんだろうけど俺達がちゃんと見てるから。

 だから安心して?

 俺はこの世界で生きていくよ。アオが命をかけて護った世界で、生きていくよ。


 おやすみ、唯一無二の俺の英雄。






読んでいただいてありがとうございました。


次から現在です。

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