41・ヤカサルの村 その三
納屋から出てとりあえずクルシャードを探す。
薬を渡すなら彼だろうな。恐らく騎士団の責任者は彼だと思うし。さっき隊長って呼ばれていたし。
騎士団の者が多くいた入り口を目指す。村は相変わらず騒がしく落ち着きがない。
騎士達が、忙しなく走り回る道を歩きながらクルシャードを探して周りを見回す。
すると左の建物、礼拝堂から出てくるのが見えた。扉が開いた時、中が見えたがやはりここも怪我人がところ狭しと寝かされていた。
村の入り口に向かおうとする彼を呼び止める。
「ノルディさん」
「ん?」
クルシャードと彼に付き従っていた二人の騎士が振り向いた。
「おや、君は先程の冒険者か」
「唐突に失礼ですが、治療が間に合ってないようですね?」
「ウム……………」
クルシャードは厳しい顔で礼拝堂を見る。
「予想以上に怪我人が多くてな。騎士だけではなく村人にも犠牲者は多い。ファイアーレックスの希少種も逃がしてしまうし、最悪な状況だ」
「成る程。ところで話があるのですが、ちょっとこちらによろしいですか?取引がしたいんです」
「取引?」
人目が少ない方を視線で示しながら言えば、クルシャードは訝しげに見ていた。だが話の流れで内容が気になるのか了承するように頷く。ただ警戒はしているようだ。
礼拝堂の近くの木陰に行き、話をする。
「僕は薬と治療の魔石を持っていますので、騎士団にお譲りします。対価はファイアーレックスの希少種で構いません」
「……………薬と治療の魔石は有り難いが、ファイアーレックスの希少種はまだ討伐できてない」
「それなら僕が持ってます。ここに来る道中に拾いました」
「拾った?どこに……………もしや魔法袋か?」
クルシャードは視線をさ迷わせてから、瑠華を見た。
魔法袋とアイテムボックスは同じものだ。袋か装飾品かの違いと、アイテムボックスの方は古代の魔道具だということ。用量的にも全く違う。
「そうです。拾った物なので権利を主張できますが、後でめんどくせ……………ケホン、騎士団と揉めたくないので対価として頂きます。まさか報告しないわけにはいきませんから」
「……………そうか、報告してくれて助かる。だが確実に討伐したという証明の為に牙を一つくれないか?」
「…………そうですね、分かりました」
瑠華は腰のポーチから出したように見せる為(ちょっとムリがあるが気にしない)、ポーチに手を入れてアイテムボックスからフレアレックスを取り出す。
「ああ、確かに希少種だ。ん?この傷は?」
あっ、余計なことに気付くんじゃない!
誰もが見て気付くだろう胸から首が凍っている〈細雪〉の斬り傷に気付かれ、クルシャードを睨み付けてしまったがチラリと見られたので、人畜無害な笑顔を浮かべる。
クルシャードは暫くじっと見つめていたが、一つ息を吐くとフレアレックスの口から牙を折って出した。
わぁお、バカ力!
「確認した、もういいぞ。ではこれは薬の対価として君に譲ろう。報告、感謝する。これで後は異常種のみだ」
「ありがとうございます」
フレアレックスの死体を、腰のポーチに入れるふりをしてアイテムボックスに入れる。
そしてアイテムボックスから、フレアレックスの素材を売った時の金額を考え、それと相応の薬と治療の魔石を取り出す。
別大陸に、一年を通して冬のような寒さの地域がある。当然そこに住む魔物は氷属性ばかりだ。
その地域にフレアレックスの素材を売れば、高値で売れる。
フレアレックスの素材を武器に加工すれば、火属性の付いた武器が作れるはずだ。
金貨五十枚にはいくだろう。
といっても二年以上前の売却値だから、今は違うかもしれないけれど。
これ以上高かったらすみません。
クルシャードも薬と治療の魔石を確認して、異論が無さそうなのでよしとしよう。
「では僕はこれで」
「ああ、本当にありがとう」
クルシャードが頭を下げたので、瑠華も会釈で返しておく。
納屋に戻り扉を開ける。奥にシンが横になり、その傍らにリトが丸くなっていた。
テトが瑠華の影から出て、広げてあった布の上で寝そべる。そのテトの体の上にマリアとムツキが寝そべった。
抱きつきたい衝動にかられるが我慢する。
「お帰りなさい」
「ただいま。シンは寝たのか」
「ええ、ずっと気を張っていたみたい。食事をして直ぐに寝たわ」
シンを見れば、イヤな夢でも見ているのか少し苦しそうだ。
「それで主、説明してくれるのかしら?」
「ああ、そうだったね」
瑠華はリトにこれまでの経緯を説明する。
「……………成る程。勇者召喚、ね。また厄介なことが起こりそうな感じっていうか、もう起こったのね」
「そうなんだよ、イヤんなっちゃう。でも僕は此方の世界に帰ってこれたことだけは純粋に嬉しいよ」
「そうね、私もまた主に逢えて嬉しいわ」
心からの笑顔を浮かべ、リトをゆっくり撫でる。
それからまだ日が落ちるまで時間があったので、食事をしてから簡易な服に着替えて、納屋の裏手にあった広めの場所で鍛練をした。
集中しすぎていたらしく暗くなっていることにすら気付かず、日が沈んで大分経ってから、テトに飛び蹴りを食らって気付いた。
危ないな‼思わず斬りかかったらどうすんのさ‼
その場で服を脱いで行水し(誰も来なかったよ)、簡易な服を着て納屋に入る。
アイテムボックスからランタンの魔道具を取り出し、光の魔石を中の台に置く。納屋の中が仄かな明かりに照らされる。
シンは余程疲れていたらしく、あれから目覚めてないらしい。
皆で食事をして、アイテムボックスから厚手の布団を三枚出し、二枚を敷く。一枚は掛け布団。
シンが夜中目覚めてもいいように、シンの頭の上にランタンを置き、その横に冷めても食べられる食事を出して布をかけておく。
リト以外が布団に入る。瑠華は夜の祈りを捧げて横になり目を瞑った。
翌朝日が登りはじめの薄暗い中、目を覚ます。
皆に小さくおはようを言い、上半身をお超し朝の祈りを捧げる。シンを見るとまだ寝ていたが、夜中に起きた気配がし食事もしていたようなので、今日出発しても問題無さそうだ。
納屋を出て昨日と同じ場所で鍛練をする。
人通り終え、服を脱いで顔を洗って汗を流して服と装備を身に付ける。
昨日と今日の鍛練で着ていた服に、『清潔』をかけてアイテムボックスにしまう。
納屋に入ると、シンが目を覚ましていた。
「おはようございます」
「おはよう、顔色は良いね」
「はい、気分も大丈夫です。薬本当にありがとうございました。今日からよろしくお願いいたします」
そう言って座ったまま深くお辞儀をした。
瑠華はシンに歩み寄って横に着替えと簡単な食事を出した。
「うん、よろしくね。これに着替えてね」
瑠華も離れた位置に腰掛け、皆で食事をした。
準備が整い、納屋を出る。
テトは瑠華の影に入りマリアとムツキは定位置に、リトはシンの影に入れるようにマリアに魔法をかけてもらい入った。
日は登り村人や騎士がちらほら見える。入り口に向かいと、左右に控える騎士が話しかけてきた。
「外に行くのか?希少種はもういないが、まだ異常種がいるはずだ。気をつけろよ」
「ありがとうございます」
騎士に礼を言い、シンを伴って村を出る。
入り口から見えない位置に来ると、テトとリトが出てきた。
「シン、約束はちゃんと守ってね?」
「はい、分かってます」
しっかりした答えに頷き、瑠華はテトに、シンはリトに跨がりヴァルザ火山の右の林を目指して駆けていく。
その前にヒカエルの生息域があるけどね!
読んでいただいてありがとうございました。




