40・ヤカサルの村 その二
本日二話目です。
ではどうぞ。
脳内で「解析」と“洗礼”について解説してしまった。
少年のステータスを「完全解析」で見るのは直ぐに終わるのだが、改めてステータスを見ることの重要性を考えていた。
そのことを心に刻み、少年のステータスを見る。
名前 シン
年齢 14
レベル 8
職業 見習い商人
HP D(赤) MP B(青)
筋力 D(緑)
体力 E(青)
知性 S(赤)
精神 A(青)
敏捷 D(青)
器用 A(赤)
属性 地 水 闇 無(生活)
スキル 魔技 剣技 火耐性 商人の知識 鑑定 偽称
称号 なし
加護 火の精霊神トーラ=スティアの加護
うん。分かった。とりあえず一つだけ。
「シン、って呼ぶけどいい?」
「わっ、凄い!本当に見えたんですね!」
「うん、まあね。それでどうしてもこれだけは言いたいから言うよ?君、職業とステータスが合ってないよ?ってごめんね」
少年はいえ、と言って苦笑いしている。自分のことだから当たり前だけど、分かりきっているようだ。
本当に合ってない。
魔力と知性が高く、属性が三つに火の精霊神の加護まである。
これは明らかに理想的な魔法使いのステータス。
少年、シンも自分で分かっていたはず。それでも彼は父と同じ商人の道を選んだ。
余程お父さんを尊敬してたのかな?
そこはともかくスキルに「火耐性」があるのはいい。
属性も火の反対属性、水を持っていてスキル「魔技」を見たら、中級まで扱える。
魔力制御も、知性がSなら言うことなし。
ああ、本当に勿体ない。彼なら世界に名を馳せる魔法使いになってもおかしくないのに。
ダメだ。それはシンの問題だ。僕が口を出していいことじゃない。
「とりあえず守りは大丈夫そうだね。君は自分のことだけを守ってなさい。でも心配だから、君に僕の従魔を護衛につける」
「従魔ですか?」
「そ。僕の可愛いもふもふ従魔」
瑠華は、立ち上がりながら腰のポーチから〈血の盟約〉を取り出し、シン達から離れる。
「古の盟約に従いここに召喚の儀を行う。我が血と魂を礎に契約せし者よ。我が呼び声に応えよ」
瑠華を中心に魔術陣が形成され、眩い程の光を放つ。
「リト=サージュラ」
光が収まったそこに、テトと同じ姿をした白い獣がいた。
リト=サージュラ
テトと同じスノウウルフハウンドで、女性である。
瞳は濃い赤。性格は母性溢れるお母さんタイプ。氷山にいた頃も生まれたばかりの精霊、妖精、幻獣の面倒を見ていた。
カインに出逢った時、テトと同じで一騎討ちをしたけれど勝ち負け関係なく旅についていこうとしていたと、後から聞いた。
カインを一目見て、危なっかしくてほっとけなかったらしい。
名前はやはり音と響きで決めた。
そんな彼女だから、カインの仲間にも世話を焼いて守ってきた。カインも彼女に仲間の守護をよく頼んでいた。
リトはきょとんとしていた。テトがリトに近づき声をかける。
「リト、久し振りだな」
「あら、テト」
テトに気付き、そして瑠華に気付いてじっと見つめる。
「……………主?」
「そうだよ、リト。久し振りだね」
リトは瑠華に近づき嬉しそうに、顔を瑠華の手に擦り付ける。もふっとした毛が堪らなく癒される。
「リト、説明はとりあえず後でするから。突然で悪いんだけど彼の護衛をしてくれないかな?」
瑠華達のやり取りを、真剣な顔で見ていたシンを指し示す。
「あら、いきなりね。でもいいわ。後でしっかり説明してもらいますからね。私は彼を守ればいいのね?」
頷けば、リトも頷き返す。
「シン、というわけだから彼女の側から決して離れないように。それと出発は明日の早朝にする」
「え?これから行かないんですか?」
「君はまだ動けないだろう?ムリして行っても更に足手まといになるだけだからね。それに村でやることがあるから、ちょっと出てくるよ」
〈血の盟約〉をポーチにしまい、ローブのフードを目深に被る。マリアが翼を広げて飛び肩に乗る。ムツキは瑠華の足から駆け登りフードの中に、そしてテトが影に入って瑠華はシンとリトに顔を向ける。
「じゃあシン、ちょっと出てくるから休んでなさい。リト、シンを見ててくれ。それともうすぐお昼だろうから、食事も置いていく」
瑠華はアイテムボックスから、食べやすい柔らかなパンや温かいスープなどを出してから納屋から出ていった。
シンは瑠華を黙って見送った後、傍らにお座りして見つめているリトに視線を向け聞いてみた。
「……………あの人、何者ですか?」
あんな人、今まで見たことがない。
家が雑貨屋で、小さいながら昔からの信頼とコネで手広く様々な物を扱ってきた。
その為店には色々な人が出入りしていた。中には貴族もいた。父の手伝いで貴族を含めて色んな人を見てきた。
でもあんな人は見たことがない。
見ず知らずの子供に上級傷回復薬と体力回復薬、増血剤を無償で渡そうとするなんて。
隠そうとせずアイテムボックスを普通に使ってるし、あの人が身につけてる服や装飾品も魔道具ばかりだった。
しかもさっき行くのを止められた時、冷たい手で直接心臓を鷲掴みにされたような恐ろしい雰囲気を感じた。
この人には絶対に逆らってはいけない、そんな気がした。
更に四頭も気配が恐ろしい魔物を従えている。
本当、あの人なんなんだよ⁉って感じだ。
だから言葉が話せるリトと呼ばれた白い獣に問いかけた。
「ふふ、自分の目で見極めなさい」
成る程。確かに。父もよく言っていた。
“他人の言葉に耳を傾けるのはいい。けれどそれを全て信じるな。自らの目で見て見極めろ”って。
うん。俺は自分の目で見極める。
あの人がどんな人なのか。
とりあえず今は、しっかり食べて休まなくちゃ。
どうか約束の期限に間に合いますように。
読んでいただいてありがとうございました。
次回で出発します!




