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04・カインとして

 光に包まれて“自分”を自覚する。


 “洗礼”の為、祈りの間で祈りを捧げる格好のままじっとしていた。

 神様が言っていた通り、“自分”の記憶を思い出した。


 絶望が心を埋め尽くし、感情が凍っていく。


 祈りが終わり、家族が待つ部屋へと向かう。

 大量に流れる記憶のせいで頭が重くふらつくが、追従してくれている神官は祈りを行ったせいで疲れたのだと思ったのか、声をかけてはこなかった。



 ふらついたまま、家族が待つ部屋に着き、次は魔力を調べる。神官に言われるがままに水晶に手を置く。





 「………まさか、欠陥色けっかんしょく⁉」

 「………そんな………」

 「………フィンランディ家の者に、欠陥色が出るなんて………」



 未だ混乱する頭の中を落ち着かせる為、水晶に手を置いたまま目を閉じて深呼吸しながらじっとしていたら、そんな会話が聞こえた。


 ゆっくり目を開けて周りを見れば、皆が憐れむような目で見ていた。中には(さげす)みの感情が隠れ見えていて、眉を寄せてしまう。

 分かっていないと思われたようで、父が優しく僕の頭に手を置き静かに口を開いた。


「カイン、水晶に色が出なかった。つまりお前には魔力がないんだ。魔法が使えないんだよ」


 その言葉を聞き、僕はため息を吐いた。





 この世界、ヴェントゥーザに生きる者には必ず魔力が宿っている。魔力量は個人差、種族差があるが“絶対”に誰にでも魔力が有り、魔法が扱えるのだ。


 魔力は一三属性に分けられ、それぞれ色をもつ。

 地は茶、水は青、火は赤、風は黄、光(回復)は白、闇は黒、森は緑、海は藍、焔は橙、雷は紫、聖は黄金、月は黒銀、氷は白銀の一三属性である。


 この一三属性に当てはまらない魔法は、全て無属性で色は灰である。例えば空間、結界、召喚、生活魔法等。


 基本属性は地水火風光闇で、上位属性が森海焔雷聖月。基本属性を極めると、上位属性を扱える。ただし更に高度で強力となり、必要な魔力も多くなるので、上位属性を扱えるのは一流以上の実力がなければならない。

 氷だけは単属性で、扱える者は上位より少ない。



 けれど時折、魔力を持たない者が生まれる。そういう者は、属性(色)を持たない=欠陥色と呼ばれている。


 欠陥色は過去において、例外なく見下され迫害されてきた。戦争が多かった時代では、分かりしだい殺されてきた。

 “無能はいらない”ということらしい。


 現在はそこまで酷くはないが、無能呼ばわりされ見下されるくらいはするだろう。

 特に魔力、属性が一種の特別(ステータス)になる貴族は。





 それをふまえて僕の場合は――



 僕の名はカイン・フューナ・フィンランディ。

 フィンランディ家長子で、現在三歳と少し経ちました。

 母譲りの青銀の髪、右目はアメジストのような美しい紫色、左目は神様から授かった黄金色に光る魔眼、顔は子供特有でムッチリまろいが将来は美男子になるだろうと思われる、らしいです。

 というか周りの者がそう言っている。色合いは母譲りだが美男子の父に瓜二つだと。


 僕が生まれたフィンランディ家は、ジルトニア皇国の筆頭公爵であり、自国の民や他国から“皇家の懐刀”“皇国の剣と盾”等と呼ばれている。皇国の建国初期より、ディザーレウェハス皇家に支える名門中の名門。


 ディザーレウェハス家初代当主であった初代皇帝は、二代目勇者の戦友で唯一生き残った者だった。フィンランディ家初代当主も最後の邪神との闘いこそ参加していなかったが、勇者一行の一員としてそれまで共に旅をし二人に支えてきた。


 勇者が亡くなり、ディザーレウェハスだけが生きて帰ってきた時、フィンランディは激しい後悔を抱き、ディザーレウェハスに勇者の分まで心からの忠誠を誓う。

 二家は深い絆で結ばれていて、それは九百年経った今でも変わらずに続いている。


 その当初から、フィンランディ家長男は生まれた時から、皇太子殿下の専属護衛を務めるのが決められていた。


 それは既に当たり前の事で、絶対的な事だった。


 その家に欠陥色が生まれる。それはあってはならないことで、フィンランディ家にとって大問題だった。




 ………なんでよりにもよってこの家なんだよ、フィンランディ公爵なんだよ………


 僕はこの事実に頭を抱えたくなった。


 小さな村にいる村人その一とかでよかったんじゃないか?なんでこの家なんだよ?一番“欠陥色”が出たらマズいところじゃないか………なにが一番嫌だって?………この両親だよ‼


 とこの事実に対して心の中で憤っていたら、身体が暖かななにかに包まれた。


「大丈夫よ、大丈夫。魔力なんか無くったって、貴方は私達の大切で愛しい子よ。だからそんな風に泣きそうな顔しなくていいのよ、カイン」


「そうだよ、カイン。大丈夫だ」


 母に正面から抱き締められていた。父は悲しそうな顔をしながらも、僕の頭をゆっくり撫でてくれていた。


 前世では感じたことがない親の愛に、この世界に生まれてから惜しみ無く与えられた愛情に、涙が溢れる。


 心に罪悪感が生まれる。



 大丈夫なはずはない。僕には望まれてる役目がある。フィンランディ家にとって、果たさなければならない大事な使命。

 それなのに“大丈夫”と言ってくれる両親の優しさに、胸が苦しくなる。



 だからイヤなんだ‼なんで公爵なんだよ‼なんでこの二人の子供なんだよ‼なんでなんでなんで‼



 唇を強く噛み締める。そうしなければ心の叫びが出てしまう。

両親の顔をそっと(うかが)う。父は悲しそうな顔のまま、安心させるように笑っていた。母は顔を見れなかったが、泣いている気配があった。



 今日までの三年間、二人から愛情を感じない日はなかった。いつも気にかけ、いつも笑って話しかけてくれて、いつも愛してると抱き締めながら言ってくれた。


 いつだって優しかった。

 いつだって暖かかった。

 いつだって愛情を注いでくれた。


 二人だけではない。ここに一緒に来たフィンランディ前公爵夫妻、皇都から離れた領地にいる母方の祖父母、二人の兄弟姉妹で僕にとっては叔父叔母、屋敷で働いている使用人達。皆優しかった。両親と同じように。

 あの人達は、僕のことを知ったらどんな顔をするだろうか?


 憐れむだろうか?

 見下すだろうか?

 無能だと嗤うのだろうか?


 そのどれも見たくはなかった。

 この場にいる祖父母をそっと見れば、二人共悲しそうな顔だったけれどそこに憐れみや失望は見えなかった。


 その事に少し安心したが、やはり申し訳なさは(ぬぐ)えなかった。


 ごめんなさい、二人の子供に生まれてごめんなさい、望まれて生まれてきたのにこんな僕でごめんなさい……本当にごめんなさい……


 心の中でただ謝ることしかできなかった。けれど知らず声に出していたらしい。母は更に強く腕に力を込めた。


 そんなこと言わないで‼


 母の心の声が伝わってきて、とうとう涙が零れた。







 その後家に帰ったら、今日はもう部屋で休みなさいと言われたので甘えることにした。

 やはり記憶が蘇ったことで疲れていたのか、ベッドに横になるとすぐに眠気が襲い、そのまま寝てしまった。



 翌朝、夜明け前に目が覚める。窓の外を見れば空は白み始めていた。使用人達はそろそろ起き出す頃のようで、まだ館内は静かだ。朝食に呼ばれるには時間あったので、これからのことを考えることにした。



 先ずは今日から予定されていた戦闘訓練は予定通り受けよう。魔法訓練に当てられるはずだった時間は、勉強と鍛練に割こう。


 公爵家については、実は母は妊娠中でその子が男だったら安心だが、女でも婿養子をとればいい。幸い親戚の中には男が大勢いる。でもできれば二人の子供に家を継いでほしいので、二人には頑張ってもらいたい。


 皇家の方でも、皇妃様が第一子を妊娠しており、その子が皇太子殿下となる男児で、我が家の子も男児なら同い年になる。

 四つ離れた僕より良いと思う。



 僕はこれから強くなる。強くならなければならない。せめてフィンランディ家の子供として恥じないように、父と母が自慢の子だと言ってくれるように。


 神様との約束を(たが)えることのないように。






 その日から、ひたすら勉強と鍛練をしていた。

 鍛練はすればするほど身体能力が上がっていく。渇いた大地が水を吸収するが如く、稽古をつけてくれている父の部下の騎士が教えてくれた技術を身につけていった。

 勉強は教師が舌を巻くほど、高い知識を学んでいった。


 高い知識や身体能力を身につけるほど周りは、これで魔力さえあれば……と言う。


 その言葉を聞く度に、怒りより悲しみより両親への謝罪が心に浮かぶ。けれど両親は何も言わなかった。今までと変わらない愛情を示してくれていた。




 一ヶ月前、我が家に新しい家族が増えた。幸いにも男の子で、その事実に安堵する。弟より二ヶ月早く皇太子殿下と第一皇女殿下の双子が誕生し、先日御披露目のパーティーが催された。


 どんな目で見られるか想像できる為、非常に行きたくなかったが、これも貴族の務め、しかも皇帝陛下に僕のことを改めて報告する為にも出なければなかなかった。


 会場に入れば憐れみと蔑みの目で見下され、こちらに聴こえるように囁く話し声。僕は何を言われようと構わなかった。ただ両親が侮辱され嗤われることは耐えられなかった………僕は終始、無表情と無関心を貫き時が過ぎるのを待った。

 この日ほど精神的に疲れた日はない。


 皇帝夫妻は僕のことを心から心配しているように、優しい笑顔で話をしていただいた。父がよく休みの日などに皇宮に僕を連れて、皇家夫妻の元を訪れていた。自分たちに子供がいなかったせいもあるだろう、僕をとても可愛がって下さった。




 そしてそれから約四年後、とてつもなく面倒くさい、もといまずいことが起こった。両親とともに皇帝陛下に呼ばれる。



 ――第一皇女殿下との婚約の話。



 二週間ほど前、皇妃様主催の茶会に母と共に招待された。そろそろ旅に出たいと思い始めていた頃だった。鍛練は勿論だが、実戦を経験しなければ意味がないと思い、旅に出ることを決意する。


 さて、どうやって両親を説得したものか、と頭を悩ませる。


 そんな時に母にたまには息抜きでも、と言われて断れなかった。勉強と鍛練ばかりしているので、心配させていることは分かっていたから。


 その場には皇妃様と皇太子殿下、第一皇女殿下、母と僕しかいなかった。成長した皇女殿下と目が合った時、思わず息を呑んだ。


 ――一目惚れだったのだろう、お互いに。


 でも僕はその想いを瞬時に心の奥底に封じ込める。二度と出てこないように。

 そしてどうか間違いであってほしいと真剣に願う。

 皇女の熱い眼差しを。



 けれどその思いは今、儚く散ってしまった。

 余裕などなく必死だった。自分には資格がない、もっと相応しい方がいると精一杯訴えた。必死すぎて旅に出たいと言ってしまった。言ってしまったものは仕方がないと、勢いに任せて皇帝陛下にお願いまでして両親を説得した。

 そして渋々だが許可してくれた。母は泣きながらではあったが。その場は皇帝陛下に謝罪し御前を失礼し、急いで帰路につく。


 両親の気が変わらぬうちにということで、翌日に家を出ることにした。いつでも旅に出られるように準備はしてあったから。





 こうして僕は八歳で旅に出る。






読んでいただいてありがとうございました。

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