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38・少年の懇願

 「…………………どうしても炎晶石が必要なんです」



 炎晶石は火の精霊石の通称である。

 精霊石は珍しく貴重なモノだ。数が少ない上に、精霊石がある場所は大抵精霊が多く住んでいる。刺激しなければ問題ないが、怒らせたら大変なことになる。

 だから人は、精霊がいるところには敬意を持って入らなければならない。

 ただ鉱山や精霊がいない森の浅瀬でも、精霊石は採れるので市場に出回る。

 尤も殆どの場合、国や貴族が手に入れてしまうが。



 そんな炎晶石が必要とは。一体どんな事情があるんだろうね。


 考えながら少年を見ていれば、少年の顔色がちょっと悪くなってきた。


 「主よ、そろそろ上から退いてやったらどうだ?苦しそうだぞ」

 「おおう」


 忘れてた。急いで身体を起こす。

 少年が少しむせていた。


 「それにしても先程のやり取りは、どう見ても“悪徳貴族に脅されてる可哀想な平民”だったな。劇とかでよく見る光景だった」

 「………………」



 失礼な。

 少年が何も言おうとしなかったから、仕方なくだよ。


 それより炎晶石か。他の属性なら持っているけれど炎晶石も、その上位の焔の精霊石、紅晶石も今は持ってない。


 「どうしてって聞いても無駄だろうね。でも一応言うよ。今のヴァルザ火山は危険だから行かない方がいい」

 「そんなことは分かっています。それでも行かなきゃならないんです」

 「死ぬと思うけど?」

 「俺は死にません」


 いや、さっき確実に死んでたと思うよ?僕達が通りかからなきゃ、ね。

 こういう子は何を言ってもダメなんだよな。

 はぁ、本当に仕方ない。


 「僕はこれからヴァルザ火山に入る。炎晶石を探してきてあげるから、君はここで待ってなさい」

 「ヴァルザ火山に行くんですか⁉」


 勢いよく起き上がった少年は、しかし頭を抱えて突っ伏した。


 「そこの薬飲んでいいよ……………大丈夫だよ。お金なんて請求しないから。さっきのは冗談だから」


 先程置いた薬を指し示せば、少年にジト目で見られた。

 

 あら、酷い。


 「飲んだら横になりなよ。直ぐに効き目はこないから」

 「………………俺も連れてって下さい」


 少年は余程辛いのか一気に薬を飲んで横になったけれど、断固たる意志が宿った綺麗な瞳で瑠華を見る。


 うん、まぁ予想してたよ。でも足手まといは連れていけないよなぁ。セラの話ではヴァルザ火山のダンジョンは、Sランクになってるみたいだし。

 昔ならいざ知らず、今は人を守りながらSランクに挑むのは不安がある。


 手がないわけではないけれど。


 「ダメだよ。君は足手まといだ。連れていけない」

 「…………どうしてですか?」

 「君は弱いだろう?」

 「…………自分の身は守りますから」

 「だからね、盛大に守れてないからね?なんでこんな状況なのか分かってる?」

 「……………………」


 縋るような瞳で見つめてくる。


 はぁ、分かってたけど説得は本当にムリだよねぇ。


 瑠華はテトに顔を向ける。


 「テト」

 「断る」

 「だからまだ何も言ってないでしょ!」

 「言わなくても分かる。だから断る」


 このやり取り、今日二度目じゃない?


 「リトを呼べ」

 「まぁ、それが確実かつ健全な選択かな」


 静かに見つめる少年に、瑠華は右手の三本の指を立てて話をする。


 「一つ、僕の言うことには何があっても従うこと。

 二つ、ヴァルザ火山に炎晶石がなかったらキッパリ諦めること。

 三つ、僕にステータスを教えること。

 これが守れるならヴァルザ火山に連れてってあげよう」


 少年は何かを堪えるように顔をしかめる。


 「いきなりこんなこと言ったら、どんだけ上から目線だよって思うだろうけど…………」

 「大丈夫だ。主は最初から上から目線だった」


 外野はお黙りなさい。


 「先ず一つ目、分かってるとは思うけどヴァルザ火山もその周辺も、今は戦いに慣れた騎士や冒険者でも危険な場所になってる。そこに足手まといを連れて行けば危険度は高まる。だから僕の指示に従ってもらう。これは絶対。守らなかったらその場で切り捨てる」


 人指し指を立てて丁寧に話す。少年は真剣な顔で聞いている。


 「魔物の盾になれとか言わないですよね?」

 「言わない。君は自分が守られてる立場だと自覚して、僕の邪魔をしなければそれでいい」


 少年が頷いたので、中指を立てる。


 「二つ目は行ってみなければ分からないけど、過度な期待をするなってこと。ヴァルザ火山の他にこの地域ではもう一ヶ所ありそうな場所があるけれど、そこには絶対に入れない。何故だか分かるよね?」

 「はい、奴隷の最終の地だからです」


 そう、奴隷の最終の地、つまり犯罪奴隷や商会で売れ残った奴隷が行き着く場所。懲役がある奴隷は終われば出られるが、売れ残った奴隷は死ぬまで出られない場所。


 そこは国が管理している。当然警備が厳重。

 瑠華なら入れるかも知れないが、そこまでやる義理はない。


 「だからヴァルザ火山に無かったら諦めること」


 少年は悔しそうに小さく頷く。


 「そして三つ目、僕は「解析」スキル持ちだ。基本的に君を戦闘に参加させるつもりはないが、出来るやつを使わないことほど無意味なことはない。だから君のステータスが見たい」

 「………………」


 少年はじっと瑠華を見つめ考え込んでいる。


 「勿論これは断っていいから。その時は何が出来るか口頭で説明してね」


 断られること前提に言っているから、そんなに考えなくていいのに。


 「分かりました。俺のステータス、見てください」

 「え?いいの?言っとくけど加護まで見ちゃうよ?」

 「加護まで見れるんですか?凄いですね。理由は貴方から貰った三つの薬の対価だと思って下さい。でも他言無用ですよ?」

 「さっきのは冗談だって。対価なんかいらないよ」


 するとここで初めて少年は笑顔を見せた。


 「父の教えなんです。“無償の取引はするな”って。後で何があるか分からないからって」

 「成る程。よく分かってるね。お父さんは商人かな?」


 少年は誇らしそうに笑って頷いた。


 瑠華は彼の意思に敬意を払い、目深に被っていたフードを後ろにやり素顔を見せる。


 「そうか。それと忘れていたけど、僕の名前はルカという。じゃあ、ステータスを見せてもらうよ」



 瑠華は少年の瞳を見つめ、スキル「完全解析」を使った。







 


 

読んでいただいてありがとうございました。


明日の投稿ですが、20時と22時の二回にしようと思ってます。あくまで予定ですが。


20時投稿は、世界についての説明第二弾です。

本当に説明だけなので二話投稿です。

こちらは読まずとも大丈夫だと思いますが、読んだ方が小説が分かりやすくなる、かも?です!

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