32・変化
そういえばと、サピセスの街で受けた依頼を思い出す。
ランクG リンカ草 十本 通常依頼 報酬 銅貨一枚 ポイント1
リンカ草を十本納品して下さい。十本以上あった場合、十本毎に銅貨一枚、ポイント1ずつ上乗せします。
この依頼は常時受け付けております。
ランクG レッドラビット 三体 通常依頼 報酬 銅貨三枚
ポイント3
討伐証明の耳を三つお持ち帰り下さい。三体以上あった場合、一体につき銅貨一枚、ポイント1ずつ上乗せします。
この依頼は常時受け付けております。
ランクG エンリン花 五本 通常依頼 報酬 銅貨三枚 ポイント5
エンリン花を五本納品して下さい。五本以上あった場合、三本毎に銅貨二枚、ポイント3ずつ上乗せします。
この依頼は常時受け付けております。
ランクF ファイアーファング 五体 通常依頼 報酬 銅貨三枚 ポイント10
討伐証明の牙を五個お持ち帰り下さい。五つ以上あった場合、三つ毎に銅貨二枚、ポイント5ずつ上乗せします。
この依頼は常時受け付けております。
ランクX ヒカエルの鱗 一つ 緊急依頼 報酬 金貨五枚 ポイント150
ヒカエルの鱗を一枚納品して下さい。ヒカエルは生け捕りでも構いません。一人一つに限らせて頂きます。
この依頼は必要数に達した時点で終了になります。
うん、我ながらなんか面倒くさそうな依頼を受けてしまったような気がしないでもない。
リンカ草はいいとして、レッドラビットは一角兎の属性種。簡単に言うと火属性を持つ一角兎で、狩り方も一緒となる。ファイアーファングと同じで、この辺りでよく見かける魔物である。
エンリン花は調合すると火傷に効く薬が出来る。火属性が多いこの地域では絶対に必要な薬草で、冒険者は当然として一般人も家に常備している。
ファイアーファングは先に説明した通り。
そしてランクXの依頼。
ランクXとは特殊、緊急のことである。内容は様々で受けられるランクも限られたりする。
例えば貴族の依頼者が特殊な素材を欲したり、街の周辺で魔物の集落が発見され、討伐の為の緊急依頼など。
内容によってランクも、Bランク以上とかAランクパーティーやクラン限定などだ。
今回瑠華が受けた依頼は、ヒカエルの鱗。
ヒカエルとはランクDの魔物で、名前の通り火属性を持つ蛙。水辺のない草原に出没することもあるが、基本的に沼地にいる。体長は二十センチ程でレベルは総じて低く、普通なら下級冒険者が対処できる魔物だ。
レベル的には。
ヒカエルの厄介な所は身の危険を感じると、スキルの「火体」を使って体に炎を纏い突進してくるのだ。
ヒカエルが纏う炎は超高温で、当たれば鉄などの装備を溶かし皮膚が爛れる。
しかも更に厄介なのが炎を纏った状態で死ぬと、体は触れられないほどの高温のままになる。
こんな厄介でしかない魔物が何故ランクDなのか、それは弱点がはっきりしているからだ。
弱点は水属性。水魔法の中級一発で死ぬ。ちゃんと当たれば。
動きは速い方だが、それなりに戦闘経験を積んだ冒険者なら追える程度のもので、突進も真っ直ぐだからちゃんと見てれば避けられる。
スキル「火体」も個体差はあるが大体5~10分なので、その間逃げ回りスキルが切れたと同時に攻撃する。
傍目には情けない戦いに見えるかもしれないが、それが一番効率の良い倒し方。
依頼書には生け捕りでも可とあるけれど、生け捕りなんかできるか‼というのが冒険者達の声である。
そして鱗というのは、ヒカエルの腹にある小さな鱗のこと。この鱗を防具を造る際の素材にすると、“火属性耐性”が付与される。
ただヒカエルの絶対数が低いため、乱獲は禁止されておりこの依頼が出るのは、一年の中でヒカエルが繁殖期を迎えた後だけになる。
ヒカエルの鱗の依頼は、限定依頼になるはずでランクXにはならない。
報酬も上がっている。確か繁殖期は終わっているはずだから、依頼が出てるのは不思議ではない。
瑠華はダンジョンの影響で何か問題でもあったのかと推察する。
ランクGが受けられるくらいだから、誰でもいいから取ってきて的な感じだろうか。なんというか無責任な気がするが、ギルドとしてもどうしようもないのか。
ヒカエルの生息域はヴァルザ火山の麓の辺り。本当なら通る必要のない場所だけれど、入り口から入れない以上、どうせ通るのだから見てみよう。
瑠華が何故、この依頼を受けたのか。
それは単純に、既に鱗を持っていたからである。鱗だけではなく他の依頼品も。
ズルいって言わないで欲しい。
でもランクGが鱗を持っていったら、なんか言われそうではある。でもポイントに惹かれてしまった。瑠華としては早くランクを上げたいのだ。
職業の(嘲笑)を消し去りたいから。
取り敢えずは何度か魔物と戦ったら、サピセスの街に戻ろう。
数回魔物と戦い、サピセスの街に戻る。門に着く前にテトに影に入ってもらい、門で通行証の確認をしてもらって門を潜る。
冒険者ギルドで依頼完了の報告をしてもよかったが、どうせ明日行くことになるからと、このまま宿に向かって歩き出す。
今行くと、依頼を終わらせた冒険者達がごった返している時間帯なので、瑠華は避けようと思ったのだ。
食欲をそそる香りが漂う大通りを進むと、やはりフードの中のマリア達がタシタシと催促してくるが、今は我慢してほしいと瑠華は宥めるように順番に撫でていく。
夕食は宿で取ると伝えてあるのだから。
マリア達の催促のタシタシが、バシバシに変わってきた時に宿に着くことができた。既に夕方の鐘は鳴っているから、夕食は食べられるだろう。
瑠華は宿に入って右側の食事処に向かい宿の娘、アーシャだっけ?に声をかける。
「夕食はもう食べられる?」
「ああ、お客さんお帰りなさい!食事ね、今持っていくから適当に座ってて!」
「大盛りにしてもらえる?」
「大盛りね!料金を貰うことになるけど大丈夫だよ!」
「じゃあ、それでよろしく」
沢山並ぶテーブルの中で、部屋の一番隅の席に壁と向かい合うように座る。
マリアとムツキがフードから出て膝の上に乗る。二人を撫でて癒されながら、瑠華は考え事をする。
やはり魔物の数とレベルが総じて上がっている。街の周辺はまだ影響は少ないみたいだけど、ヴァルザ火山に、ヤカサルの村に近づくにつれて上がってくる。
明日も早朝から出て行こう。けれどギルドで魔物を売却したお金と依頼完了の報告をしなくちゃいけないから、一旦戻るようかな。
でもテトなら、ヴァルザ火山まで半日かかんないくらいだし、ちょっと様子見に行っちゃおうかな!
少しして運ばれてきた料理は、本当に大盛りで三人前はありそうだった。
アーシャに別料金分を支払い、お礼をする。
瑠華が一人前の半分を食べる頃には、残り全てをマリアとムツキが食べ終わっている。
もっと味わって食べなさい。
やれやれと首を振り、マリア達をフードの中に入れて席を立つ。
入り口で客の対応をしていた女将さんに鍵を貰って部屋に行く。部屋に入るとフードからマリア達が出てきてベッドで寛ぎだす。
部屋の中はやはり清潔に保たれていて綺麗だった。宿としては当たりになるだろう。親子の会話をスルーすれば。
「テト、何か食べる?」
「いや、特には必要ない」
瑠華が影から出てベッドに寝そべったテトに聞けば、そんな答えが返ってきた。既に毛布の中に入り寝息をたて始めたマリア達に、聞かせてやりたい言葉だった。
「ちょっとお風呂に行ってくるから」
「ああ」
一階の奥にあった風呂に行って、まったりとした時間を過ごす。早い時間だからか、二人ほどしかいなくてゆっくりできた。
十分に温まり、部屋に帰って寝る準備をする。
ベッドに行き、マリア達を起こさないように毛布に入り、眼鏡を外して夜の祈りを捧げてから眠りにつく。
「おやすみ」
寝惚けたままの小さな鳴き声が返ってきた。
読んでいただいてありがとうございました。




