30・サピセスの街 その二
「立ち入り禁止というのは全てのランクに対しての発令ですか?」
「はい、領主様からは調査が終わるまで冒険者は入れるなと」
調査、ねぇ…………
「何があったのかくらいは教えてもらえますか?」
「はい、それくらいなら。一年程前からヴァルザ火山からサピセスの街の周辺の魔物に変化が表れました。最初は魔物の数が増え始めて、次に希少種と異常種が発見されました。この事で近くにダンジョンが出来たのではないかと推測され、領主様が半年前からここら辺一帯の調査を始めたのです。一番著しい変化が見られ、魔物の推奨レベルが上がってしまったヴァルザ火山は立ち入り禁止になりました」
ふむ、ダンジョンが出来た時の典型的な変化だな。
この国、トシュッゲルにはダンジョンは存在しない。
元々“地大陸”にダンジョンは少なく、シェンドゥーラとルッシャートに一つあるだけだ。
ダンジョンがあると人が、冒険者が集まる。人が集まれば経済が豊かになり国が潤う。だからダンジョンが出現したのなら国としては喜ばしいことになる。
本来なら。
しかし今回は場所が悪い。ヴァルザ火山は推奨ランクがB、魔物が強力だということ。
これが簡単に人が出入りできるような場所なら、魔物を間引きダンジョンの成長を止められ周りへの影響も抑えられる。
何度も言うが、本当に場所が悪い。
トシュッゲル王国には悪いと思うが、今回は破壊の方が濃厚そうだな。
そして先程話に出てきた希少種と異常種。
希少種とは種の中で環境などの影響を受けて、普通は進化しない要素を持つ魔物のことだ。
分かりやすいところで言うと、ゴブリンが知能がなく種族として素養がない魔法を扱う、など。
異常種とは、種の中で決してあり得ない進化を遂げた魔物のことだ。
例えば兎種が、熊種の姿と能力を持った魔物に進化したなど。
この魔物は【カイン】の時、実際に見た魔物で姿はグロかったとだけ言っておこう。
そして名前が“ラビットグリズリー”という、お前ふざけてんのかと怒鳴ってやりたくなった魔物だ。
しかも鳴き声が「ぴょーん」だったんだよ……………勿論、全力で蹴り入れてやったよ?
希少種も異常種も普通に進化した魔物より強く、下手したらランクSSの強さを持つ。
故に希少種と異常種を見かけたら、先ず逃げろ、生きて帰って情報を伝えろというのが冒険者の常識になる。
討伐するにはしっかり準備し、十数人で油断なく挑まなければならない魔物。
「発見された希少種と異常種は討伐されたんですか?」
「希少種は二体発見されたのですが、一体は騎士団と冒険者が協力して討伐しました。もう一体は一度発見された後、目撃情報がありません。異常種は一体発見され、騎士団と冒険者約二十人で討伐に行きましたが、二人が戻り残りは全滅したそうです。討伐も出来なかったそうです」
受付嬢が痛ましそうに目を閉じる。
希少種と異常種が一体ずつ、か。
「発見された場所とかは分かりますか?」
「ヴァルザ火山付近だと聞いております」
成る程。遭遇する率は高そうかな。
それにしても二十人で行って討伐出来なかったとは、余程強い進化を遂げたということか。
その二十人がどれ程のレベルなのかは知らないけれど。
「領主がしている調査はどれくらいで終わるとか分かりますか?」
「今は調査はしておりません」
ん?
「予想より騎士団の被害が酷く今現在調査は中断されております。冒険者などが入らないよう見張りは立っているらしいのですが」
今がチャンスということか。
「ヤカサルの村は今どんな状況か知っていますか?」
「ヤカサルの村は騎士団が常駐し警備を固めています」
うわぁ、なんか面倒くさそうな予感。
「……………もしやヴァルザ火山に行かれるのですか?」
内心でちょっとうんざりしていたら、受付嬢が眉根を寄せて訊ねてきた。
その問いには口元に笑みを作り答えておく。
「いいえ、行きませんよ。だいたい僕はまだランクGですから、入る資格すらもってませんよ」
「……………………は?」
じゃあ、なんで聞いたの?という怪訝な顔をされたがスルーしておく。
「ありがとうございました。依頼ボード見てきます」
受付嬢の痛い視線を背中に感じつつ、依頼ボードから五つの依頼を剥がし受付嬢にギルドカードと共に渡す。
「はい、手続き終了致しました。現在街周辺の魔物のレベルが上がってますのでくれぐれも、くれぐれも!気をつけて下さい」
……………なんで二度言ったの?ランクGだから?野次馬根性丸出しに見えるから?
「……………ありがとうございます」
「それとこちらのランクXの依頼ですが、受けて頂いたのなら分かっているとは思いますが本当に気を付けて下さいね?」
受付嬢が更に念を押してきた。まぁ、この依頼内容なら仕方ないとは思うけれど。
「本来ならランクGの方に受理される依頼ではないのですが、本当に困っているんです」
僕としては都合がいいけれど、ギルド側としては苦渋の選択っぽい……………………………そこまで重くはないか。
「ところで魔物の売却をしたいのですが?」
「それでしたら右の奥のカウンターにどうぞ」
右奥のカウンターに向かうと、大人しそうな男性がカウンターで書類を書いていた。
「すみません、魔物の売却をお願いします」
「はい、こちらでどうぞ」
「量が多いのですが?」
「では裏の倉庫の方でお願いします」
男性についていくと、普段から魔物の解体に使ってる倉庫のようで少し生臭さがキツい。
瑠華の左右の肩に顔を乗せて微睡んでいたマリアとムツキが、フードの奥に引っ込み丸くなった。
人より嗅覚が鋭い魔物と幻獣には少しどころではないらしい。
さっさと終わらせてあげよう。
「こちらの台の上に置いてください」
マグロの解体ショーが出来るくらい大きな木の台に、アイテムボックスに貯まりにたまった魔物の死体をこれでもかと出していく。
ランクE~Gの魔物に限ってだけど。それと先程受けた依頼の魔物は勿論出さないけれど。
ランクGがAやSなんか出したら、変な顔をされるだけじゃすまないだろうから。
「……お、多いですね」
「お願いできますか?素材は全てギルドに売却で構いませんので」
「分かりました。しかし量が多いので時間がかかります。明日また来て頂けますか?」
「それでは明日、またこの時間に来ます」
男性に軽く挨拶し倉庫からギルド内に戻り、出入口から通りに出る。
人が居なかったから当たり前だけど、絡まれなかったな。いつも冒険者達がはける時間に来ればいいんだろうけど、それだとなーんか負けた気がするんだよな。
まぁ、いいか。
まだ夕方の鐘には時間があるからと、瑠華は宿屋を見つけてからちょっと街の外を見に行こうと思い立つ。
ここまでの道中はテトに乗っていたから魔物なんて素通りしていたし、テトから降りて歩いてても会わなかったから、魔物がどれ程なのか確認してみる必要がある。
先ずは宿を探しにと、商店街の方へっ歩いていく。
読んでいただいてありがとうございました。
少し中途半端ですがここで切ります。
書き加えたランクXの依頼については32話で説明します。すみません。




