22・出発と旅の連れ
やっと村を出ます。長かった……………
ではどうぞ。
「あっ、そういえば………」
この空き家を貸してくれた礼をしなければいけないな。
何がいいかな?お金、はここら辺は行商もなかなか来ないだろうから、現物の方がいいか。
塩と砂糖が壺で二つずつに、食材と魔石を渡せばいいかな。それと鉄剣を五本と槍をやるか、あの見張りの男達が持っていたものは使い古されていたからな。
そうと決まれば渡しに行こう。明日は朝早くに出たいし。
包めるように大きな布を取り出し広げて地面に置く。その上に全てを出して置き、布の端を持って一つに縛る。
それをよいしょっと肩に担ぐ。
昔の泥棒みたいな格好になった。
ちょっと間抜けっぽいなんて思っちゃいけない。
ローブのフードを被り外に出る。村長宅を目指し歩いていると、遊んでいる子供達が見える。その子達は瑠華に気づくと逃げていき木や家の陰から覗き見ていた。
格好が怪しいから余計に避けられてる気がする。
まるで珍獣扱いだな
口に手をやり笑みを隠して村長宅まで歩く。
「おや、旅人殿、どうかなさいましたかな?」
村長は瑠華の姿を見て一瞬驚愕の表情をしたが、すぐに柔らかい笑みになった。
村長は先程と変わらずテーブルに座っていた。瑠華は戸口に立ったまま用件を伝える。
「先程空き家を貸していただいたお礼を忘れていました。明日は朝早くに出るつもりなので、渡しておこうと思いまして」
「そうでしたか。お気になさらずともよかったのに」
「そういうわけにはいかないでしょう」
そのまま戸口の横に礼の品を置いていく。全て出し終え村長を見れば、口を開けて呆けていた。その後ろに居たニーノも同じ顔だ。
二泊の礼としては少し多いだろうが、有り余っているのでよしとしよう。
「よ、よくこんなに沢山持てましたね…………」
あっ、驚いていたのそっちですか?確かに異常な力だと思われると思ったけど、アイテムボックスを見せるよりかはいいかなと。
「それにこ、こんなにたくさん…………多すぎだと思うのですが?しかも塩と砂糖をこんなに……………」
「ええ、でもあって損はないでしょう?お金より現物にしたんですが、お金の方がよかったですか?」
村長が困惑したように瑠華と品を交互に見る。そして瑠華の言葉が本気だと分かると、困ったように笑った。
「いえ、確かにここいらは商人もあまり通りません。お金よりはこういった物の方が助かります。ですが、本当によろしいのですか?ただ空き家を貸しただけですのに」
「ベッドで寝たかったので大変助かりました。これはその気持ちなので受け取って下さい」
「…………………分かりました。ありがたく頂戴致します」
村長は深く頭を下げ、ニーノに奥に持っていくように伝える。瑠華も軽く頭を下げ村長宅を後にする。
そのまま空き家に戻り、水の魔石と布で軽く行水をしてから大分早いが寝ることにした。
夜の祈りを捧げ、眼鏡を外して横になり目を閉じる。
翌朝、太陽が登りはじめる前に目が覚める。祈りを捧げてから眼鏡をかけて身支度を整える。
昨日選んだ服と装備を身に付け、制服を丁寧に畳む。もう着る機会はないかもしれないが、彼方の世界の大事な思い出だ。大切に取っておきたい。
アイテムボックスに入っていた出来立ての料理を食べて家を出る。辺りは薄暗く太陽の灯が照らしはじめていた。
村の入り口に行くとあの男が見張り台に立っていた。彼は瑠華に気づくと、降りて近づいてくる。
「随分早い出発だな、まだ魔物の活動時間だぞ」
「大丈夫ですよ、これでも腕には自信があるので」
「へっ、そうかい」
純粋に心配してくれてるようなので、笑って返事を返す。
「そういえば村長から聞いたぞ。大層気前良くいろいろ残していったってな。鉄剣や魔石まであって驚いたよ」
「貴方が持っている剣が変え時に見えましたので」
「ああ、礼を言っておく」
「じゃあ、これで」
「気をつけろよ」
彼が入り口を小さく開き、そこから出る。辺りを見回すと遠くの方に魔物の気配がする。
村から見て右方向に目指すシェシカルの街はある。けれどその前に国境を渡るために、間にある砦に行かなければならない。
疚しいことなどないのでこのまま行っても構わないが、身分証を持っていないから手続きで時間が取られる。
心の底から面倒くさいので、砦をシカトしその先にある森を突っ切ろう。
もう一度言うが、疚しいことなど何一つない。本当に面倒なだけだ。
森を目指し走り出す。草原は人の通りが少ないせいか、街道も荒れている。馬車が通れないほどではないが、お尻に響きそう。
森は走り出してから一五分程で着いた。途中魔物は飛び越えてきたので追ってきている。
さっさと入ろう。
森に入って直ぐに一角兎が姿を現した。
ランクEで五十センチ程で額に大きな捻れた角を持つ。角、肉、皮が素材になり角は討伐証明にもなる。
一般的に出回る肉は一角兎かボア種なので需要があり、いつでもどこでも売買価格に変動なく取引される。大陸全土に数多く生息しているので、見つけたら狩るのが冒険者の常識。
瑠華も例に漏れず、アイテムボックスには一角兎もボア種もかなりの数をストックしている。
焼いて塩をふっただけでも美味しいので重宝するのだ。
ただ一角兎はすばしっこく逃げも早いし警戒心も強いので、狩るのは簡単とは言えない。
見つかる前にやるか、魔法や道具で足止めするやり方が一般的になる。
瑠華は先に見つけた場合は飛び道具で仕留め、対峙した場合は一角兎の速度を上回る速さで斬りつける。
どちらにしろ結果は変わらない。
逃げられる前に仕留めた一角兎をアイテムボックスに入れる。そのまま道なりに歩いていくと、今度はキャタピラーが上から降ってきた。六体も、ボトボトと。
芋虫らしく森にはかなりの種がいる。今降ってきた六体も、二種が三匹ずつ。思わずタメ息が出てしまう。
シカトしたいが思いっきり見られているので、追いかけてきそう。仕方なく全部真っ二つにしてやる。一応素材にはなるが、薬の材料ではないので放置する。森の肥やしになるか、他の冒険者が拾うだろう。
勇者が居たら投げつけてやるのに。
その後も芋虫や蜘蛛、芋虫に蝶そして芋虫と遭遇するが、全部真っ二つにしてあげた。薬の材料になる素材は回収しつつ森を進めば、湖に出た。
「ここでいいかな」
すぐ近くに魔物の気配はしないので、ここで召喚を試そうと思ったのだ。
〔血の盟約〕を取り出し、人指し指と中指に挟み前に真っ直ぐつき出す。
「古の盟約に従いここに召喚の義を行う。我が血と魂を礎に契約せし者達よ。我が呼び声に応えよ」
瑠華を中心に魔術陣が形成される。陣は輝き力の放流が巻き起こる。
「マリア=ツェーレ、ムツキ=ルーン、テト=クラーラ」
輝きが収まったソコには、三体の獣が存在していた。
読んでいただいてありがとうございました。
次こそ街へ!




