19・気づいてしまった虚しい事実
えっと、前話が暗かったので少しでも明るくなればと思い書きました。
ではどうぞ。
オリウェンヒス霊山から一番近くの街まで、徒歩で三日程かかる。間に小さな村があるがそこまでも一日かかる。
とりあえずその村まで全速力で走ろう。野宿をしてもいいのだが、いい加減身体的にも精神的にも疲れてきていた。
なにせ召喚されてからカーウェン鍾乳洞とオリウェンヒス霊山、二つの場所を歩き回っているのだ。
その間戦闘はほとんどなかったが、疲れるものは疲れる。しかも胸糞悪い思いもしている。
本当にいい加減屋根のある家でベッドでゆっくり休みたい。
空を見れば茜色に染まり始めたばかり。セラが【カイン】としてのステータスにしてくれたなら、村までは五時間もかからずに着けるだろう。
なりふり構ってなんかいられない。
僕は休みたいんだ‼
足を中心にして身体全体に“気”を巡らせ、身体強化する。足に力を乗せて踏み込み一気に加速する。
木々の合間を走り枝から枝に飛び崖を飛び越える。回り道などしない、文字通り一直線に駆け抜ける。
森にも草原にも魔物が蔓延っているが無視する。
ムシムシム―――――シ‼
「はぁっ、はぁっ、はぁぁぁぁふぅぅぅぅ」
激しく鳴る心臓を落ち着かせる為に、大きく深呼吸をする。左手の薬指で眼鏡を上げつつ、息を整えながら前方を見る。
辺りはすっかり暗くなり、月と星の光りが降り注ぐ殺風景な草原が広がっている。夜の帳の中、周りに意識を集中すればそこかしこに魔物の気配を感じる。
夜は彼等の支配する時。
長居してはいけない。
遠くにうっすらと人の営みの光が見える。既に門は閉じられ見張りが目を凝らしている時だろう。
そんな時に夜の闇に溶け込むような黒一色のローブで顔を隠した者が現れれば、要らぬ騒ぎを招いてしまうことは分かりきっている。
「怪しさ満点の格好をしている自覚はあるんだよねぇ」
昼でも黒一色のローブで、フードを目深に被っていれば人目を引くことはおいておく。
「ここに突っ立っていても仕方ない。行くか!」
足早に歩いて門に近づく。瑠華の目には既に、門の内側にある見張り台に大人二人が立っているのが見えるがあちらはまだ気づいていない。
「声でもかけてみるか?」
口には出してみたものの、そんなことをすれば騒ぎが大きくなりそうなのでやめておこう。すると漸く見張りの片方が瑠華に気づいたようで慌てている。
「気づいてもらって良かった」
このまま村まで進んでいく。
門まで後五百メートル程近づいたところで、門が少しだけ開き中から男が二人出てきた。その手にはそれぞれ使い古された剣と槍が握られている。
「そこで止まれ!」
言われた通りに止まる。男の片方が警戒心を顕に近づいてきた。村人にしては屈強な男だ。この村の警備のリーダーのような感じだろうか。
「この村になんの用だ?」
「僕は只の旅人です。この先のシェシカルの街に行こうとしています。この村には宿を求めて立ち寄ったまで」
この村、レンデルには宿はない。それは知っていたが、二年の間に出来たかもしれないし、こんな怪しさ満天ローブ男が村の宿屋の有無を知っていたら警戒心を煽るかも?と思ったので一応聞いておく。
「この村に宿はない。旅人や冒険者は空き家か村長の家に泊まるのが常だ」
「成る程、ではそうさせていただけないかな?もう夜も遅いし、疲れていて早く休みたいので」
「………………」
男は警戒しているが、村に入れるか迷っているらしい。
まぁ、当然の反応ではある。
「いいだろう、ただし妙な真似をすれば即刻捕らえる。分かったな?」
「ああ、もちろん」
“殺す”って言わないあたりがこの村だな。それともこの男の性格だろうか?
男についてこいと言われ、村の中に入る。門から近い空き家に案内された。
「この家を使ってくれ。村長には俺から言っておくが、あんたも明日起きたら挨拶に言ってくれよ」
「ああ、分かった。案内をありがとう」
お礼を言ったら奇妙な顔をされた。こんな些細なことで礼など言わないのだろう。普通は。
男が去り家の中に入ろうとドアを開けた瞬間に顔をしかめる。徐にアイテムボックスから風の魔石を取り出し地面に叩きつける。魔石から風が生まれ、家の中に溜まっていた埃を外に追い出した。
その間止めていた息を吐き出す。埃が凄すぎてとてもではないが家に入れなかった。空き家なら仕方ないとは思うが、もう少しマシな家にしてほしかった、と思うのは我が儘だろうか。
タメ息を吐いて家に入る。部屋は二つしかなく台所兼リビングと寝室のみ。寝室のベッドには、触るのも恐ろしい薄汚れた布が乱雑に置いてあった。
「………………あり得ないほど汚いんですけど…………」
その布をぺいっと剥いで部屋の隅に置き、アイテムボックスから清潔な大きな布を四枚、毛布を一枚出す。大きな布を三枚敷き布一枚と毛布を掛け布団にする。
贅沢だ。
アイテムボックス様々である。
この日はそのままベッドに入り、既に身体にしみついた習慣である祈りを捧げてから眠りにつく。
「おやすみ………」
翌日、日も大分高くなってから目が覚めた。窓の隙間から日が射し込んでいる。恐らく後一、二時間もすればお昼頃だろう。
先ずはゆっくりと朝の祈りを捧げてからアイテムボックスから水の魔石、木のタライ、軽い食事を取り出す。昨日外して枕元に置いておいた眼鏡をかける。
顔を洗ってハムハム食事をする。
「う~ん…………ふっっつーにアイテムボックス使っているけど、中身の確認しないとなぁ…………あっ、後ステータスもか……………でもその前に村長の所に挨拶に行かないとなぁ……………あー、面倒い」
寝起きの頭のままで思ったことを口に出す。
「静葉達は大丈夫だろうか…………突然消えたかたちになっちゃったから心配してるだろうなぁ……………でもセラが大丈夫って言ったから大丈夫なんだよなぁ……………カーウェン鍾乳洞なら皇都に行ったかなぁ……………ジルトニアの騎士団に発見されたなら、陛下が保護してくれれば安心なんだけどなぁ……………アカやマナもいるだろうしなぁ…………………………はっ⁉」
ここまでつらつらと頭をフラフラさせながら呟いていたら、唐突に気づいてしまった。昨日からの自分の行動を顧みて、ある事実に思い当たり頭を抱えて項垂れる。
「…………なんてことだ…………僕…………気づいちゃったよ…………」
「……………僕って独り言多くねぇ⁉」
気づいてしまった虚しい事実に、ちょっぴり悲しくなる英雄様でした。
最後の一言が書きたくてこんな感じになりました。
読んでいただいてありがとうございました。




