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16・理不尽な現実

召喚されてから数時間後です。


ではどうぞ。

 オリウェンヒス霊山

 この山は世界で最も高い山である。標高は高く雲に隠れて(いただき)は見えない。


 カーウェン鍾乳洞と同じで精霊が支配する領域である。しかも此処にいる精霊は、月、闇、地のそれぞれの王。

 厳密に言えば支配しているのは月と闇で、地の王は世界を巡っているので住んでいるわけではないが大抵ここにいる。


 オリウェンヒス霊山は二つの領域に別れていて麓から頂までを月が、地下楽園と呼ばれる地下洞窟は闇が支配している。



 何故、“地下楽園”などと呼ばれているのかというと、人が勝手に名付けたのだ。自殺の名所として。

 霊山の地下の最奥には広い空間が広がっていてそこは闇の精霊石、通称は(こく)晶石と月の精霊石、通称は(せい)晶石が壁全体にあってキラキラと輝き神秘的な空間になっている。


 こんな場所なら現世の辛いことを忘れて死ねるかもしれないと、伝わって死を望む者が訪れるようになったとか。


 そのせいで元からここに住んでいた闇の精霊達は、自分達の領域を(けが)す勝手な人間に愛想を尽かし人間嫌いになってしまったらしい。





 霊山はカーウェン鍾乳洞より神聖な気に満ちているが、本能すら無さそうなゴブリンと呆れるほどどこにでもいる芋虫種がやはり存在する。


 だがしかし、霊山にいるこの二種は他の地にいる魔物達とは違っている。何故なら月の特殊魔法である、精神系魔法で闘争心を抑え込まれているからだ。

 故に霊山内をうろちょろしてるだけの平和な魔物達である。人間を見ても襲わない。流石に攻撃すれば反撃されるだろうけれど、何もしなければ素通りできる。


 …………………月の精霊王様は恐ろしいですね。




 創造神・セラフィミリムによって霊山の麓に送られた瑠華はステータス、アイテムボックスの確認を後回しに霊山へと足を踏み入れる。

 セラの改造宣言はとてつもなく気になるが、今はこちらの方が優先だ。


 地下楽園へ入るには先ず中腹まで行かなければならない。中腹にある細い道、そこからでなくては人は入れない。

 途中何度かゴブリンを見かけるが、見えてないようにスルーされたのでシカトした。


 ゴブリンにスルーされると地味に傷つくんだね…………



 霊山の中は寒いので、アイテムボックスから黒のローブを出して羽織りフードを目深に被る。よく考えたら学校の制服のままなので登山には向かない。

 せめて着替えるべきだったかと思うが、今更なのでこのまま行こう。


 人一人がやっと通れるくらいの細い道を進む。少し進んで開けた道に出た時、違和感を感じ立ち止まる。


 ―――人の気配がする?


 最奥まではまだ距離があるが、明らかに人の気配を感じる。



 感覚が鋭くなっている?以前も勇者より感覚は鋭かったが、ここまでだったかな………………セラのカスタマイズの効果、か?



 とても嬉しくないセラの言葉を思い出し、気分が落ち込む。


 頭を振って切り替える。

 人の気配がするということはまだ、あの女がいるかもしれない。用心深いあの女がいつまでも同じ所に留まっているとは考えづらいが、可能性はある。

 気配は一ヶ所に留まったままだ。


 気配を見失わないよう、足早に歩きづらい道を進む。



 最奥に近づくにつれ、空気中の“魔素”が濃くなっていく。この感じは何か大規模な魔法が使われた後に似ている。

 やはりここで召喚の儀式が行われたに間違いなさそうだ。


 最奥の入り口が見え、そのままの勢いで入る。




 「な、なんだ⁉貴様は⁉」

 「どうしてこんなところに人が⁉」


 

 最奥には二人の男が居た。二人とも三十代前半で黒いローブを羽織り身長ほどある杖を持っていた。見た目から魔法使いだろう。二人は人など来ないと思っていたのか、動揺と驚愕を表情に表しあたふたしていた。



 けれど瑠華は二人の男など気にもしていなかった。



 「…………どうして…………」


 その呟きに二人の男は、訝しげに眉を潜めて顔を見合わせ先程と同じように問いかけるが、瑠華は視線すら動かさなかった。



 瑠華の視線は二人の男の背後に向けられている。

 二人の男の背後には、大きな魔術陣が描かれていた。その中央に人のようなモノが二つ転がっていた。


 入り口からは遠い。けれど分かってしまった。


 火の魔法で焼かれたのか、ところどころ焼け焦げ判別は難しい。それでも分かってしまった。


 うつ伏せだから顔は見えないがこの世界では珍しい黒い髪。自分が履いている物と同じ制服のズボン。そしてこの世界にはないデザインの厚手の上着。


 その上着を知っている。ほとんど毎日学校に着てきていた彼等のお気に入りだという上着。


 「…………高橋………………中澤……………」


 あの時あの教室の中に居たクラスメイトが、地に横たわっていた。






 見たくなかった受け入れがたい理不尽な現実が、そこにはあった。




いつも読んでいただいてありがとうございます。

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