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11・神との再会

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ではどうぞ。

 創造神・セラフィミリム・ヴェントゥーザ

 この世界を司り守護する存在。全ての生命の産みの親。


 彼女の他に一三人の神が存在するが、元は彼女の“力”そのもの。一三属性の“力”を具現化し意思を持たせた存在。

 その他にも“神”と呼ばれる存在はいるけれど、それはまた別の意味を持つ存在。



 そして彼女は、僕と“約束”した存在。




 「ごめんね、召喚自体に気を取られていて貴方の魂がいることに気づかなかったの」

 「別にそれは構わないけど」



 彼女の瞳を見つめる。

 彼女の笑みが深まる。


 「記憶はちゃんとある?」

 「…………ああ、大丈夫。ちゃんと思い出したよ」


 僕はカイン・フューナ・フィンランディとして生き、“約束”を果たし死んだ。その事をしっかりと自覚する。

 自覚した上で疑問を口にする。


 「どうして彼方(あちら)の世界だったんだ?」

 「?」


 瑠華の質問の意味が分からなかったらしい。彼女は不思議そうな顔で首を傾げる。

 変わらない彼女に瑠華はつい笑ってしまう。


 「どうして彼方の世界に魂を戻して転生させたんだ?僕が彼方の世界に絶望していることを知っているのに」

 「だからよ」


 今度は瑠華が首を傾げる番。


 「だから?」

 「そう、だから。絶望しているからこそ彼方(あちら)の世界に転生させたの。たとえ記憶がなくても、彼方の世界で幸せになる。その事に意味があり、価値があるから」

 「…………成る程」


 たとえ人として前世の記憶なんかなくても魂が覚えている。


 絶望した世界で幸せになる、かぁ。


 「なんかちょっとした拷問みたいだなって感じるのは、僕がひねくれてるからなんだろうね」


 自分で自分が嗤えてしまう。彼女も苦笑いだ。


 「でも約束守ってくれたんだね。そんなこと僕はすっかり忘れていたけど」

 「ふふ、“来世で幸せにする”。約束だもの。私は加護を与えただけだけど、彼方の世界でも大丈夫なはず。でも………」


 セラフィミリムは不安そうに首を傾げる。


 「幸せだった?」

 「ああ」


 何も考えずに答える。考えずとも答えは出ている。


 「幸せだったよ。両親は早くに亡くしてしまったが、愛されていた記憶はあるし、親代わりの院長先生と神父様は優しかったし、家族と言える幼馴染みはいるし」

 「…………そう」


 彼女は嬉しそうに笑う。


 「ところで皆は大丈夫なんだよね?」


 気になっていたことを問う。


 「ええ、大丈夫よ。貴方と共にいた子達ならあの後、ジルトニアの騎士団に発見されたわ」

 「騎士団に?何故…………というかあそこはカーウェン鍾乳洞だったのか。成る程、どおりでゴブリンと芋虫しかいないわけだ。それなら尚更あそこに騎士団がいたことに疑問を感じるんだけど?……………もしかして、精霊石?」


 彼女に問いかければ肯定が返ってきた。




 カーウェン鍾乳洞。

 ジルトニア皇国皇都から南東に馬車で半日行ったところにある洞窟である。


 カーウェン鍾乳洞は元々、氷を司る神を祀った神殿だった。

 しかし邪神による世界の破壊で入口が塞がってしまう。そのまま人々の記憶から忘れ去られてしまった。

 だが数百年後、研究者によって入口が発見され祭壇に辿(たど)り着く。神殿としての形は崩れてしまっていて、祭壇のみ残っていた。


 神殿だった頃から、多くの氷の精霊が住んでおり鍾乳洞内は祭壇を中心に神聖な気が満ちている為、魔物は寄り付かない。だが鈍感でアホなゴブリンと本っっっ当にどこにでもいる芋虫種のみ生息してしまっている。


 多くの氷の精霊がいるから精霊石―自然の力が集まった結晶体―が他の地よりある。それを求めて国の騎士団やギルドから依頼された冒険者が訪れる。


 ただし、それは急を要する場合のみだ。

 神を祀っていた場所で、更にそこに古くから住んでいるような精霊達を怒らせても良いことなど一つもない。


 だからこそ、騎士団がいたことに疑問を感じてしまう。

 しかも瑠華達がこの世界に来たタイミングに、だ。



 偶々なのか?



 だけどあのタイミングで騎士団が来たのは運が良かった。鍾乳洞は大丈夫だけど、そこから外に一歩でも出たならば危険度は遥かに上がってしまう。

 だが騎士団と一緒なら無事に皇都までたどり着けるだろう。



 とりあえず心配ないことに安堵する。



 「カーウェン鍾乳洞といえば、あの祭壇の古代魔術は発動しないんじゃなかったっけ?確か壊れていたような?」

 「あの祭壇なら壊れているわよ。私が貴方を呼ぶために、私の力を込めて魔術を発動させただけ。あの祭壇自体は壊れているから、もう動かないわね」


 成る程。

 いや、あの祭壇が動くかどうかなんてはっきり言ってどうでもいいんだけどね。

 ちょっと気になっただけさ。



 「で、今回のこの召喚は君の力、ではないよね?」


 創造神・セラフィミリムはこんなことしない。

 これは彼女に対する信頼。だから断言できる。


 この召喚は彼女ではない。


 「ええ、今回のは人間が勝手に行ったこと。だからこんなことが起こってしまった」

 「人間が?神でもない人間が、異世界召喚を行った?」


 セラフィミリムは真剣な顔で頷く。その顔に厄介事の気配を感じて、瑠華は思わず苦笑してしまう。


 人間の力で行われた異世界召喚。そのこと自体が無茶で無謀な事なのに、こうして成功し一人ではなく数十人もの異世界人が此方の世界に来てしまった。


 それはそれだけの人間の人生を狂わせてしまう行為。

 神であってもやってはいけないことを、人間がしてしまった。決して赦されることではない。

 生きたまま魂ごと地獄に落としてめ業火に灼かれても、有り余る程の罪深さ。きっと召喚を行った人物は、そんなこと自覚してはいないのだろうけれど。



 ――――ああ、ムカつくなぁ………



 僕はいい。此方の世界に帰ってこれたことは、心から嬉しい。けれど他の人達は違う。

 普通の人間だ。普通に生きて普通に幸せになっていた唯の普通の人間だ。

 こんな非常識で理不尽な事に巻き込まれて、人生を狂わされていい人間ではない。



 怒りが込み上げる。ただここで苛立ったところでどうにもできないと、瑠華は一度深呼吸して心を落ち着かせる。


 改めてセラフィミリムを見る。彼女はじっと瑠華を見つめていた。瑠華は眼鏡の奥の瞳を細めて彼女の瞳を見返し、問いかける。



 「僕は何をすればいい?」



 セラフィミリムの美しい黄金の瞳が細められた。





読んでいただいてありがとうございました。

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