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01・二年前の戦争

過去話です。矛盾がないか心配です。

脆すぎる豆腐メンタルですが、頑張って書いていきます。温かい目でみて下さい。

 二年前――

 異世界より召喚されし勇者、その仲間達と邪神との闘いがあった。互いの力は拮抗(きっこう)し、闘いは熾烈(しれつ)を極み、両者とも一歩も引かなかった。

 勇者は三年の旅を経て得た仲間と絆を信じて、自らがもつ全ての力を出しきって闘った。


 邪神を倒す。


 それが彼がこの世界に喚ばれた理由であり、与えられた使命なのだから。









 初めは小さな違和感だった。

 魔物の数が増えた、いるはずのない魔物がいた、稀少種を見た、異常種を見たなど時折見られる変化だった。けれどその数が次第に増していった。

 世界各地で変化が起きていた。

 とある国で魔物による暴動(スタンピード)が発生する。それは別に珍しいことではない。どこの大陸や国でも一年に一度は起こることだから。

 けれど同じ場所で五日後に同じ事が起こった時、違和感はある推測へと変わる。



 ―曰く、邪神が現れたのではないか



 その推測は多くの者達の頭に浮かぶが、誰も口には出せなかった。言葉にしてしまったら“それ”が現実になってしまうんじゃないか、という不安が人々の口を閉ざした。


 しかし、人々の不安は現実となる。


 

 五大国が一つ、ランクオーネ公国が誇る貿易の要である港街が、突如空から降り注いだ無数の炎に呑み込まれる。人々は何が起こったのか理解できないまま逃げ惑う。

 街は火の海となり崩壊していく。街の住人はその様を、絶望に囚われながら見ていることしか出来なかった。


 その時、空から人々の耳に“声”が届いた。




 ――我は邪神の眷属なり。我はここに邪神の復活を宣言する。これは我が主に捧げる祝いである。




 その日から、魔物の数が激増し活発化していった。

 各国は厳戒態勢を敷き、魔物の脅威に備えた。魔物から力なき人々を護るため騎士や冒険者達は闘った。

 多くの血が流れ、少なくない犠牲を出した。



 そんな中、一つのクランの名が上がる。


 《紫紺の太陽》


 元々そのクランは有名であった。

 先ず彼らの出で立ちが、黒で統一された軍服のような綺麗な服と装備、右の上腕部分に結ばれた紺の布。揃いの衣装が人々の目を引いた。


 次いでクランのメンバーに注目する。

 人族、獣人族、エルフ、ドワーフ、魔族。多種族の者が所属していた。

 世界的に人種差別がないわけではない。五百年前までは、人族が他種族を支配し奴隷としていた。


 現在では人族以外も国や街を造り、友好関係を築いている。

 けれど一部の国や宗教では昔の慣習が残っており、人族至上主義が掲げられている地がある。


 種族間の因縁、(わだかま)りというのもある。

 遥か昔より、エルフ族とドワーフ族は互いに相入れない存在で、決して交流を持とうとしなかった。

 他の種族にも少なからずそういうものがあった。


 故に《紫紺の太陽》の、種族に関係なく仲間として手を取り合い笑い合う様に驚く。

 そして戦いになれば洗練された動きと統率力で、冒険者のイメージ―粗野で横暴、協調性に欠ける、不潔―とかけ離れていたことから依頼主やギルド関係者、一般人の印象に残る。



 そして《紫紺の太陽》を有名にした最大の要因は、世界で数百万人いる冒険者の中でも、たった三人しかいないSSSランクの一人が創立し、リーダーを務めていたからだった。


 カイン・フューナ・フィンランディ


 この世界において必ず誰もが持つ魔力を持たない彼は、剣を初めとする様々な武器、ほとんどその概念がない格闘術、魔力とは違う身体に流れる“気”を使った技術などを用い戦う。

 中でも剣技は、一流と名を馳せる剣士でも全く相手にならない程、卓越(たくえつ)しており()の者の追従を許さなかった。



 《紫紺の太陽》は世界各地で、邪神の眷属と眷属が力を与えた魔物と戦い駆逐(くちく)していく。


 常に誰よりも前に立ち、皆を率いて戦うカインの姿を見て、人々は彼を“英雄”と呼ぶようになる。


 怯まず、諦めず、血を流しながらも人々を護るその姿に後押しされ、各国の騎士や冒険者達は劣勢だった状況を覆していく。


 人々が奮起した結果、邪神の眷属や魔物達の勢いは削がれ、戦況は拮抗するまで持ち直した。

 邪神の眷属は人が持つ力に(おのの)いたのか、世界各地から気配を消し身を潜めた。


 世界に一時の仮初(かりそ)めの安らぎが訪れる。




 人々はこれを逃さずに態勢を整える。


 そしてこの時、五大国が一つ、ジルトニア皇国に一つの神託が下る。



 勇者召喚の神託である。



 ジルトニア皇国は神託に従い、勇者召喚を()り行う。

 そうして黒髪黒目を持つ異世界の者、桐生暁(きりゅうあかつき)がこの世界に降り立つ。



 勇者の闘いの師には、英雄が()く。

 英雄の指導の下、勇者としての強大な力を身につけていき、僅か一月(ひとつき)で邪神を倒す為に英雄と共に旅立つ。


 勇者は旅で多くの経験をし、七人の仲間を得た。旅を通じて勇者を中心に強い絆を結んでいく。








 そして三年後――

 勇者と邪神は相対す。


 勇者の為に邪神への道を開ける為英雄が、剣士が、(そう)戦士が、重戦士が武器を振るい、魔女が、精霊術師が魔法を放ち、聖女が、神官が皆を護り癒しながら支援をする。



 勇者一行と邪神の闘いの邪魔をさせないよう、世界中から(つど)った各国の騎士や冒険者達が、邪神の眷属と集められた魔物達と闘う。



 激しい闘いの中、ついに勇者によって邪神は倒され、世界が光に満たされた。





 それが世に伝わった情報である。









 英雄の死とともに―――









 

 邪神は世界の終わりを願う。

 それが、邪神が生まれた“意味”だから。


 己の力を与えた眷属に世界の破壊を命じる。邪神の眷属は、力と知恵を使って人や街、国を襲う。

 人々は武器を持ち(あらが)うが、強大な力の前には無力で“弱者”であった。

 だから人は勇者に(すが)る。英雄に願いを託す。勇者一行に希望を夢見る。

 


 邪神を倒すのは“勇者”。


 それは一つの決まり事。


 けれど世界は救われない。


 英雄は知っていた。解っていた。


 神との約束。


 神の願いを受け入れ、この世界に生まれた理由。


 果たさなければならない約束の為、そして自らの願いの為に英雄は死を受け入れる。




 そうして世界は救われる。













 だがこの時、静かに動き出していた歪んだ歯車の存在に気付いている者はまだ誰もいない――――







読んでいただけてありがとうございます。

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