エピローグ 2 振り返り
「黒髪ちゃん今ね、私たちが出演した作品の振り返りをしていたところだよ」
「そうなんですか。なんていう作品なんです?」
黒髪の問いに金髪が答える。
「『メインヒロインに物語を丸投げしてみた』っていう作品よ。ライトノベル」
「へぇー、先輩方はどんな役で出たんですか?」
「あたしはメインヒロインよ。なんか本当に偶然的に、白羽の矢が立っちゃったの。確か監督がランダムで決めたって、脚本家の人が言ってたわ」
「それはすごい確率ですね。しかもメインヒロンですか」
「私は金髪さんをサポートする役。残念ながら表には出ないんだけどね」
黒髪にメモ丸(『メインヒロインに物語を丸投げしてみた』の略称)での自分の役を説明したあと、金髪は黒髪に対してメニュー表を渡しながら言った。
「ほら、黒髪も何か頼みなさい。あたしが奢ってあげるから」
「ありがとうございます。ええっと、どうしようかな……」
それから黒髪はタンとハラミを一人前ずつ、同じく白飯と一緒に注文した。
しばらく三人は焼肉に舌鼓を打つ。少しでもこのちょっと豪華な食事を記憶に刻もうと、一噛み一噛みを大事に堪能する。そして食事も後半に差し掛かると、再び会話に花が咲き始めた。
「先輩方の出演した、『メモ丸』についてもっと聞きたいです」
「そうねぇ……。まず役者があたしと赤髪だけでしょ。それから決まったストーリーがなくて、全部あたしたちがその場で考えるっていうスタンスなの」
「しかも打ち合わせをしてから、数時間ですぐその世界に行きましたよね」
「そうそう。あれはびっくりしたわ」
「それは、何というか、奇をてらった作品ですね……」
黒髪が箸を止めて、やや驚いたような、やや訝しむような、何とも言えない複雑そうな表情をする。でも大丈夫、あたしも今でさえそんな感じだから。
「奇をてらったもそうだけど、脚本家の人自体がこれは実験作だー、みたいなこと言ってたしね。まあ実際、すごい実験作感がプンプンしてたけど」
「けど、新鮮感があって楽しかったですよね」
「確かに、こんなの初めてだったから、楽しかったといえば楽しかったわね」
しみじみと作品内であった光景を、脳裏に思い返してみる。今思えば、本当にいろいろなことがあったと思う。今となっては、いい思い出だけどね。
「自分でストーリーを考えるって、難しくなかったですか?」
おしとやかに焼肉をいただきながら、黒髪は重ねて質問を放った。
「難しくはなかったですよね? 金髪さん」
「そうね。ほとんどその場のノリと勢いでやってたから、難しくはなかったわね」
「え、そんなので良かったんですか?」
「それがそんなので良かったのよ。脚本家の人……というかその作品の監督が、向こうからノリと勢いで動かしてほしいって言ってたし。何というか、その場のインスピレーションが大事だとか言っていたわね」
「だから数時間でその世界に行ったんだよー、黒髪ちゃん。ノリと勢いが大事だから」
「ああ、そういうわけだったんですね」
黒髪は納得したように頷いた。金髪が続けて言う。
「とまあ、そんな感じで、その世界で仕事をしてきたわけなんだけど。物語の序盤から死にかけたわよね。あの時はマジで死んだかと思ったわ」
「ああ。あのRPGのやつですか?」
「そそ、あれあれ。あの時はほんとに死んだかと思ったわよ。走馬灯が駆け巡ったわ」
「ええっ、何があったんです!?」
黒髪が興味津々になって聞いてくる。可愛い後輩め、どんどん話しちゃうぞぉ~。
「いやぁ、主人公のお宅にRPG‐7っていうロケットランチャーを撃ち込んだんだけどね、それが反転してこっちの方に返ってきたのよ。結果として無事回避できたんだけど、あれはマジで直撃したら死んでたわ。たぶんどこかしら千切れてたと思う」
「えっ? 何で跳ね返ってきたんですか?」
「それはね、あの世界にはイレギュラーというものがあって……」
内情を知らない黒髪に対してイレギュラーと、ついでに権限について説明してあげた。
「なるほど、それでですか。……そもそも、なぜRPGを撃ち込もうと思ったんですか?」
「何となく挨拶代わりに。初めなんだから派手にいこうと思って」
「……凄まじく派手な挨拶ですね」
「そのおかげで、主人公とのファーストコンタクトは完璧だったわ」
「今思えば、最初の頃から息ピッタリでしたよね、金髪さんと紘さん。会話の掛け合いが完璧でしたもん」
確かに、最初から紘との掛け合いは、まるで波長でも合っているかのように息ピッタリだった。キャラ役者として決まった台詞を言い合っているわけでもないのに、こんなにもポンポンと掛け合いができたのは、やはり思考回路が彼と似通っていたからだろうか。
それと、紘がライトノベルを読みまくっていて、慣れていたせいというのもあるかもしれない。いや、確実にそれはあるわね。間違いなくある。
「RPG‐7のあとはどうなりましたか?」
黒髪が『メモ丸』の物語の先を訊いてくる。
「そのあとは、その主人公の家で朝食をごちそうになったわ。その時にまたイレギュラーで、あたしの座った食卓の椅子が木っ端微塵に弾け飛んだけど」
「それは、なんか、悲しい光景ですね……」
「まあそのあと、主人公の体を椅子代わりにしてやったけどね」
「例の権限で、ですか?」
「そう、権限で。権限は本当に何でもできるのよ」




