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プロローグ 5 塔冥狐

 現れたのは、ウェーブがかったセミショートカットの赤髪に、半袖のTシャツにオーバーオールという姿の女の子だった。幼さが残る顔立ちで、あたしよりおそらく年下だろう。話の流れ的に彼女が塔冥狐さんなのは間違いない。

「どもども、赤髪セミショートウェーブ――もとい塔冥狐です。よろしくお願いしまっす」

 フランクなのか丁寧なのか良く分からない言葉で挨拶しながら、冥狐は二人のそばに寄ってきた。そして二人が囲む机の隣まで移動すると、そこでピタリと立ち止まった。

 冥狐は金髪の目を見つめながら言う。

「あなたが広院乃子……役の方ですか。ども、私が塔冥狐という名前を授かった、あなたをサポートさせていただく者です。以後、よろしくお願いしまっす」

 彼女は無邪気な笑顔で手を差し出してくる。金髪はその手を取って握手をした。

「こちらこそよろしく、冥狐さん」

「冥狐でいいっさ。私も乃子って呼ぶから」

「分かったわ、冥狐」

 ずいぶん外交的な子だな、と金髪は思った。しかも心理的接近の仕方が上手い。丁寧な言葉遣いとフランクな言葉遣いを織り交ぜ、すぐに初対面という壁をするりと抜けてきている。

 これは意識的にやることもできるが、この子の場合はたぶん無意識に、本能的にやっているのだろう。そんな気がする。

 金髪と冥狐の手が離れたのを見てから、脚本家は口を開いた。

「では、塔冥狐さんと仕事をするにあたって、三つ大事なことを彼女から直接伝えてもらおう。半透明化と声のフィルタリング、それと無声会話だ」

 脚本家の言葉を引き継いで、冥狐が説明する。

「うい。えー、まずは半透明化だね。これをやると私の姿が乃子以外に見えなくなるよ。ちなみに、この状態だと物理的干渉もしなくなるよ」

 せい、という何とも可愛らしい掛け声と共に、冥狐の姿が薄くなる。しかし完全に透明になるのではなく、言葉通りに半透明化した。体と服装が半分透けていて、冥狐が障害となって見えないはずの奥の壁が、今は見えるようになっている。

 完全に透明にならないのは、どこにいるのかを分かるようにするためだろう。

「二つ目が、声のフィルタリング。これは私の声が乃子以外に聞こえなくなるんだ」

 えい、という再び可愛らしい掛け声。

『これで乃子にしか聞こえないはずだよ。おーい脚本家さーん!』

 冥狐は脚本家に呼びかけるが、当の脚本家は交互に金髪と冥狐を見ているだけで、その呼びかけに気づいている様子はまったくない。

『最後三つ目が、無声会話。これは、声を発しなくても私と会話ができるようになるものだね。いわゆるテレパシーというやつかな。声が発せない状況でも会話ができるよ』

 三度目となる、とう、という掛け声。

『ちょっとやってみて』

(……あー、あー、こんな感じ? 聞こえてる?)

『大丈夫、バッチリ聞こえてるよ。……説明はこんなところかな』

「オッケー。理解したわ、ありがと」

 金髪は冥狐に向かってそう言う。すると、冥狐の姿が元通りになった。どうやら掛け声は必須ではないらしい。今度は冥狐が脚本家に対して言った。

「脚本家さん、説明終わりました!」

 彼は軽く頷いて口を開く。

「よし、話はこれで全て終わりだ。二人ともよろしく頼むよ」

「はい」

「うーい」

「さて、じゃあ早速作品内に行ってもらおうか。――今からすぐにね」


 …………えっ?

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