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第二章 3 設定ができた(生えた)

 教室内がにわかに騒がしくなる。その騒がしさを破るように声を発したのはレミアだった。

「広院乃子でばっかり盛り上がってんじゃないわよ! まだわたくしがいるでしょうが!」

 その叫びで、教室内は水を打ったように静かになった。……一部、意識をなくして静かにしているクラスメイトもいるが。先生が引き継いで言う。

「そうですよ皆さん。ほら前を向いてください」

「そうですわ。わたくしの方を向きなさい。殺すぞ、クソ野郎ども」

 レミアが仁王立ち兼腕組みのコンボポーズで仰々しく悪辣に言うと、さすがにクラスメイトもそれに従っておとなしく前を向いた。

「えー、気を取り直して。二人目の転校生のレミア・レーネスさんです。挨拶を」

「わたくしはレミア・レーネスと申します。これからよろしくお願いいたしますわ」

 レミアは両手を体の前で重ね合わせると、上品にお辞儀をした。顔を上げると、彼女はチラリと乃子を見て、そして再び口を開いた。


「わたくしはこの女――広院乃子の監視及び悪魔の退治のために、この学校に参りました」


 本来は驚愕する場面なのだが、この展開と物語を考えたのはあたしなので、特に驚くところはなかった。むしろ設定通りに事が運んでいて安心している。

 だが先生やクラスメイトは、突然の宣言に戸惑いを隠せていなかった。

「この女は害悪ですわ。この女の近くにいるだけで、予想もしない不幸なことが起こってしまうのです。言うなれば、疫病神といったところでしょうか」

 レミアはさっき入ってきた教室の扉を指差して話を続ける。

「先ほどの黒板消しを見たでしょう? 現実には、あんなことありえません。それこそが、彼女が疫病神であることの証拠に他なりませんわ」

 レミアの言葉に驚いているのか、はたまたまだその言葉の意味を理解できていないのか、いずれにせよ教室内で言葉を発する者は一人もいなかった。

 というか、黒板消しは不幸なことを招く体質であることの証拠――つまりはイレギュラーを見せるためにやったことだったのか。今になって意味が分かった。

「本当はこの女と悪魔の関係についても話したいところなのですが、時間もないですし、一度に多くのことを話しても理解できないでしょうから、今はやめておきますわ。……失礼しました先生、わたくしの話は以上ですわ」

 呆然としていた先生も、レミアの話を締めくくる言葉でようやく平静を取り戻し、生徒と二人に向かって言った。

「お二人の席は一番後ろのあそこです。では皆さん、お二人と仲良くしてあげてくださいね」

 乃子とレミアは教壇から下り、指定された席へ行くとそこへ着席した。

「それでは連絡事項がなければホームルームを終えますが、何か連絡のある人はいますか? …………いないようなので、これでショートホームルームを終わります」

 最後に欠席者のチェックを済ませると、先生は教室から出ていった。


 あたしの考えた設定はこうだ。

 最近、乃子の身の回りで不幸なこと、奇想天外なことが起きるようになった。これはどうやら自分――広院乃子のせいであるらしい。もっと言うなら、広院乃子の魂のせいであるらしい。何にせよ、乃子の近くでは、不幸なことが頻繁に起こってしまうようになっていたのだ。

 これはイレギュラーをそういうふうに捉え、設定として昇華したものだ。

 そして不幸なことなどを引き起こす体質――レミアの言葉を借りて『疫病神』としよう、その疫病神体質には困ったところがあったのである。それは、悪魔を引き寄せることだった。

 乃子の疫病神体質は、悪魔にとって夢のような体質であり、蜜のような体質だった。そのため、悪魔は乃子を手に入れようと――正確には乃子の魂を手に入れようと、我先にと乃子のもとへ向かってくるのである。周りから見れば、乃子が引き寄せていることになるだろう。

 悪魔は乃子の体質とは別に、さらに不幸や厄災をもたらしたり、人に憑りついて悪さをしたりする。対策をしなければ、どれほどの被害が出るかも分からない。ただし、本当にシリアスな被害ではなく、ギャグ的な意味での被害なのだが。

 ここで、レミア・レーネスが登場する。

 レミアは前述の設定を踏まえて、悪魔に狙われる乃子の監視及びその悪魔の退治のためにここに来たというわけだ。彼女の台詞の裏には、今言った設定が流れていたのだ。

 余談だが、転校生が同じクラスに二人も来るのは、普通はありえない。一般的に転校生は別々のクラスになるのが普通だ。しかし、乃子とレミアの場合は各々の設定と目的があるため、別々にするより一緒にした方が都合が良いのだ。

 そして権限を使えば、不審に思われることなくそうすることができる。

 ――さて。

 大まかな説明を終えたところで、再び物語に戻りましょうか。


「広院乃子、わたくしについてきて。話がありますの」

 三時間目の授業が終わるとすぐに、乃子の右隣の席に座るレミアが声を掛けてきた。

 教科書や筆記用具を片付けながら、乃子はぶっきら棒に返事をする。

「トイレのお誘いならお断りよ。一人で行きなさい」

「そんな子供みたいなマネしないわよ!」

「あんた七歳でしょ? 一番子供じゃない」

「……広院乃子。あなたいい性格してますわね。ぶっ殺したくなりますわ。いいから黙ってついてきなさい。これは命令ですわよ」

 ここで黙ってついていってもいいのだが、もう少し遊んでからにするか。すぐにシーンを進めてしまうのも何だかもったいないし。この物語は単なるストーリーものではなく、どうなるか分からない退屈で怠惰な、つまらない物語なのだから。

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