EPISODE1
朱く空が染まったその光景に幼い僕は動けずに居たんだ
西暦2550年東京ーTOKYOー
今でもまだ記憶に焼き付いているその光景が。昼間だってのにあたりは暗く人は逃げ惑う。まるで夜中のような暗いその闇の中を。だが闇とは反対に月は朱く染まり照っていて、幼いながらも僕はまるで昼と夜が同時に来たんじゃないかと錯覚したんだ。
『原因不明の異常気象が現在日本、いえ世界中を襲っています!市民の皆様は自宅から動かないようにし安全を確保してください!まもなく総理からの緊急の会見が始まります!』
渋谷の大画面の中でニュースキャスターが取り乱した様子で報道している。
まもなくすると画面がLIVEに切り替わり見慣れた総理の顔が映し出される。
『国民の皆さま、ただいま各国と連携しこの現象の原因究明に奔走しております。ただこのような事態は過去にも例がなく各国共にいまだ原因がつかめていないというのが現状で』
総理の「現状です」という言葉を最後まで聞くことはかなわなかった。
その瞬間総理は画面から消えた。正確には消された。その場には誰もいなくなりただレンズについた血しぶきが流れ落ちるのみだ
俺はその中に微かに影を見た気がするがそれが何者だったのかはいまだに分からない。
そしてこうなるとますますそのニュースを見ていた市民は悲鳴を上げ逃げ惑う。
僕は母さんの手を右手で握りしめ、幼い妹の手を左手でもっと強く握りしめた
「か、かあさん」
不安そうに見上げる僕に母さんはなぜか妙に落ち着いた様子でほほ笑んでただ「大丈夫」そういった
そして僕に「ひいちゃんのこと…守ってくれる?お母さんいかなきゃいけないの…本当はもっとみんなで一緒にいたかったけど、お母さんがいかなきゃいけないから」といった。
記憶にある母さんは薄れつつあるのにその最後の母さんだけは今でも鮮明に思い出せる。母さんが二度と帰ってこない、そう僕は感じた。
「ひいらぎのことはぜったいまもるよ…でも…でもぼくかあさんもまもりたいよ…」
そう泣きそうにいった僕に母さんは少し驚いたような顔をして少し悲しそうな顔をした。
泣きそうな顔をする母さんは僕に「…ありがとう。母さんはねそれだけで頑張れるわ。」そういって僕の右手をそっと離した。
そして僕は何もできずにただその母さんの後ろ姿が闇に消えるまで見つめることしかできなかった。
家に妹と一緒に帰ってみれば不思議と俺の家だけは荒れた様子もなかった。だがそれと同時にいつも暖かく迎えてくれる母さんもいないことに気付き僕は大声で泣いた。
数日後意味を持たなくなったテレビが突如ついた。そしてそこにはすっかり荒廃した東京が映し出された。そして一言その画面に映し出された真っ白い少女がこういった
『人間界は我々の手に落ちた』と
そして現在西暦2562年_Xデイから12年が経った
「はやくしなよ!私先行くからね!あ、戸締り頼んだ!」
あわただしく階段を下りていく妹の足跡の後に響く扉を閉める音
「ちょ、ちょっと待って僕ももうでるって!!・・はあ」
いつものように家を出るのが最後になった僕は歯ブラシを手に取り歯を磨きながらテレビの電源を付けた
『では次のニュースをお伝えします。本日の午後に人間界大総帥様が天界と魔法界の大総帥様と会談をすることが明らかになりました。これを受け日本帝国が各界とどのような姿勢で渡り合っていくのかが注目されています』
「天界…か」
あのXデイのテレビ放送のあとすべての真実が語られた。
この世界は一つの世界から成り立っているわけではなく幾多の世界が重なり合って作り上げられていること。
その世界は「天界」「魔法界」「魔界」そして「人間界」の四界で成り立っていること。そしてその各界をつなぎとめる扉こそがGATE-ゲート-と呼ばれるものであると。
何千年も前から他の世界のやつらは人間界の存在を知っていた。が、人間だけが知らなかった。
正確にはその存在が信じられることはなかったというのが正しい。
「天使」や「神」などの存在を認知はしていたものの、その存在を信じる者は少なかった。だがその存在は確かに天界に存在していた。人間だけが知らなかっただけなのだ。
そしてXデイに何故か全てのゲートが開きそれ以来閉じなくなってしまった。
今では魔法使いも天使も狼男だって珍しくはない。空を見れば何かしら飛んでるし、テレポートは日常茶飯事。こんな世界で人間が絶滅してないことのほうが不思議だが、僕は今日も明日もこの混沌とした世界で生きていかなければならない。
時計を見れば画面には8時20分の文字、今日も今日が始まる。