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第75話少女の帰還

「いや、でもそれっておかしくないか? 仮にその頃も生きていたとしたら、あいついくつだよ」


「そんな事は知らないわよ。でも私が見たのは確実に彼女の姿だったの。だからあの時思わず……」


「今はそんな事はどうでもいい。それよりももう一つ教えてほしい重大なことがまだあるんだけど」


 確かにこの島の歴史が今起きていることは関係していることには違いないが、この空間をルナが作り出したものだと言うなら、一つ大切なことを聞いておかなければならない。


「ココネさんの事よね? どうしてこうなってしまったのかは分からないけど、彼女の記憶は多分取り戻せるはず。原因として考えるなら、恐らくこの空間自体が関係しているはずだから」


「それは本当なのか? かなり重要な事だから、お前を頼るしかないんだぞ」


「大丈夫。私を信じて。だから、その」


「分かった。俺もちゃんと聞く。この島で起きたことを」


「ありがとう」


 どちらにせよここから出る為には、彼女の話を聞かなければいけなさそうだし、何かの糸口にでもなるのならそれでいい。


「でもその前に、一つ聞いていいか?」


「何?」


「あの遺跡にあった『始まりの物語』っていう本、あれもお前が用意したのか?」


「ううん。あの遺跡の存在すら私も分からなかった。もしかして何かあったの?」


「いや、ちょっと信じられないかもしれないんだけもさ」


 まさかルナ自身もあの本の存在、そしてもう一人の歴史を伝えし者が存在していることを知らないとは思っていなかったので、一応説明をする。


「私と同じような人が、あの本にいるなんて……」


「この島の事を知るきっかけも、全部昨日あの本の中で教えてもらったからなんだよ。彼女は今回の事とは関係ないって言ってたけど」


「その人と会えないかな」


「もう一度あの遺跡に行ってみるか?」


「うん。私自身も聞いてみたい」


「じゃあ行くか」


 話はそれからということになり、俺とルナは再びあの遺跡へと向かった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 だけどその道中、思わぬ人物と遭遇した。


「ケイイチさん、あそこにいるのって……」


「ココネ?」


 いつの間に部屋を出ていたのか、遺跡から少し離れた場所にココネがいた。


「ケイイチ?」


「どうしたんだよこんな所で。ていうか大丈夫なのか?」


「大丈夫って……何が?」


「いや、だってお前……」


 まだ怪我だって完治していないし、自分が何者かでさえ分かっていないのに、一人で出歩くなんてあまりにも危なさすぎる。


「この先に何かあるの」


「何かって?」


「分からない……」


「分からないって……」


 確かにこの遺跡にはあの本が眠っていた。だがその話をココネは知らない。単なる偶然なのだろうか?


「とにかくお前は危ないから、帰ってろ。俺達がこの遺跡を調べておくから」


「嫌」


「嫌ってお前な……」


 記憶は失っても、その性格は変わらないらしく、我儘を言い出すココネ。


「私も……行ってみたい」


「まだ怪我も治ってないんだから、大人しくしてろよ」


「だから嫌。私だけ……何も知らないなんて嫌」


「ココネ……」


 まるで記憶が戻ったかのように、強気になるココネ。


「ケイイチさん、ココネさんも連れて行こう」


「でももしもの事があったらさ」


「何か知っているみたいだし、もしもの事があったら私が何とかするから」


「もしもの事があってほしくないんだけどな……」


 ルナにも促されるが更に悩む。ココネ自身が何かを知りたがっているのは悪くはないことだけど、何か胸騒ぎがした。この先で何かが起きるような、そんな胸騒ぎが。


「やっぱり何か嫌な予感がするから……」


 そんな嫌な予感を残したまま向かうことはできないので、俺は止めようとしたが、次の瞬間俺の体に異変が起きた。


「って、あれ……」


 急に体に力が入らなくなる。


「ケイイチさん? どうかされましたか?」


「いや、何か急に体が……」


 視界も眩み始め、辛うじて意識を繋ぎとめようとするが、それすらもできなくなり、俺はついに倒れてしまった。


「ケイイチさん!」


「ケイイチ!」


 最後の一瞬、いつものココネの声が聞こえたような気がしたが、俺の意識は無情にもそこで途切れてしまった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 再び俺が意識を取り戻したのは、空がすっかり暗くなってからだった。ずっと側にいてくれたのか、視界にはココネの姿があった。


「ココネ?」


「いつまで寝てるのよ、馬鹿ケイイチ!」


「馬鹿ってお前、それは酷いだろ! って、え?」


 あれ? 今の呼び方久しぶりに聞いたような……。


「何ボーッとしているのよ。心配かけて、謝るくらいしなさい!」


「いや、謝るけどさ。それよりもお前、戻ったのか? 記憶」


「記憶? ああ、そういえば記憶喪失になっていたんだっけ? 覚えてないけど」


「覚えてないのは当たり前だけど、どうして急に?」


「分からないわよ。ただ、何かあんたが危なくなったような気がして、名前を呼んだら目の前であんたが倒れていて……」


「馬鹿!」


 あまりの嬉しさに俺はココネに抱きついてしまう。一体意識を失っている間に何が起きていたのか、それは分からないがとにかく記憶が戻ったならそれでよかった。


「い、いきなり何するのよ。離しなさい」


「離すかよ。やっとお前が記憶を取り戻したんだ。喜びを味合わせてくれよ」


「あんたいつの間にそんなに気持ち悪くなったの?! まあ、嫌な気はしないけど……」


「よかった、本当によかった」


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