第74話ルイヴァック島の秘密 後編
翌朝、俺はココネが寝ている部屋で目を覚ました。どうやら昨日はあのまま、ここで眠ってしまっていたらしい。
「ったく、昨日あんな事聞いておいて、随分ぐっすり寝てるな、お前は」
寝顔を見ながらそんな事をつぶやく。昨夜は突然彼女自身の事を教えてほしいと言われ、何か色々語ったけど(具体的には覚えていない)、果たしてそれが彼女の記憶を取り戻す鍵となってくれるのだろうか。正直不安ではあるが、とにかく今は藁にもすがる思いで、できる限りのことをしてあげなければならない。
(それに、やるべき事は他にもあるしな)
昨日の遺跡での出来事。あの空間で語られたことがもし本当であれば、このルイヴァック島は何か重大な秘密を隠している。そしてそれは、もしかしたら今起きていることと関係しているかもしれない。本の中の彼女はそれを否定したけれど、関係がなければ空間形成してまで俺達をわざわざこの島に流れつかさせない。
「あ、おはようございます、ケイイチさん」
「おはよう、ルナ」
家を出たところで丁度ルナと遭遇する。
「ココネさんの容態、どう?」
「良くもなく悪くもなくだよ。一刻も早く記憶を取り戻して、ナルカディアに戻らないといけないのに」
「やっぱり心配? 国も彼女も」
「そりゃあ心配だろ」
朝から重苦しい空気が漂う。
「そうだよね。国のお姫様を心配しないわけないよね……」
ルナがそう呟く。
(国の姫云々以前に、一人の人間として心配だよ)
心の中でそう思いながら歩く。だがその途中で、俺はある違和感を感じた。
(ん?)
今の言葉もそうだけど、その前から何かがおかしい気がする。それは昨日の話がなければ決して気がつくことがなかった違和感。そして気づくべきではなかった違和感。
「今日も行くの? 遺跡」
「いや、その必要がなくなった」
「え? どうして?」
「話を聞かなければならない人が一人いた」
「それって誰?」
でも気づかなければいけなかったのかもしれない。そうでなければ、俺達は永久にここから出られなかった。
「ルナ、お前だよ」
「わ、私?」
「昨日俺はあの遺跡でこんな話を聞いたんだ」
昨日の遺跡で起きた事を彼女に話す。それが本当だと仮定した上で、俺は彼女にこう述べた。
「それが本当なのかどうかは分からない。だけどそれを仮定した上でお前に聞きたい」
俺は一息入れた後、俺は口を開いた。
「何で百年も前に滅んだはずの島の人間であるお前が、今のナルカディアの姫がココネなのを知っているんだ?」
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何故彼女が今の俺達のことを知っているのか? それが考えられる原因は二つ。
一つ、ルイヴァック島は滅んではおらず、彼女も普通に生きていて、俺達は単なる偶然でこの島に俺達が流れ着いたから。
これはあの話が嘘だと仮定した場合だ。そうであればルナに謝らなければならない。
二つ目は、何らかの形で彼女の魂が人の形として存在している場合。
これはあの話が本当だと仮定した場合である。そして何かの流れで俺達のことを知り、この島に引き寄せた。引き寄せるのは俺達でなくてもよかったのだが、恐らくカグヤのあの城が移動した位置が丁度ルイヴァック島があった場所に近かったのかもしれない。だから彼女は海へと沈んでいった俺達を、この空間へと呼んだ。
あの伝承者の話によれば、ルイヴァックは沈んでしまったらしいから、海中に沈んで行った俺達を呼び寄せるのには絶好のタイミングだったのかもしれない。
まあ、あくまでそれは全て仮定の上で成り立つ話だが。
「俺が間違っているなら否定してくれても構わない。その時は謝るし、別の手段を探す。だがもし間違っていないなら……」
「あーあ、気づかれちゃったか。本当は全部知った上で種明かししようとしたんだけど」
「え?」
「ケイイチさんの言う通りだよ。この島は既に滅んでいるし、私の身体もとうの昔に滅んでるの。この島は私が作った空間。何故彼女が……あのカグヤが入ってこれたのかは分からないけど」
本来なら自分から種明かしするつもりだったのか、次々と種明かしをしていくルナ。俺はしばらく呆気を取られていたが、ようやく口を開いた。
「なんでこんな事をしたんだ?」
「何でもなにも知ってほしかったの。歴史の中に埋れてしまった真実を」
「歴史の中に埋れた真実?」
「今から百年以上も前になるかな、この島で原因不明の集団記憶喪失事件が起きたの。その被害者の肩には全員、今と同じ刻印が刻まれていた」
「でもそれって、四十年前に起きた魔物と人の戦いの中で起きた事象で……」
「だから言ったでしょ? 歴史の中に埋れてしまった真実って」
「じゃあもしかして……」
「そう、今起きている事は全てずっと昔から起きていたの。ただ、それがほぼ同時期に起きた大地震の中に消えていってしまっただけ」
「そんな……」
そんな事って……。
「当時は魔物の存在すら具体的に解明されてなかったから、原因不明で片付けられていたけど、私達は確かに見たのよ。あの忌まわしき魔物が、襲来してくるのを。そしてその中に彼女はいた」
「彼女?」
それって……。
「そう、あなたもよく知るあのカグヤって子。彼女が全ての元凶なの」




