第6話国づくりへの第一歩
俺がこの世界にやって来てから早くも二週間が経った。少しずつだがこの国のことも理解し始め、今日は初めて城の外に出ることになった。
「一国の姫であるお前がついてきちゃって大丈夫なのか?」
「城下町の見回りは私の役目でもあるの。ほら、いつどこで何が起こっているか分からないから、こうして私が直々に見回ってるのよ」
「なるほどな。お前にしてはまともな事言うじゃないか」
「私はいつだって真面目なのよ」
ココネ付き添いの元、城下町へでる。そこはまるで……。
「過疎ってんな」
「過疎ってるのよ」
田舎の方に行くとよくありそうな光景が目の前に広がっていた。この世界に来た日に城の中から見たので、そこまで大きな驚きはなかったものの、まさにこれは、過疎ってると言って間違いないだろう。俺もここまで何もない所は見たことないし、ていうかもはや城下町といて機能しているのだろうか。
「どこでなにか起こっているどころか、起きそうにないほど人がいないな」
「これは仕方がないのよ。少し前までは本当に賑やかな街だったのに……」
妙に落ち込んでいるココネ。俺が来る前に国が滅びかけるほどの大きな事件でもあったのだろうか。でなければここまでの事態にならないだろうし、この落ち込みようは絶対に何かあったと見て間違いないと思う。
そんな彼女に、俺は優しい言葉をかけてあげた。
「まあそれもいつかはちゃんと取り戻せるさ」
「……え?」
「言っただろ? この国をちゃんと復興させるって」
「本当に?」
「ああ」
でなきゃ元の世界に戻れないし、それに二週間この国で過ごして感じたことがある。ここは最初の俺のイメージとは全く違い、とても温かみがある国で、新参者の俺でも暖かく迎えてくれた(王だからって理由があるかもしれないが)。
いつかはそんな場所を見つけてみたいと思っていた俺にとってそれはとても嬉しくて、何だかこの国に来てよかったなと思ってしまったくらいだ。未だに姫とは喧嘩してばかりだけど、ここの国自体はそんなに悪くないところだと思っている。まあ人がいなさすぎるというのはかなりの問題だが。
(だからこそ、復興させたいよな。ここを)
その国がもっと賑わえばきっと、もっといい国になるだろう。
(いい国作ろうナルカディア、なんてな)
どこかの歴史に出てきそうな言葉かもしれないが、そんな言葉を使うのも決して悪くない。
「でもあなたにそんな事できるの?」
「勿論俺一人じゃ無理な話だ。だから皆に協力してもらう」
「えー」
「えーじゃないだろ。お前だって少しずつ変わろうと努力してきてるんだから、この国もきっと変われるさ」
「どっからその自信が出てくるのやら」
「べ、別にいいだろ」
この自信に大きな根拠があるかと聞かれればないのかもしれない。けど、何故だか分からないがやり通せるような気がする。喧嘩ばかりが多い毎日ではあるが、いつかは今よりも少しだけ良くなるんじゃないかと信じたい。
「それよりもほら、早速始めるぞ」
「始めるって何をよ」
「第一回国づくり会議をだよ」
「何そのネーミングセンスに欠片もない名前」
「今名前つけたんだから、そこは見逃してくれよ」
国づくりを始めるにあたって、まず必要なのは皆の意見からだ。だからまずは会議を開いてそれぞれの意見を聞く事から始める。そうすればこの先の方針も決められるだろう。
「おいココネ、早速だが人をできる限り集めてきてくれ」
「できる限りってどれくらいよ」
「城の人全員だよ」
「分かった。何とかやってみる」
そう言うとココネは城の中へ一旦戻っていった。
(さあいよいよ始めるぞ国づくり)
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それから三十分ほど経って、人や会議する場所の準備の全てが整い、第一回国づくり会議がここに催されることになった。
「えっと、今日みなさんに集まっていただいたのは他でもないです。この国の城下町を見て、これは今すぐにでも何とかしないと、と考え早速行動しました」
「あなたみたいな人にできるのかしら」
「ここまで何もやってこなかった姫が、言えないと俺は思うけどな」
とりあえず人が集まってくれたので、やるべき事を考える。圧倒的に不足しているのは、人と建物。ある程度の盛り上がりをみせないと人はこないだろうし、盛り上げるためには人が必要になってくる。少し考えただけでも色々と課題があるので、その旨をとりあえず話してみるとすぐに意見がでてきた。最初に手を挙げたのは、メイドの一人だった。名前は分からないけど、とりあえず意見を聞いてみる。
「人を集めるためには、何か目立つような行事とか建物とか建てるんですよね?」
「ああそうだな」
「だったら、この国が栄えていた頃に建っていたある建物があるんですけど、それをまず最初に建ててみてはいかがですか?」
「その建物って何だ」
「ちょっとしたテーマパークみたいなものよ。この国の領土内に建っていたんだけど、人が来なくなってから客足も遠のいて最近廃業になったのよ」
テーマパークって果たしてどんな物だったのか少しだけ気になる。俺の世界で言う、ネズミのキャラクターがいるあのテーマパークだろうか。
「最近って事は、もしかしてまだ形として残っていたりするのか?」
「ええ。でもそれを復活させるためにはかなりの人数が必要だと思う」
「ここにいる人数だけじゃ当然足りないよな……」
やっぱり建物よりも優先するべきことは人員か……。
(何とかならないかな)
そもそも国内の人口が三千も満たないって(あの分厚い本に載ってた)、どれだけ過疎ってんだよこの国は。そのくせ領土は無駄に広いから、全てを有効活用できるかと言われたら恐らく無理に近い。しかもデータが少し古いから、実際のところどのくらいなのかも分からない。
「ちなみにこの城に住んでいる人はどれくらいなんだ?」
「ざっと百人くらいよ」
「百人か……。それならまだここにいる奴らと協力すれば、何か一つくらい建てられるかもな」
「例えばどんな建物?」
「うーんそうだな…」
城の近くには縦長の商店街みたいな市場があった形跡が残っていたが、それをうまく利用でいないだろうか。てかそれをそのまま利用するのもありか。でも品物を売るためには食材が必要だし、商人だって必要になってくる。
(何かいい案はないだろうか)
せめて城下町を何とかして活性化できないだろうか? 例えばこの国特有の何かを売り出したりできれば……。
(あ、そっか)
だったらまずそこから初めて見るのもいいかもしれない。
「よし決めた」
「何かいい案思いついたの?」
「確か城の近くに市場みたいなものがあった形跡があったよな」
先程城下町を訪れた際、そのような物があった形跡は残っていた。一・二件は経営していたけど、他は人がいる気配すらなかった。あれを活用してみるのもいいかもしれない。
「ええ。あそこには実際市場があったもの」
「じゃあそこからまず手をつけよう」
「手をつけるって言っても、売れる食材とかないわよ」
「ないならする事は一つ」
「まさか」
今これだけの人数がいるのだから、それを総動員してやるのは国づくりの第一歩。
「まずは俺達皆で協力して食材の調達、そして栽培。そこから始めるぞ!」
それは皆で一から食材を作って売り出す事だ。