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第63話決戦

 俺とセレスの戦いは、お互いまともな武器を持っていないとは思えないほど、壮絶だった。剣と剣が交じり合い、つばぜってはお互い弾き飛ばされ、どちらかが攻撃を仕掛けても避けてはまた攻撃を仕掛ける。そんな繰り返しが五分くらい続いた。


「これから俺は、あいつを助けに行くんだ。お前なんかに時間をかけている場合じゃないんだよ!」


「何度も言いますが、ココネ様を助けたければ私を倒してください。でなければ、あなたは確実に彼女に負けます」


「彼女って誰だよっと」


 セレスが意味深な発言をしたので、一旦攻撃を止める。今の俺じゃ彼女に勝てない? どういう事なんだ? ていうか彼女とは一体……。


「いい事を教えてあげますよ。ココネ様は既に刻印の力を発動しかけています。その彼女を助けたいなら、彼女と戦うしかありません。勿論カグヤ様もそうですけど」


「ココネが刻印の力を?」


「彼女の意識は今暗い闇の中を彷徨っています。それは刻印に捕らわれてしまい、体を奪われてしまった証です。その闇から助け出すためには、まず捕らわれた本体を何とかしないと駄目なんです」


「そうやった張本人が、何でそんな事を言うんだ? メリアーナの事もそうだけど、お前ら本当に敵なんだよな?」


「さあそれは、どっちなんでしょうかね。こうして敵対している時点は敵だとは思いますが」


 そう言うとセレスは、何故か剣をしまい、俺が元来た道に向かって歩き始めてしまった。


「何で剣をしまう? まだ終わってないぞ」


「ちょっとわたくしは用事を思い出しましたので、ここら辺で失礼させていただきます。……必ずココネ様を救ってください」


「あ、おいセレス」


 すれ違いざまにそう言うと、セレスは俺の呼びかけも無視して、その場から去っていってしまった。自分を倒してくださいとか色々言っていたくせに、勝手に戦いを放棄するのはちょっと変な気がする。それに最後にココネを救ってとか言っていたけど、急に心変わりでもしたのだろうか? 色々と分からない男だったけど、今はココネの元へと急ごう。


■□■□■□

 あまりに謎過ぎたセレスの行動に、疑問を持ちながらも俺は更に奥へと進んだ。


 そして……。


「ここが一番奥だよな、多分」


 いかにも最深部と思わしき扉の前に到着。この先に、多分捕まっているココネとカグヤがいる。ここ以外の道は全て通ってきた。あとは決着をつけるだけだ。


「どりゃぁ!」


 蹴飛ばすように扉を開けると、そこには鎖に繋がれて宙に吊るされているココネと、それを何かを期待しているように見ているカグヤの姿があった。


「どうやら、思った以上に早くついたようですね」


 乱暴に入ってきた俺に気がついたカグヤは、こちらに振り向きそう言う。


「あんたに仕えているか分からないセレスが、あっさり道を譲ってくれたからな。それよりも俺がここに来た理由は勿論分かっているよな」


「勿論ですよ。彼女を助けに来たのですよね?」


「当たり前だ。何をしようとしているのか分からないけど、ココネを手出しした時点で、俺はお前を許さない。返してもらうぞ」


「それは叶わぬ願いです。既に彼女の刻印は力を発動しているのですから」


「何だと!」


 やはりセレスが言っていた通りなのだろうか? でも一見すると、ココネはただ捕らわれているだけで、何か異変が起きているようにあは見えない。


「見た目は特になにも変わりばえないですが、彼女の意識はもう闇に捕らわれています。動き出すのも時間の問題でしょう」


「だったらわずかの時間でも、ココネを救い出すまでだ」


「諦めが悪いですね。もう既に未来は決まっているというのに」


「何が起きるのか分からないのが未来だ。お前が人の未来を決めるな!」


 なりふり構わずカグヤに斬りかかるが、あっさり避けられ、代わりに顔面に蹴りを喰らい吹き飛ばされる。


「がはっ」


「私がただの女だと思っていましたか? 残念ながら私は刻印の力を覚醒させ、全ての身体能力が人を越えているんです」


「クソッ!」


 予想以上の大ダメージを喰らった俺は、しばらくその場から動けない。


(こいつ、見た目以上に強い)


 ただ寝たきりの少女が、まさか人並み外れた身体能力を持っているだなんて予想外だ。人は見かけによらないとはこの事だ。


「どうやら、早くもゲームオーバーみたいですね。ここまで来れたからどれくらいの実力があるかと思っていたのですが、一撃で倒れるほど弱いとは思いませんでした」


「まだ……終わっていない……」


 まだ痛む体を何とか起こし、もう一度剣を構える。人並み外れた能力には、どう対処すればいいのだろうか? 剣をまともに使ったことすらない俺に、勝ち目はどこにある。


「なにも分からない時は、もう本能のまま行くしかない!」


 俺は先程よりも素早く彼女のもとへ行き、突きをかますが当然のように避けられる。だが今度はそこから横薙ぎをかます。


「これならどうだ!」


「なるほど、なにも考えずに動きましたか。突きからの横薙ぎはちょっと予想外でしたが」


 しかしそれを彼女は飛んでかわした。横薙ぎは彼女の首ぐらいの高さはあったというのに、それを飛んでかわすなんて、いくらなんでもおかしい。


「だから丁寧に教えてあげたじゃないですか。私の身体能力は人並み以上だって」


 しかも彼女は空中から蹴りをかましてきた。俺はそれを避ける事ができず、顔面に直撃し、そのまま地面にこんにちはしてしまった。


「どうやらここまでのようですね」


「くそぉ」


 俺はこんな所で終われないのに。


(ココネ……)


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