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第62話愛する人の為に

 ライドアからまさかの歩き続けること、更に一時間後。俺はようやく目的地であろう海岸に到着した。


「まさか本当に言っていたことが的中するなんて」


「だから言っただろ? ここが俺達にとっては思い出深い地だって」


 肝心の奴らがココネを連れ去ったであろう場所は、丁度海岸から少し離れた先の海の上に、それらしきものがあった。ご丁寧に道まで用意されていて、いかにも俺が来るのを待っていたと言わんばかりだった。ていうかどうやって海の上に、こんなものを建てたんだ?


「この先にココネが……」


「ケイイチ国王、しゃがんでください!」


 突然騎士団長が叫んだので、俺は咄嗟にしゃがんだ。すると頭上に何かがかすった感触がした。どうやら何かが遠くから飛んできたらしい。


「どうやら、簡単には入れてくれなさそうですよ」


 一旦安全かを確認したあと、しゃがんでいた体を起き上がらせ、再び建物の入口を見る。そこには、以前俺が出くわした人間のような形をした物体が、数体構えていた。


「あれって……」


「一見すると人間のように見えますが、あれは確実に魔物です。わたくしも何度かああいうタイプのものに出くわしたことがあります」


「その魔物が、建物から出てきたってことは……」


「中で何かが起きているみたいですね」


 もしかしたらココネにも何かあったのではないかと考えてしまう。もし彼女の身に何か起きているとしたら、急がなければならない。


「なあ。ここら辺の魔物は任せていいか?」


「それは勿論お任せを。しかしケイイチ国王様が単独で突き進むのは危険ではないでしょうか?」


「危険なのは分かっている。けどあいつは、きっと俺に助けを求めている。立ち止まっているわけにはいかないんだ」


 気のせいなのかもしれないけど、さっきあいつの声が聞こえた気がする。助けてって。それだけでもあいつが今どれだけ苦しんでいるのかが伝わった。普段あいつは助けなんか求めたりしない性格だ。その彼女が、助けを必死に求めているんだ。それに俺が答えないで、誰が答えるんだ。


「でも無理をして怪我をされては」


「そんなのどうだっていい。傷つこうが何しようが、俺一人でも意地であいつを助けに行く」


 その意志は何一つ変わらない。


「ではこちらは、ケイイチ様が通れる道を作ります。そこを真っ直ぐ走り抜けてください。その後は、あなた次第です」


「任せろ。絶対に助け出してくるから、それまでの援護は頼んだぞ」


「お任せを」


「じゃあ行くぞ!」


 騎士団が先に魔物の群れに突っ込んでいく、俺はそれの後を追い、開く道をひたすら走り抜けていく。全長五十メートルくらいの橋に、数体の魔物と、数十人の騎士団、こちらの方が圧倒的に有利かもしれないが、何が起きるかは分からない。ここは少しでも慎重に突破して、必ず彼女の元へとたどり着いてやる。だから、


(待ってろよココネ!)


■□■□■□

 騎士団の協力のおかげで、難なく奴らの牙城に入ることができた俺は、騎士団長から念のため借りておいた剣を片手に、ひたすら突き進んでいた。


(剣を使うのは初めてなのに、この使い慣れた感覚はなんだろう)


 ひたすら突き進むとは言っても、ここは敵の本拠地。先ほど見かけた敵に何度も出くわしては、薙ぎ払っているが俺は全くもって初心者だ。それなのに前から剣の扱いに慣れているような錯覚をしてしまうようなこの感覚。果たして何なのだろうか?


(いや、今はそんな事を考えている場合じゃない)


 ココネの元へ急がなければ。


「どうやらその腕前は、先代の意志でも継いだ証のようですね。ケイイチ様」


 その道中、突如背後から声が聞こえたと思うと、何かが振り下ろされるような感じが俺の真横からしたので慌てて横転して避ける。


「うおっと。不意打ちは卑怯だろ」


 すぐに立て直した俺は、背後を振り返り次の一撃に備えるが、そこには誰もいない。


「卑怯で結構です! これがわたくしのやり方ですからね!」


 再び背後から声がしたので、慌ててその場で前転。今のを避けていなかったら、俺は確実に真っ二つになっていただろう。


「お前はいつからそんな性格だったんだセレス!」


「だからずっと前からですって」


 再び態勢を立て直して、正面を向くと今度はちゃんとそこにセレスの姿があった。声で分かっていたが、先ほどの二擊はセレスによるものだ。背後からの攻撃なんて、男としてあまりにも卑怯すぎる。そこまで彼は堕ちてしまったのか。いや元からそういう人間だったのかもしれない。だとしたら、


(人として最低だ)


 こんな奴がココネと長年共に過ごしてきた人間だと? ふざけている。


「なあセレス、お前は最初から裏切るつもりで執事になったのか?」


「裏切る? わたしは初めから誰も信用していませんでしたよ? この国の執事になったのだって計画の為ですから」


「それは本当なんだな?」


「はい。ココネ様は最初から計画の中枢の存在でした。ですからそれなりの信頼をつけておけば、彼女は必ず私の側から離れないと確信していました。そう、ココロ様が魔物の襲撃に合った時から、全ての計画は始まっていたんですよ」


「まだ生まれてもいない子供に対して、そんな事を考えていたなんてどこまでゲスなんだよ!」


「いくらでも言ってください。間もなく計画は成功を迎えますからあなたが何を言おうが運命は変わりません」


「ふざけんな! 俺はあいつを……ココネを救い出す!」



「それをされては困るので、わたくしは全力で阻止させていただきますよ!」


「邪魔しようってんなら、容赦はしない! いくぞセレス!」


 愛する者の為、愛する国のため、俺の最初で最後の戦いが幕を開ける。


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