第59話歴史の中に眠る真実③
「由奈様は確か、この世界に来る時の記憶がなかったんですよね?」
「確かにそうだけど、どうしてそれを?」
「異世界から来たことが、結構噂になっているんですよ? 勿論国王様も」
「え? どうしてそれを?」
「むしろ今まで気が付かなかった方がおかしいくらいです。噂というのは簡単に広まってしまうものです」
「でもそれを知っているのは、この城に住んでいるものしか……」
噂には必ず発信者がいる。それがこの城に住んでいる者という事だろうか? いや、むしろその発信者は誰か簡単に分かるはずだ。
「もしかして、セレスが?」
「確かな証拠はございませんが、恐らく彼だと考えて間違いないですわ。そして、ここからが更に重要な話です」
そうだ、話が逸れてしまったが、歴史と由奈が関係あるというのは果たしてどういう意味なのか、それを教えてもらっていなかった。
「実は十年前、由奈様と同様に意図的ではない形で、異世界から来た人がいるんです」
「私と同じ様に?」
それは俺も初耳だった。そもそもこの世界に俺と由奈以外に異世界から来た人がいるという事自体知らなかった。
「その人はこの世界に来た記憶があらず、声に誘われて来たらしいです」
「それ私と同じだ」
「やはりそうでしたか。では由奈様も彼女と同じように……」
「彼女と同じように?」
「いえ、やはりこれは黙っておきましょう。お二方の為にも」
「おい、それどういう意味だよ! 由奈に何があるんだよ」
「知りたいなら本人に直接聞いてください。これ以上私は……」
何だよそれ。どういう意味で言っているんだよこいつ。由奈に何が起きているんだよ。
「由奈、お前は何か俺に隠し事しているのか?」
「し、しているわけないじゃない」
「だったらどうして慌てているんだ?」
「べ、別に慌ててなんか……」
おかしい、急に慌て出すなんて何か隠しているに決まっている。彼女も何かを勘づいているのだろうか?
でも、五年前この世界にやってきった人間と、由奈が共通していることなんて分かるはずがない。会ったことも、その話を聞いたこともないのに、思い当たる事なんて……。
(いや、心当たりがなくもない。けど……)
それは多分ありえない。でもここまで考えると、それもありえなくはない話である。何せ二人は誰かの手によって呼び出され、一部の記憶がないのだから。そう、一部の記憶が……。
(ちょっと待てよ)
記憶が何故ないのかと考えると、出てくる答えはその呼び出された人物に記憶の操作をされたから、と考えてもおかしくない話ではないのだろうか? 記憶操作なんて簡単な話ではないけれど、それを仮定するとほとんどの説明がつく。
十年前、由奈と同じようにこの世界に誘われた少女。彼女は最近までは普段通りの生活を送っていた。肩に謎の刻印が刻まれていても、特に気にすることなく。けどその刻印の事実をふとしたきっかけで知ってしまった黒幕は、彼女を利用した、今度は一部の記憶ではなく、全ての記憶を消して、記憶喪失の少女として俺達の目の前に現させるために。何故そんな事をしたのかは分からないが、もしかしたら黒幕はこの刻印が、何を示すのかを知っているのかもしれない。だからもう一人同じような手口で利用した。そう、俺の幼馴染を利用したんだ。
(つまり、それって……)
複雑のように見えて答えは一つなのではないか? 二人が由奈を誘拐したのだって、ココネをおびき寄せるための演技だけだっただけの話ではない。本当に彼女を利用しようとしていたのだ。その理由は何故か? それは今考えたことの通りだ。
「なあ由奈、お前肩を見せてくれないか?」
「ど、どうしてよ」
「そこにお前が隠している事があるからだよ」
■□■□■□
彼女は言っていた。この刻印は特殊なものであると。何が特殊なのかは分からない。そもそもこの刻印は、人間と魔物の両方の血を継ぐ者に現れるものだって言っていたけど、他の二人には全く関係ないはずだ。それなのに、それなのに……。
「どうして由奈、お前までもがそれを……」
「分からないわよ私だって!」
俺が考えたとおり由奈にも同じものがあった。本来あってはならないものが、そこにあった。そしてその瞬間、俺の中にあったある疑いが一つの確信へと変わった。
「そういえばあんた、何で分かったんだ? 由奈にも同じようにある事を」
「それはたまたまですよたまたま」
それはここにいるメリアーナのこと。彼女はさっき、あたかも由奈にも同じ刻印が刻まれている事を知っているかのように話していたが、何故彼女がそれを知っているのか不思議だった、何故ならそれは由奈一人が今まで抱えてきた秘密であり、それを俺達は今知ったのだから。
「いや違うな。由奈は誰にもこの事を話していなかった。それなのに何故分かるんだ? カグヤの事もそうだ」
「ほ、本当偶然です。変に疑わないでください、国王様」
「そもそも色々変だと思ったんだ。睡眠ガスの被害にも合ってないし、俺達に突然接触してくるし、どうもおかしな事ばかりなんだよ。それにさっきのお前の話に一つ矛盾点を見つけた」
それにもう一つ。彼女の話には一つ、おかしな点があった。
「む、矛盾点? そんなのないはずですわ」
「残念ながら一つだけあるんだよ。あんたは話の中で、近いうちに伯爵の妻になるみたいな会話をローウェン国王と話をしていたみたいな事を言っていたよな」
「そうですわよ。わたくしは四十年前に伯爵家の妻になったのですから」
「残念ながらそれは有り得ないんだよ。何故なら四十年前、お前と全く違う名前の人が結婚しているのだからな」
この前彼女に会ったあと、一度伯爵家について調べてみたのだが、そこに一度もメリアーナという名前なんか出てこなかった。だから結婚したというのはありえないのだ。
「そ、そんな事はありませんわ」
「それにもう一つ付け加えておくと、この前ライドアの食事会にヴァンダルシア伯爵家も参加していたらしいが、お前の姿はどこにもなかったらしい」
「それは、たまたまわたくしは参加しなかっただけで……」
「伯爵の妻がか? それはありえないだろ。伯爵家に仕えているものならともかく、伯爵の妻だったら、普通は参加するはずだ。何せ一王国の国王からの誘いなんだからな」
「うっ!」
「聞かせてくれ。お前は何者なんだ? メリアーナ」




