第46話眠りから目覚めし者
本来そこにあったはずの扉がそこにはなかった。
「場所を間違えているとかじゃないのか?」
「ううん。ここで間違いないはず」
ココネはそう言うが、それらしきものがあった形跡すら見えない。これは一体どういうことなのだろうか?
「恐らくその扉は、何者かの手によって持ち去られました」
突然背後から声が聞こえたので、俺とココネは慌てて振り返る。そこにいたのは、
「か、カグヤ? どうしてお前がここに?」
何とずっと寝たきりだったカグヤだった。
「ど、どうして。あんたろくに目を覚まさなかったのに」
「あなた達がかなり私の事を詮索していたので、そろそろこちらも黙っていられなくなったものですから」
丁寧に喋りながらも、伝えたい部分はしっかりと伝えるカグヤに、おれは若干戸惑う。
(やはり全部聞かれていたのか)
「言っていることのほとんどが的外れなことばかりでしたが、あながち間違っていなかったこともあります」
「間違っていなかったこと?」
「彼女と私に刻まれているこの刻印です。これはある者にしか与えられない特殊な刻印で、それが刻まれてしまった彼女はつまり……」
「ココネが何なんだ」
「いえ、この話は今度改めてお話しましょう。それよりも、今あなた達はとても危険な状態である事を理解できていますか?」
「ああ。あんたが何かしらのトリガーになっていて、それによって何かがこの国に起きようとしているんだろ?」
「まあ合格点といったところでしょう。ただし、一つだけ言えるのは、私は魔物とは全く関係のない人物であることです」
「何……だと」
今まで俺達が推理してきた全てを崩すカグヤの証言。彼女が魔物ではないとしたら、一体何者なんだ? そして彼女と同じ刻印が刻まれたココネは一体どうなるのだろうか?色々聞き出そうと思ったその時、
「どうやら今日はここまでのようですね。では私はまた眠らせて……」
何かのスイッチが切り替わったかのようにカグヤはその場で倒れ、再び眠りについてしまった。
「おい、まだ聞きたいことが……って遅いか」
どうやら完全に眠ってしまったらしく。小さな寝息をたてていた。
(何者なんだ、カグヤは)
突然起きたと思ったら、また寝てしまったし、色々と謎すぎる。しかも彼女が残した言葉は、どれも俺立野今までの考えを覆していったし、ココネは……。
「け、ケイイチ。わ、私どうすればいいの? 自分が本当にどうなってしまうのか分からなくなっちゃった」
「落ち着くんだココネ。お前は一人の人間であるのは変わりないんだ。俺を信じろ」
「そう言われても、私……」
ココネは急に疑心暗鬼になってしまっている。確かにあんなこと言われたら、どうすればいいのか分からなくなる。だからといってこのまま彼女を放置できない。とにかく今は部屋に戻るのが最優先事項だ。
「ココネ、今は考えている場合じゃない。扉も無くなってしまったんだからそれを見つけ出さなければならないし、長時間いると皆に迷惑かけるから、早く戻るぞ」
「私は……私は……」
「ココネ!」
「え?」
どうやら俺の声が聞こえないくらいの状態になってしまっているらしい。これは本気でやばいぞ。こんな時俺はどうすればいいのだろうか? このまま時間が過ぎるのを待っていたって、何にも始まらない。何か全員が楽しめるようなイベントがあれば少しは……。
(そうだ、王国祭!)
何だかんだで二週間後に迫っている王国祭。これをうまく利用すれば……。
(きっと今の状態を、少しでもよくできるはずだ)
■□■□■□
その日の夜、ココネの様子があまりにも変だったので、彼女が眠りにつくまで俺は眠れずにいた。
「ケイイチ、どうしようどうしよう。この先何か起きたら全部私のせいになる。私があの扉を開いたばかりに」
「そんなの今更どうこう言ったってどうにもならないだろ。過去を振り返らないで、今を見つめ直せ!」
「そんなのできない。過去の過ちがあるから、今の現実を生み出しているんだ。だから私が死ねばきっと全てが……」
ココネの口から『死』という言葉が突然出てきたので、俺は動揺する。けど、それと同時に俺の中にもう一つの感情が生み出されていた。
「勝手なこと言うなよ……」
「え?」
「人を勝手に呼び出しておいて、自分が死ねばそれ終わりだ? ふざけんなよ!」
「な、何よいきなり」
「いいか? 俺はお前がたとえどうなっても命をかけて守ってやる! だから簡単に死ぬとか言うな!」
それは怒りなのか、それとも別のなにかなのか分からない感情。俺は彼女に言ってほしくなかっただけなんだ。死ねば全てが終わるって。
「壊れたものは最初から作り直せばいい。まだやり直せるんだから、命を粗末にしようとするな。俺はお前にそんな事を言ってほしくて、ここまでやってきたんじゃない。お前の願いを叶えてあげたいからここまでやってきたんだ」
「ケイイチ……。でも私は……」
「いいからつべこべ言わずに俺を信じろ! それだけだ」
言いたいことをいった俺は、それ以降は喋らずに目を閉じて睡魔に身を委ねた・
(そうだよ、何度でだってやり直せばいい。それをこの半年間続けてきたんじゃないか)
まだ終わりじゃない。これからが始まりなんだ。




