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第37話ずっと言えなかった言葉

 どうしても気持ちを抑えられなかった俺は、そのままステージへとあがる。俺が何かを言おうとしているのを察したのか、タナトゥス国王は何も言わずに俺にその場を譲ってくれた。

沢山の国の人が集まる中で、一人でこうして行動を取るのは、普通では考えられないかもしれない。それでもやっぱり俺は、これ以上彼女を苦しむ姿を見るのだけは嫌だ。彼女の涙は、もう見たくない。


「確かにココネがした事は、間違っているかもしれないし、それが罪だというなら正しいのかもしれない。けど、こいつだってそんな生半可な気持ちで扉を開けたわけじゃないんだよ!」


 場が一気に静まり返っていることもあってか、会場全体に俺の声が響き渡っている。どうやら皆が真剣に俺の話を聞いてくれているのかもしれない。もし届いていなかったとしても、俺はそれでも構わない。言葉として伝える事に意味がある。


「理由だけ聞いたら、ものすごく自分勝手な理由かもしれない。けど、誰だって自分の大切な人を失ったら同じような感情になるだろ? しかもこいつの場合は両親だ。こいつだってまだ若いだろうから、親を亡くしてしまったら相当悲しかったに決まっている。だから扉を開いて生き返らせようとしてしまった。それがたとえ禁忌だったとしても、そこまでして取り戻したかったものがあったんだよ。そんな気持ちを考えもしないで、疫病神だ、何だで責め立てるのは間違っている。何故なら俺だって同じ行動を取っていたかもしれないからだ。ここにいる人だって同じ人間なんだから、そう考えるだろ絶対。だから、許してとまでは言えないけど、受け入れてほしいんだ。こいつを、ナルカディア王国を」


 まるでココネの気持ちを代弁するかのように俺は訴えかけた。このままずっと疫病神だなんて呼ばれるのはあまりにも可哀想だし、それに自分が好きな人を悪く言われるのだけはどうしても許せなかった。

ココネはというと、俺の話をずっと黙って聞いていて、何の反応も示さなかった。周りの空気もずっと凍ったままで、誰一人言葉を発しようとしなかった。


(もしかして失敗だったか)


 いきなり全てを伝えるのは、無理があったのかもしれない。でも言葉が、その耳に残っていてさえくれればそれだけで充分だ。


パチパチ


 しばらくした後、小さな拍手の音が聞こえた。よかった、たった一人だけでも伝わってくれたのなら、それで……。


パチパチパチパチ


「え?」


 しかしそれは次第に大きくなり、いつの間にか盛大な拍手になっていた。


「ケイイチ国王、君の言葉はしっかりと伝わったようだな」


 予想外の反応にポカーンとしている俺に、タナトゥス国王が声をかけてくれる。


「すいません勝手な事をしてしまって」


「いいんだよ。私も聞いてみたかったからな君の言葉を」


「俺の言葉を?」


「正直申し上げると、君達をこの場に招待することはほとんどの者が反対していた。噂というのは怖いもので、彼女の噂はかなりの尾ひれがついていてかなり酷いものとなっていた。疫病神と呼ばれていたのもその影響からだろう」


「でも起きた事実から考えると、そう言われても仕方がないかと」


「いや、実はというとそうでもないのだよ」


「え?」


 それはどういう……。


「実はだな」


■□■□■□

 タナトゥス国王から意外な事実を聞かされた後、食事会はお開きとなり、俺とココネはそのままナルカディアへ……。


「ってちょっと待った待った! 私との話は?」


 と、その前に忘れ物があった。


「何だよちびっ子。そんなに構ってほしいのか?」


「誰がちびっ子よ。何度も言うけど、私はおーとーな! あと約束を取り付けたのはそっちでしょ!」


「悪い悪い。忘れてた」


 さっきの話のほうがかなり気になってしまっていたので、約束を忘れてしまっていた。どうやらココネも一緒のようで、黙ったままだ。というより食事会が終わってからココネが一言も発していないが、一体どうしたのだろうか?


「酷いよ二人ともー。さっきはちょっと格好いいなって思ったのに」


「さっきはって酷いなおい」


「だって事実だもん」


 いや、事実だからって……。


「酷いよなココネ」


「……」


「ココネ?」



「え? あ、えっと。あんたはいつも格好悪いから仕方がないんじゃないかしら」


「お前も酷いな!」


 二人揃ってこうも言われると、俺のメンタルはズタボロだ。これってもはやイジメだよなこれ。でも何でだろうものすごく違和感を感じる。


「まあ、時間も遅いし今日のところは帰ろうぜ。詳しい話はまた後日するとして」


「じゃあ三日後、私そっちに引っ越すからその時にでも話そうよ」


「ああ分かった。じゃあ三日後に」


「じゃあまたねー」


 リタはそう言うと、自分が住んでいるであろう国へ向かう馬車へと乗っていっていった。


「よし、俺達も帰るとするか」


 リタが見えなくなるまで見送ったあと、そうココネに告げるが、返事がない。やはり様子が変だ、何か悪い物でも食べたのだろうか?


「ココネ?」


「ねえケイイチ、一つ聞かせて」


「ん?」


「どうして今日の食事会で、あんな行動をとったの?」


 あんな事とは、恐らくあの演説じみた事だろう?


「どうしてって、俺はただお前にいつまでも苦しんでほしくなかっただけで」


「余計なお世話よ! 私一人で何とかしたかったのに馬鹿!」


「お前一人でって……」


 今まで何かしようとしなかったやつが、果たしてそんな事が出来たのだろうか? いや、できない。


「じゃあ逆にお前一人で何かできたのかよ。何もできなかったからここまで追い詰められていたんだろ」


「べ、別にあんたがいなくたって私にそれくらいできたわよ」


「だったらしてみろよ! もっと行動に移せよ!」


 ココネのあまりに幼い言葉に、俺はついイラってして声を張り上げてしまう。なんだってこいつは、分かろうとしないのだろうか? 自分がどれだけ無力な人間だったのかを。どうして分からないのだろうか? これからでも変えられるって。

 これじゃあ全てが振り出しだ。


「あんたなんか大嫌いよ!」


 ココネはそう一言言うと、ナルカディアとは別の方面へと一人歩き出してしまう。


「おいどこに行くつもりだよ!」


「あんたには關係ない! 私は帰らないってセレスに伝えておきなさい!」


 帰らないって、いくらなんでも勝手すぎる、何としてでも彼女を止めなければ!


「ココネ!」


 俺は彼女を走って追いかけた。どうする、どうやって引き止める彼女を。


「名前呼ばないで! もうあんたは私の何にでもないんだか……」


 俺の声に振り返った彼女はそう言い放つ。俺はそんな彼女に追いつくなり、そのまま……。


「行くなココネ!」


 抱きしめていた。


「っ! な、何をするのよ! は、離しなさい」


「離さない。絶対に」


「ど、どうしてよ。あんたは……どうしてそこまでするのよ」


 抵抗するココネを何とか耐えながら、ずっと言えずじまいだった言葉を彼女に伝える。


「そんなの……お前が好きだからに決まっているだろ!」


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