第33話今ここに宣言す
結婚式から早一週間が経ち、俺にとっては運命の日を迎えた。
「なあ、この服装どう見ても王の格好じゃないよな?」
「臨時で用意したようなものなんだから我慢しなさい。あんたの体のサイズが小さすぎるのよ」
「そんなに小さくねえだろ! お前の父ちゃんがデカイだよ」
「私のお父さんを馬鹿にしたわね! 許さない!」
「お二人共今日は大切な日なんですよ! 喧嘩はよしてください」
運命の日とは勿論、王位継承式。そう、俺は本日をもって正式にナルカディア王国の国王になる。とは言ってもこの世界に来た時からそれに近い仕事はずっとやって来たから、あまりすごいとか思わない。むしろ俺の戦いはこれからなんだから、今までよりも更に頑張らなければならない。
「本当に大丈夫でしょうね。これからはおふざけとかそういうレベルじゃないのよ」
「国王になってくれって懇願してきたのはそっちだろうが。お前こそこれからもっと働いてもらうからな」
「わ、分かっているわよそんな事」
果たして本当に分かっているのだろうか? これからが本番であることを。
「さあお二人共、そろそろお時間です。向かいましょう」
「うわ、もうそんな時間かよ。お前のせいでゆっくりできなかっただろ!」
「ちょっとそれって私のせいなの?そもそもあんたが……」
「早く行きますよ!」
結局継承式の会場に行くまで、俺とココネはいつも通り喧嘩を続けていたのであった。
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継承式が行われるのは、一週間前に結婚式で使った大広間を、この日のためにわざわざ改装した場所だった。
「何でいつもここなんだ?」
「ここ以外で大きな式典を行える場所がないのよ」
「だったら作らないとな。そういう場所も」
毎回同じ場所で式典を行うのもどうかと思うし、それ用の建物を作ってもいいのかもしれない。
「いい? 今回はあんた一人で入場するのよ。下手なことをしたら許さないわよ」
「心配するな。お前よりはしっかりしているから」
「結婚式でずっこけた本人が言えるセリフかしらそれ」
ココネは適当に俺に忠告したあと先に中に入っていった。残されたのは俺一人。そう、今日は俺の為の式典なんだ。この前みたいなミスは絶対に許されない。
(とりあえず深呼吸して……)
息を吸って吐いてを何度かして、緊張を和らげる。今日は予想外な出来事は起きないだろうし、俺自身が失敗を犯さなければ普通の継承式になるはずだ。ココネの為、そしてこの国のためにも、ここはしっかりした態度でいなければ。
「ケイイチ様、準備はできましたか?」
刻一刻と迫る時間に、体を強ばらせながら待っていると、扉からセレスが顔を出して、そう言ってきた。どうやらい始まるらしい。
「ああ、バッチリだ」
俺がそう返事すると、セレスは無言で頷き、そして大きな扉をゆっくりと開け始めた。この扉が完全に開かれたら入場だ。もう後には退けない。
俺は今日、国王になるんだ。
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(継承式って、こんなに長いのか?)
あれから三十分後、俺は未だに立ったまま式が終わるのを待っていた。入場し終えた後、すぐに継承の儀が行われるのかと思いきや、三十分経った今でもそれが行われる様子を見せない。では代わりに何が行われているのかというと、お偉い人達の長い話ばかりだ。先代はどうだったとか、あの頃はどうだったとかものすごくどうでもいい話ばかり先程から続いている。昔のことなんか俺は知らないし、だからといって特別興味があるわけはない。だからさっさと終わってほしいのだが、終わりが全く見えない。
「続いてケイイチ様への王位継承の儀へと移ります。ケイイチ様、こちらへ」
いい加減退屈で寝てしまおうかと思ったその時、ようやくその時が来た。
「は、はい!」
油断していたこともあってか思わず大きな声で返事をしてしまう。これじゃあまるで、先生に名指しされて慌てて返事をしてしまう小学生だどれだけ緊張してんだよ俺
(でもここでしっかりしないと)
そうは思いながらもガチガチの動きで、ココネの目の前に立つ。
「ケイイチ様、あなたはこの先ナルカディア国王として、常に人の上に立ち、自分の信念を貫き通す事を誓いますか?」
いつもと違う真面目モードのココネに若干ビックリしながらも、俺は少しだけ胸を張って答えた。
「勿論、誓います。必ずこの国を、そしてココネを守ってみせます」
「お、公の場でいきなり何を言い出すのよ馬鹿」
若干頬を赤く染め、恥ずかしそうにするココネ。お、もしかして今の効いたのか? これはこれは……。
「と、とにかくあなたにはその覚悟ができているんですね?」
「はい!」
もうそれに関しては揺るがない。半端な気持ちで国王なんてやらないし、そんな事やったら絶対に悪い事が起きる。だから俺は、俺なりの信念を貫き通してみせよう。それがこの国の国王として一番最初にするべき事だ。
「そこまでの信念があるなら、私もあなたを認めます」
「ココネ、お前……」
「ただし、一度でもこの国を裏切るような事をしたら、すぐに立ち去ってもらいます。よろしいですか?」
「はい」
そこからしばらくの沈黙。その間俺とココネはずっと目だけを見ていた。その目は、まるで俺を試すかのような目だった。
そして、何かを納得したのか、ココネは一度小さく頷き、そして高らかに宣言した。
「その強い信念と固い決意を称え、ここに第十六代ナルカディア王国、国王ケイイチの誕生をここに宣言します!」
会場内に響き渡るココネの宣言。それは新たな幕開けの宣言でもあった。




