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第30話俺と姫と結婚式 後編

 いきなりの新郎の挨拶をしろと言われ、なにも考えていなかった俺は当然動揺して、言葉なんて一つも浮かんでこなかった。


(何で最初に言ってくれなかったんだよあいつ)


 確かに新郎の挨拶は普通の結婚式でもあるけど、こういった王族の結婚式の場で果たして俺はどんな言葉を述べればいいのだろうか?


(でも悩んでいる場合じゃないし、直感で何とかしてみるか)


 この場にふさわしい言葉を並べれば、きっと何とかなるだろう。それにこういった場面が今後も沢山あるだろうし、今この場でしっかりしないとこの国の今後に関わってくる。


「えっと、本日は結婚式に来ていただき誠にありがとうございます。正直わたくし自身急な出来事だったので、かなり動揺しているのですが、まさかここにいる姫と結婚できるなんて思っていませんでした」


 よし、入りはこんな感じでオッケーだな。次はそれに繋がる話題を考えて……。


「半年前、突然この世界に呼ばれた自分は、最初は何にも分からない状態でした。正直何で結婚させられなきゃいけないのかと思ってばかりで、ここにいるココネとも毎日のように喧嘩していました。まあそれは今でも続いていますけど」


 少しだけ笑いが起きる。これで場は和んできたし、俺自身の緊張もほぐれてきた。


(何とかうまくいきそうだな)


 あまりに突然の振りにかなり戸惑っていたけど、こっちだって伊達に二十年生きているわけではない。社交辞令くらいの事は俺にだってできる。その後も難なく挨拶を済ませ、最後に結びの言葉を述べた。


「という事で、本日は来ていただき本当にありがとうございました、どうぞごゆっくりと楽しい時間を過ごしてください、以上です」


 頭を下げると、拍手が聞こえてきた。どうやらなかなかよい挨拶にだったらしい。


(ふう、よかった)


 ほっと一息を吐きながら、新郎の席に戻る。これで失敗なんかしてたら、この先国王としてやっていけなかったよな絶対。


「なかなかだったわよケイイチ」


「こんな無茶ぶりは二度とするなよ」


「もうないわよきっと」


「だといいんだけどさ」


 これ、フラグとかになったりしないよな?


■□■□■□


 式が始まって三十分後、


「えー、続いては新郎と新婦による誓いのキスと、新婦による新郎へのプレゼントでございます」


『……はい?!』


 早くもそのフラグは回収されました。


「な、何よそのプログラムは! 私何にも聞いていないわよ」


「当たり前じゃないですか。そもそも結婚式が秘密裏で企画されていたのですから」


「その時点で私は間違っていると思うんだけど」


「それはともかく、本当にキスしなきゃいけないのか? こいつと」


「当たり前じゃないですか。結婚式の一大イベントの一つなんですから」


「まあ、確かにそれは言えているかもしれないけど……」


 結婚式と言ったら新郎新婦同士のキスなのかもしれないけど、いざそれを自分がやるとなったらすごく恥ずかしい。それにココネからプレゼントがあるって言っていたけど、果たしてそれは何だろうか? ちょっと気になる。


「では新郎新婦、前の方へお進みください」


「マジでやるのかよ……」


 気が進まないが、ここで余計な事をすると悪いイメージを与えかねない。それはココネも同感らしく、若干嫌そうに俺を見ながらも、セレスが指定した場所へ二人で移動し、そして向き合う。うわ、近くに来ると緊張が更に増してきた。


「いいケイイチ、これはあくまで儀式みたいなものなんだから、余計なこと考えないでよね」


「誰が考えるか!」


 そう言いながらも内心、雑念が入ってしまっているのは内緒なんだけど。


「ではお二人共、誓いのキスを」


 セレスに急かされながら、お互い目を閉じて少しずつ顔を近づける。


ドクン ドクン


 心臓の鼓動が高鳴っているのを感じる。こいつに限らず誰かとキスをするのは人生で初めてだ。二十年生きてきて恥ずかしい話かもしれないが。


(と、とりあえず落ち着け俺)


 緊張よりもドキドキが上回って、頭がパンクしそうになってしまいそうなのを何とか抑えながら、更に距離を縮める。そして二人の唇の距離はほんの数センチまで近づき、そして……。


 重なった


 俺の初めてのキスは、こうして異世界のお姫様と、結婚式というイベントの中で行われた。


■□■□■□

 時間はほんの数秒だったけれども、俺にとってはとても長く感じた。このほんの僅かな幸せな時間を、俺は精一杯感じた。


「では続いては、新婦による新郎へのプレゼントです」


 キスの余韻がまだ残ったまま次へ進む。彼女から俺へのプレゼントって一体何だろうか? セレスがココネの元に何か小さい箱を持ってきて、それを彼女は受け取り、突き出すようにそれを俺に渡してきた。


「い、一応、あ、あんたはこれから国王になる人間だから、こ、これを持っておきなさい。絶対になくさないでよ!」


 ツンデレキャラ丸出しのココネからそれを受け取り、その場で俺は開けてみる。中に入っていたのは……。


「これって……ネックレス?」


 赤い石が埋め込まれているネックレスだった。あれ? これってどこかで見たことがあるような……。


(あ)


 ふと彼女の首元を見てある事に気がつく。そうかこれは……。


「ココネ、お前これ……」


「な、何よ。私のプレゼントに文句を言うなら、すぐにでも帰ってもらうわよ」


「別に文句なんか言わねえよ」


「じゃあ何よ」


「ありがとうな」


「っ! も、もたもたしてないでさっさと戻るわよ。式が長引いちゃうわよ」


「はいはい」


 彼女が俺にくれたのは、自分自身がずっと身につけていたネックレス。恐らく彼女の母親の形見か何かだろう。それを俺にくれたって事は、俺を認めてくれたのだろうか? いや、俺の勘違いかもしれない。勘違いかもしれないけど、


 何だかすごく嬉しかった。


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