第27話幼馴染からの言葉
突然の話に、由奈にどう話せばいいか分からずに夜を迎えてしまった。このまま話さないで明日を迎えてしまったら事態は悪化してしまう。そうとは分かっていても、話を切り出すことができない。
そんな重たい雰囲気を纏ったまま迎えた夕飯。ついにその話が由奈にバレてしまう。
「ケイイチ様、明日の式の服装に関してなのですが……」
キッカケはセレスが、食事を終えた俺にそう話しかけてきたことから始まった。
「式? 明日何かあるの? 圭ちゃん」
「あれ、もしかしてあんた話してなかったの? 明日のこと」
「え、えっと。別にこの後話そうと思っていただけでな」
「どういうこと?」
「あんたが話さないなら、私が教えてあげるわよ。不本意ではあるけど」
「不本意? ますます分からないんだけど」
頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべる由奈に対して、俺は先ほどから冷や汗が止まらない。俺自身から話さなくて済むのはありがたいんだけど、その後の対処が絶対に面倒くさくなってしまう。なので、
「いや俺から話すよ。俺自身の責任でもあるからな」
俺自身が話すことにした。正直結婚なんて言葉を出すのはすごく恥ずかしい。でもこれが超えるべき最初の壁だというのなら、それは越えるべきものだ。
「えっとな由奈、驚かないで聞いてほしいんだけど」
「内容によっては驚くと思うけど、何?」
「俺とココネ明日結婚することになった」
「……へ?」
ポカーンと口を開ける由奈。まあいきなりそんなこと言われたら驚くよな。それを聞かされた当の本人だって、未だに受け入れられていないし。
「け、結婚? あ、明日?」
「はい。ココネ様とここにいるケイイチ様は明日結婚されます。式などの準備はこちらが既に済ませておりますから、ご気軽にご参加ください」
「何であんたが説明すんだよ!」
こっちにはこっちの事情があるというのに、余計なことを言わないでほしい。
「圭ちゃん、それって本当なの?」
「こんなところで嘘つかないよ」
「そっか、結婚するんだ……」
「ああ。俺もまさかこうなるなんて……って、どこに行くんだ?」
俺が詳しい事情説明をしようとしたところで、突然由奈が席から立ち上がった。
「どこに行こうが私の勝手でしょ? もう圭ちゃんにとって私は、ただの幼馴染なんだから」
「別にそういうこと言って……おい!」
バタン
無情にも由奈は俺の話を全て聞かずに、広間から出て行ってしまった。これはちょっと厄介なことになってしまったぞ。
「追いかけなさいよ」
「え? でも……」
「自分が連れてきたんでしょ? だったらちゃんと責任取りなさいよ。いくらなんでも可哀想すぎるわよ」
「……分かった。行ってくる」
ココネに背中を押され、俺は由奈の後を追いかけるのであった。
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それから由奈が見つかったのは五分後。彼女は城を出たすぐの所でで一人うずくまっていた。気づかれないようにそっと近づこうとすると、既にバレていたのか彼女の方から喋り始めた。
「私ねいつかはあるんじゃないかって思ってたの。圭ちゃんが誰かと結婚するって」
「まあ、人間いつかはするだろうな。由奈だってそうだろ?」
「うん。でもその相手が絶対に圭ちゃんって決めてたから、すごくショックで」
「……」
サラッと告白され、俺はどう答えればいいか分からなくなる。まさか彼女の中で、そんな事が考えられていたなんて、こっちとしては申し訳ない気持ちになる。全ては半年前、この世界に呼ばれてから全てが変わってしまった。住む環境も、自分の気持ちも。何もかもが変わってしまった。
けど、変わってしまったのは俺だけで、由奈は昔のままの彼女だ。俺が急速に変化しすぎて、彼女の気持ちが追いついていないのかもしれない。
「ねえ圭ちゃん」
「ん?」
「この世界に来てしまってから、圭ちゃんの中でどういう変化があったの? あの姫に出会ってしまったから、今こういう事になってしまっているんだし、なにか変化したのか私知りたい」
「半年でどういう変化が……か」
具体的にどういう変化が起きたのかは俺自身も分かっていない。でもはっきりと言えることは、俺は多分あいつ、ココネと国づくりをしてみたいと思っている。何か得するわけでもないけど、何というか一つの事に打ち込んでみてもいいのかもしれないと思った。それにもしかしたらかもしれないけど、俺はいつの間にかあいつのことを……。
「俺も具体的には言えないけどさ、多分この世界にいる事がもしかしたら生きがいになっているのかもな。毎日のように農業やったり、勉強したり、たまには休暇を取って海に行ったり、ありきたりな生活なのかもしれないけど、世界が違うだけで全然感じ方が変わってくるんだよ。農業だって育てるものがまるっきり違うし、勉強する内容だって違う。それにこれから国の長になるだなんて正直びっくりだけど、この国に活気を取り戻せるならそれでもいいかなって思うんだよ」
「生きがい……ね。圭ちゃんも面白いこと言うようになったね」
「たまたま浮かんだだけだから、気にしなくていいよ。でもそう思っているのは本当かもな」
この世界で過ごしてきた半年間は、なんだかんだで俺にとってかけがえのないものになっていた。だからこうしてもう一度戻ってきたわけだし、結婚することも別に悪くない気がする。その分由奈には迷惑をかけることになってしまうけど。
「なあ由奈、お前はこの世界に来たことを後悔しているか?」
だから彼女にこの質問をかけてみた。後悔しているなら今すぐココネに頼んで帰してもらうという手もある。果たして彼女はどう答えるのだろうか?
「私は……多分後悔していないと思う」
「それは本当か?」
「うん。だってこの世界に来たのは私の意志だし、圭ちゃんと結婚したかったのは自分勝手な考えだったんだから」
「由奈……」
「それに私も見つけてみたいんだこの世界で。自分の居場所を」
夜空を眺めながらそう言う由奈は少しだけ寂しそうだった。本当なら幼馴染の俺が、彼女の側にいてやりたいのに、これから俺は彼女の元を離れることが多くなってしまう。その中で彼女は見つけられるのだろうか? 自分だけの居場所を。
「見つかるといいな。俺もいざとなったら協力するけど」
「ありがとう圭ちゃん」
俺は彼女に対してなにができるのかは分からない。けれど、できることは精一杯フォローしよう。それが俺が彼女にできる報いでもあるのだから。
「じゃあ戻ろうか」
「うん」
彼女の手を取り、城へ戻る。こうして二人で手を繋ぐなんて果たして何年振りだろうか。
「圭ちゃん」
「ん?」
「今までありがとう」
「っ!」
彼女の思いがけない言葉に、俺は思わず涙が出そうになってしまう。今の言葉は多分、結婚することになった俺に対しての、幼馴染からの贈る言葉でもあり、同時に別れの言葉でもある。そう、彼女は別れを告げたのだ。俺を好きでいてくれた坂本由奈に。
「あれ? もしかして泣いている圭ちゃん」
「な、泣いてなんかいねえよ」
「ふふ、嘘ばっかり」
こうして由奈は無事結婚の話を受け入れ、俺はいよいよ結婚式を迎えることになったのであった。
「あ、そういえば私、まだ認めてないから結婚のこと」
「今の発言で全部台無しだよ!」




