第26話あまりに突然すぎる話
再びナルカディアに戻ってきた俺と由奈は、何故か二人してそのままココネの部屋に呼ばれた。
「せめて荷物くらい置かせてくれよ」
「嫌よ。それよりも大切な話をするんだから」
「大切な話?」
いきなり大切な話とか、何を話すつもりなのだろうか。もしかして由奈の事で何か不満でもあったりするのだろうか?
「まず一つ、何で彼女もついて来ているの?」
由奈を見ながら言うココネ。やっぱりそこから突っ込まれるよな。
「うーん、成り行きでそうなっちゃったんだよ。許してくれないか?」
「あまり納得いかないけど、人手は常に必要だから、許してあげるわ」
「サンキュー」
「まあそれよりも言いたいことが沢山あるのよ。その二人が持っている大量の荷物はなによ」
「何って、こっちで生活するにあたって必要だって思ったものを持ってきただけだけど。なあ由奈」
「主に圭ちゃんの荷物だけどね」
今回俺が持ってきた荷物は、海外旅行とかでよく使うかなり大きめのキャリーケースをざっと五個分。電車に乗っている間は、周りから変な目で見られていたが、そんなのは気にしない。これは俺がこれから生活していくにあたって、必要だと思った物全てなのだから。ちなみに由奈は、キャリーケース二つ分といったところだろうか。キャリーケース五個をどうやって運んできたかって? そんなの秘密の力に決まっているだろ。
「生活必需品を持っているような気がしないんだけど。変なのはみ出しているし」
「これか? これはコンセントだよ」
「コンセント? 何よそれ」
「知らないの? コンセント」
「知るわけないでしょ。あんたと住んでいる世界は違うんだから」
「違くても基本的概念は変わらないと俺は思うんだけどな」
コンセントがなくても、電気という概念は存在するのだから、どの世界へ行っても皆考えは変わらないのだと思う。
「まあそのコンセントとかいう奴に関しては後で詳しく聞かせてもらうわ。それよりも他にも何か怪しげな物ばかりあるんだけど、ちょっと確認させてもらっていいかしら。危険物とか入っていたら困るし」
「別に構わないけど、壊すなよ?」
「それは物によってかしら」
そう言うとココネはセレスを呼び、俺と由奈の荷物すべてをメイド達と協力して運ばさせた。あの中に入っているものは大体機械関係のものだから、変にいじられて壊されたら困るけど、本当に大丈夫だろうか?
「まあ荷物のことに関しては、セレス達に任せるとして、最後に一つ話しておきたいことがあるの。これは彼女には席を外してもらいたいんだけどいいかしら」
「ん? 由奈がいちゃいけないのか?」
「うん。これは……ちょっとあんたと二人きりで話しておきたいことだから。一応部屋を手配するようにさっき言っておいたから、メイドに聞いて部屋に戻っておいてほしいんだけどいいかしら?」
「そういう事なら俺は構わないけど、由奈はいいか?」
「うん。大切な話なら私が邪魔しちゃダメだもんね。じゃあ先に部屋に戻っているね私」
「ああ、また後でな」
由奈はそう言って部屋を出て行った。こうして俺とココネは、二週間ぶりに初めて二人きりになった。
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「それで、大切な話ってなんだ?」
「えっと、その……」
「なんだよ急に恥ずかしがって。お前らしくない」
「べ、別に恥ずかしがっているわけじゃないのよ」
「じゃあなんだよ」
ここまで焦らされるとかえってイライラしてしまう。それほど大切な話なのだろうか?
「あんたがこの世界に呼ばれた理由って分かるわよね」
「ああ。確か国の復興と、お前と結婚して世代を継がせる子供を産むことだっけ」
男の俺が言うとものすごく恥ずかしいんだけど、今はそんな事は気にしない。
「うん。で、その結婚のことなんだけど」
「結婚のことがどうしたんだ? 別に急ぐ話じゃないだろ」
「それがね、私達明日結婚する事になったのよ」
「へえ、明日式を挙げるのか。なるほどなるほど……は?」
そこまで言って思考が停止する。今こいつ何て言った?
「何かセレスが、国の復興のためにはすぐにでも国王を作らなければならないとか、何とか言って、急遽明日私とあんたが結婚させられることになったの」
「本人の同意もなしにか?」
「うん。私だってさっき聞かされたのよ」
「えっと、別にふざけているとかそういうのじゃなくて?」
「ふざけてこんな事言わないわよ。とーにーかーく、私達は明日急遽結婚式を挙げることになったの! だから明日はちゃんとした服を着るのよ。覚えておきなさい」
「いやいや、服とか以前の問題だろそれ」
何だよいきなり結婚って。いつかはさせられると思っていたけど、こうも話が急だと由奈どころか俺も心の準備が出来ていない。
(これ、どうやって由奈に説明すればいいんだよ……)
この世界に帰ってきて二日目で結婚なんて、絶対に怒られるよ。
「話は以上!伝えることはちゃんと伝えたんだから、忘れたら許さないわよ」
「誰がこんな重大な話忘れるかよ。本人の同意なしで勝手に行おうとしているんだから、ちゃんと責任は取ってもらうからな」
「分かってるわよ。ほら、さっさと部屋に戻りなさい」
「はいはい」
ココネの部屋を出た俺は、大きなため息を吐いた。一体どうしてこんな事になってしまったのだろうか? いくらなんでもこれは酷すぎる。
(戻ってこなきゃよかったかな、この世界に)