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第23話どこへ行っても君を想う

 今から二年以上前の事だった気がする。実は由奈には姉がいて、双子の姉妹だった。だから俺とも当然腐れ縁があり、結構三人で遊んでいたことが多かった。だからそれなりに親しかったし、それがある感情に変わっていたのも気づいていた。けどそのある感情は俺達にとっては最悪の結末を生み出すことになってしまうとはその時は思ってもいなかったんだ。


「今日この海に来た本当の理由はね、圭ちゃんにちゃんと覚えておいてもらいたかったの」


「忘れているわけないだろ。俺だって……」


「だったらどうしてあの時……」


「悪かった!」


 これ以上問い詰められる事に耐えられなくなった俺は砂浜だというのに土下座した。本当はもっと早くに謝るべきだったのに、ずっと避け続けてきた。だから半年前俺は、謝罪とともに由奈の気持ちにも答えようとしていた。だけど、それは叶わず……。


「今更謝ったって……たとえお姉ちゃんが許しても、私が許さないから」


「許されなくたっていい。それが罪なら償う」


「だったらお願いだから、私の元から離れないで!」


 必死に土下座している俺に対して、由奈は声を張り上げながらそう言った。


「半年も……半年も心配させたんだよ? それなのに圭ちゃんはまたあの姫の元に戻ろうとしている。それがどうしても嫌なの! 圭ちゃんだけはいなくなってほしくないの。もう誰かがいなくなるのは……嫌!」


「由奈……」


 分かっていた。由奈は俺にこのままこの世界に残ってほしいって思っていることを。しかも彼女は実の姉を失っている。だから俺までもが彼女の目の前にいなくなるのは、耐えられないのかもしれない。でも俺はそれに答えることができない。半年前の自分だったら、このまま由奈と共にする事を即決していた。だけど今の俺は別の感情に揺れていて、どうしても決めることができない。由奈の気持ちは痛いほど分かるし、俺だって彼女の側にいてやりたい。けれど……。


「俺はやっとやりたい事が見つかったんだよ由奈」


「それが国の復興だというの? だったらそれは間違っているよ圭ちゃん」


「何が間違っているんだよ! 俺はずっと自分がやりたい事を探してた。それがやっと見つかったのに、何が間違っているんだ」


「この世界から離れてまでやる事が間違っているの! どうして自分が住んでいるこの地球で、やりたい事を探さないの? どうして私から逃げてまでそんな事をしようとするの?」


「俺は別に逃げてなんか……」


「逃げてるわよ! 私は圭ちゃんの事が好きなのに、どうして圭ちゃんは……何も答えてくれないのよ」


「それは……」


 あの時本当は自分の気持ちにケリをつけようとしていが、例のことがあって彼女に会えなかった。そして半年が過ぎ、俺の感情は変化してしまった。だからその彼女の気持ちにはどうしても答えてあげられない。だって俺は……。


「ねえ圭ちゃん、私一つ聞きたかったことがあるんだけど」


 砂まみれになった体を払いながら、俺は一度立ち上がると由奈は何かを思い出したかのように俺に言葉を投げかけてきた。


「ん?」


「私とお姉ちゃん、あの時の圭ちゃんだったらどっちを選んでた?」


「あの時?」


「そう、あの時よ」


 あの時とは、確か例の事件が起きる前だった気がする。ほぼ同タイミングで告白された俺は、答えを出せずにあの日を迎えてしまった。全ては俺に責任があるがゆえに、彼女のこの質問には答えるべきなのかもしれない。もしもあの時、答えを出していたとしたら俺は多分……。


「俺は……由奈、お前を選んでいたと思う」


「え?」


「お前たち姉妹は双子なだけあって、すごく似ていたし、性格もほとんど変わらなかった。けど一つだけ、お前には姉にはなかったものがあった。それが多分決定的なんだったと思う」


「お姉ちゃんになくて私にあったもの?」


「ああ」


 由奈とその姉である奈津美は双子で、性格といい顔といいどれもそっくりであった。たまに見分けがつかない時もあったし、周りにもよく間違われていた。けれど、俺だけが知っているある一つのことが、二人の見分けをつけていた。そのある事とは……。


「お前は誰とでも隔たりなく接せる優しいところがあったんだよ。だから友達とかだって多かったし、クラスの人気者だっただろ? これを言ったら奈津美には失礼かもしれないけど、あいつはちょっと変わった性格していたからな」


「うーん、そうだったかな私」


どうやら本人も自覚していないらしい。まあ、俺だけが知っている事だし、分からなくていいか。


「その点が一番大きかったと思う。だからもしあの時結論を出せていたなら、多分お前を選んでいた」


でもその感情が今もあると言われたら違う。


「ねえ、だったらあの時にどうして答えを出してくれなかったのよ。圭ちゃんがしっかりしていれば、お姉ちゃんは……」


「俺だって申し訳ないと思っている。でもこれだけは覚えていてほしいんだ。俺は決してこの半年間お前達を忘れていなかった。それだけは信じてほしい」


 信じてもらえるか分からないけど、これだけははっきり言えた。俺はあっちの世界に行ったあとも一度も忘れていなかった。だって二人は俺にとって大切な存在だし、それはこの先も変わらないと思う。それが向こうの世界に行ったとしてもだ。


「……その言葉に偽りはないの?」


「ああ。お前達の事はどこへ行ったって絶対に忘れない。だから……許してほしいんだ。この世界から離れることを」


 もう決めてしまったことは撤回しない。俺はようやく自分がやりたい事を見つけられたのだから、それをとことんやり続けたい。ココネと国を作り上げてみたい。だから……由奈には許してほしかった。俺が彼女の側から離れることになってしまうことを。

 それに対して由奈は、俺の予想とはまるで違った答えをだしてきた。


「そこまで言うなら……圭ちゃんがやりたいようにすればいいけど、一つだけ条件があるの」


「条件?」


「私も一緒に連れてって」


「え?」


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