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第21話誰よりも国を想う者

 俺は最初から騙されていた。元の世界に戻れると思って、ここまで頑張ってきたというのに、それが嘘だったなんて信じられない。


「どうして騙していたんだよ」


 でもそれが真実であるならば、俺は怒る。彼女の言葉を信じてきた自分に謝罪してほしいくらいだ。でもちゃんとした理由があるならそれは聞くし、もしそれがまともな理由でなかった時は……。


「騙していたって、随分大げさな言い方よね。でも、確かに私はあんたを騙していたのかも」


「だったら理由を答えてくれ。そうでなければ俺は今すぐにでもここから出て行く」


 俺はこの城から出て行く。


「え、ちょっと圭ちゃん、それはいくらなんでも」


「いいんだよ由奈、そうでなきゃ俺はここまで何のためにやってきたんだよ」


「それは自分がやりたくてやってきたって言ってたじゃない!それなのにどうして……」


「俺は騙されていたのかもしれないんだぞこいつに! それが許せるか?」


「でも……」


「とりあえず聞かせてくれココネ。お前は何でそんな嘘をついてまで、俺をいさせた」


 しかも彼女はこんなにも俺を毛嫌っていたのに、こんな事をしたのか分からない。それが条件だとしても、どちらにせよ帰れないんだから、最初からそう言えばよかったのに、何故半年も黙っていた。


「国のためよ」


「国のため? そんなの今更言うのか?」


「そうじゃないわ。仮に復興できたとしても、一つだけどうあがいても足りないことがあるの。分かる?」


「足りないこと?」


 目的はこの廃れてしまった国を、昔の姿に戻すこと。それだけなのだが、何か足りないことがあるのか?


「そもそもおかしいとは思わなかったの? 別に復興するならわざわざ国王として呼び寄せる必要なんてなかったんじゃないのかって」


「あ、そういえば……」


 それはそうかもしれない。大きな目的は国の復興であり、別にそれだけの為なら王として政略結婚させる必要なんてどこにもないはずだ。別に男である必要だってないし、何で男である俺を選んだのだろうか?


「はぁ……、もしかして気づかないの? 圭ちゃん」


 頭の中でいくら考えても答えが出てこない俺に、由奈はため息をつきながら「仕方ないわね」と前置きをし、俺の疑問に答えてくれる。


「よく考えてみなさい。いくら国づくりが成功しても、ずっと圭ちゃんたちがやっていけるわけじゃないでしょ。そう考えると必ず必要になってくるのがあるでしょ?」


 確かに俺やココネは当然年をとるだろうし、いずれか死ぬ。その時に必要になってくるものといったら、


「まさか……子供か?」


「そういう事。もう、何で私が説明しなきゃいけないのよ」


 子供っていくらなんでも規模がデカすぎる。それに仮に結婚したとしても、子供がうまれるのに果たしてどのくらいかかると思っているのだろうか? 


(でも子孫が必要なのは確かか……)


 次の姫、もしくは王を繋ぐためにはココネの血を継いでいる者でなければならない。必ずだとまでは言い切れないが、大体そんなもんだろう。


「以前あんたに話したと思うけど、私は自分の手で国を滅ぼしてしまったの。決して償える罪じゃないけど、それでもせめてこの先もこの国が繁栄させていきたい。それが唯一の償い方だと思うから」


 少し悲しそうに語るココネ。彼女がここまで悲しそうな顔をするのは、その話を聞かされたとき以来だろう。恐らく彼女は自分の犯した罪に対して激しく後悔していて、思い出すだけでも嫌になるのだろう。だから悲しいんだきっと。

 それに対してどうすればいいか困っていると、ココネは突然正座して、


「私の我儘なのは分かっている。あんたにとっては、何にも得しない話で、しかも騙されていたんだから、今すぐにでもここから出ていきたいって気持ちは分かる。私を恨んだって構わない。けど、それでも、この先もこの国を守り続けるにはあんたの……ううん、高山圭一の力が必要なの。だからお願い、この世界にずっといてください。お願いします!」


 そう言って土下座して俺に頼んできた。プライドがかなり高い彼女がここまでして頼んできたのは、この半年の間で初めての事だった。だから俺も、すぐに答えをだせなかったし、それに……。


(ここまでしてでも、守りたいものがあるんだなこいつには……)


 国をずっと守り続けたいっていう彼女の気持ちに、俺は心を打たれていた。普段はこんな性格の彼女だが、誰よりも国を想っていて、ちゃんとじぶんの罪と向き合っている。本当は現実から逃げ出したいのだろうけど、彼女はそれでも立ち向かおうとしている。そんな姿が俺には……とても格好良く見えた。


「顔を上げろよココネ。お前の気持ちよう伝わったよ」


「え?」


「いきなりこの国にずっとい続けてくれだなんて言われたら動揺するし、理由が適当だったら多分意地でも帰ろうとしたと思う。けどお前は、国を一番に想っていて、その為なら己のプライドを捨てるというその姿だけでも見れたから充分だ」


「じゃあ……」


「ああ。お前がそこまで望むなら、俺もそれについて行ってやるよ。何だかんだ気に入ってたしこの国」


 彼女がここまで決意を固めているのに、俺が決めなかったら男として廃っている。だから俺もここで決断してしまおう。ここでその生涯を過ごすことを。


「ケイイチ……」


 俺の決意に感動したのか、若干涙ぐむココネ。ここまで遠まわしにしなくても、ちゃんと話してくれれば、こんなにも苦労しなかっただろうに。どんだけ不器用な奴なんだよ。


「ただし、いくつか条件があるから、それを聞いてくれ」


「条件?」


■□■□■□

 それから二日後、俺と由奈は自分の世界に二週間後に戻ってくるを条件で、一次帰還させてもらっていた。散々条件がなんやらいって、帰ることすらできなかったのに、どうやらそれも嘘だったらしい。まあ、それにはちゃんとした理由があったんだし、見逃してあげるとしよう。


「ねえ圭ちゃん、本当によかったの?」


 何が本当に良かったのかは聞かなくても分かる。俺があっちの世界に行くことだ。突然の話だったとは言え、半年間も行方不明になっていた人間が、今更戻ってきても誰も喜ばないだろう。だから俺は決めたんだ、向こうの世界で暮らし続けようと。


「ああ。一度決めたことは変えるつもりはないよ」


「そっか……」


 何だか残念そうに言う由奈。多分彼女は俺と一緒についてくるきはないだろうから、これが二週間後が一生の別れになる。寂しい気もするけど、これ以上彼女を振り回しては可哀想な気がする。


「じゃあ早速だけど、買い出しに出かけるぞ」


「うん」


 ちなみに今回何故一次帰還したのかというと、由奈を元の世界に帰すこと、そしてこれからあっちの世界で暮らすにあたって必要になるであろう物を揃えるため。永住するのだから最低限こっちの世界の物を持っていきたいというのが俺が彼女に対してだした一つ目の条件。


(さて、何を持っていくかな)


 二週間という時間を俺は精一杯活用して、これからの新生活のための準備を始めるのであった。


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