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第20話半年という月日

 それから更に一時間ほどかけて、収穫できる野菜を全て収穫。魚類は日用雑貨関係も含めて、これなら近いうちに商店街を開けそうだ。


「ふう、こう改めて見ると結構頑張ってきたんだな」


「ほとんどが私のおかげだけどね」


「嘘こけ。最初の方は全く手伝わなかったくせに」


「あんまり気が乗らなかっただけよ。今はちゃんと手伝っているんだから、文句は言わないでほしいわ」


「はいはい、分かりましたよ」


 まあ確かに最近はココネも頑張るようになってきたのは事実だし、そこは褒めてもいいのかもしれない。と言っても本当にあくまで最近の話だ。

 

「でもあんたも、よくここまで手伝ってくれたわよね」


「それを強制させたのはどこのどいつだ?」


「さあ?」


「さあ? じゃねえよ」


 脅しまがいな事を言っておいて、とぼけられても困る。


「そもそも一つ聞かせてくれ」


「何よ」


「前々から思っていたんだけど、どうして俺が選ばれたんだ? 特別な理由があるようには思えないし」


「そういえばそうね。何であんたみたいな人間が選ばれたのかしらね」


「何で知らないんだよ。そもそも俺の部屋を撤去してまで世界を繋げたんだから、何かあるんだろ?」


 別に結婚相手なら俺以外にもっといい人とかいたのではないかと思う。現に最初に会った頃は、何で俺と結婚しなきゃいけないんだと言わんばかりだったし、別に俺である必要はなかったんじゃないのかと思う。


「そうねえ、多分偶然よ」


「偶然で俺の部屋は撤去されたのか?」


「そういう事にしておきなさい」


「誰が納得できるか!」


 結局その理由は、最後の最後まではぐらかされ、何も教えてもらえないまま彼女はその場を去っていってしまった。


(何ではぐらかす必要があるのか、さっぱり分からん)


■□■□■□

次の日の晩、俺は一人大量の野菜たちと格闘していた。


(いざ開くとなると、やっぱり人手が必要になってくるよな)


一人でこの量をやるとなると、流石に心が折れそうになる。


「一人で大変そうね圭ちゃん」


 大量の野菜とか魚とかを販売用にまとめ作業をしていると、それらを眺めながら由奈が隣にやって来た。


「そう思うなら手伝えよ由奈」


「嫌よ、一人で頑張りなさい」



「いやいや、手伝ってくれよマジで」


 だが結局由奈は手伝ってはくれず、横でずっと作業を見ているだけだった。


「ねえ圭ちゃん、この採れた野菜とかはどうするの?」


「さっきも言ったけど、これを最近建設が終わった商店街で売るんだよ。まあ多分客はなかなか来ないと思うんだけど」


「どうして?」


「それは一応理由があるんだけど、それはまた今度話す。それより、お前大丈夫なのか?」


「何が?」


「だって突然この世界に来て、友人とか……家族とかさ」


「半年も放置していた人が言うせりふじゃないわよ」


「ま、まあそうだけどさ」


 でも俺だって好きで放置していたわけではない。全てが突然過ぎて、連絡する手段すらなかったのだ。だからその点は許してほしいのだが……。


「圭ちゃんが行方不明になったって聞いたときは、皆大騒ぎしたんだよ? それなのに呑気にこんなところで農作業なんて、呆れてものが言えないわ」


「俺だってまさか異世界に来てまでこんな事やらされるなんて思っていなかったんだよ。それに最初の頃は何度も帰りたいと思っていたんだよ」


「最初の頃は、でしょ。きのうも言ったと思うけど、今の圭ちゃんはすごく楽しんでいるようにしか私には見えないの」


「そう見えるのか?」


「圭ちゃんって、昔からそうだもん。何かひとつのことをやり始めると、ハマるところまでハマって、どれだけ長い時間をかけても自分が納得するまでやる人だから」


「言われてみれば心当たりはいくつもあるけど、今回の件はちょっと訳が違うと思うんだけどな」


 これを成し遂げなければ帰れないし、やらなければあいつに怒られる。そんな状況の中で俺は頑張ってきたわけだし、別にそこまでハマっているのかって聞かれたら、否定だってするかもしれない。


「圭ちゃんさもしかして気づいてない? 帰るための条件が色々変だって事」


「変? 何が?」


「よく考えてみてよ。条件は政略結婚をすること、そして国の復興だったよね?」


「ああ、そうだけど」


 別段変なところはないと俺は思うけど。


「政略結婚ってことは、つまりこの国の王になる。その状況下で元の世界に帰れると思う?」


「あ」


 確かに変だ。この国の王になるという事はつまり、この国を統べる者になる。その人が突然元の世界に戻るだなんて言いだしたら大問題になるし、恐らく扉が開かれたとしても帰してくれないだろう。つまり俺は……。


「騙されてるのか?」


「そう考えるのが濃厚だと私は思うけど」


 もしその考えが間違いないとしたら、俺、いや俺と由奈は一生帰れない。いくらこれ以降頑張ったとしても、結局帰れない。つまりおれの半年間は全て無駄。そう、全て無駄だったのだ。


「でもどうしてそんな嘘をついてまで……」


正直色々解せない点が沢山ある。けどそれは、直接本人に聞くしかないようだ。


「その疑問、よければ答えてあげようか?」


「え?」


ふと後ろから声が聞こえる。振り返るとそこにいたのはココネ。噂をすれば影というやつだ。


「ココネ、お前今の話聞いてたのか?」


「当たり前じゃない。へたに勘付かれたから無視できないわよ」


「勘付かれたってお前、じゃあ……」


「まあ半分あってて半分ハズレってところかしら」


「半分ってどっちが?」


「元の世界に帰れないことよ」


「っ!」


 やっぱり、そうなのか? ココネは……いやこの国は俺を騙していたのか?


 俺は半年も騙されたのか?



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