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第2話重なる絶望 遠ざかる道

 半ば強制的に異世界での生活を始めることになった俺は、早速姫の側近(セレスという名前らしい)に自分の部屋へと案内された。


「ここが王子の部屋になります」


「うぉ、どっかの高級ホテルのスウィートルーム以上だな。さすがは王室」


 まさしく国の王だけが入る資格があると言っても過言でもないその部屋は、元の世界いう洋風に近い雰囲気だ。部屋全体を照らしているシャンデリアの光はあまり強くなく、優しい光が部屋を照らしている。部屋の端には一人で寝るには勿体無いくらいの大きさのベッド。しかもダブルだというのが驚きだ。ここは二階ということもあり、外の景色を眺めることもできるちょっとしたベランダ。


(そういえば外はどうなっているんだろう)


 試しに外の景色を眺めるためにベランダに出て.景色を眺めてみる。


「え?」


 だが、外に広がっていた景色は、一言で表すなら『無』。人の気配すら感じさせない無の空間だった。時間帯的にはまだ夕方の前なのか、太陽が出ている。けど見えている景色は無だ。しかも人がいないだけとかそういった類のものではなく、何かに襲われたかのような跡がくっきりとそこには残っていた。


(これは一体どういう事なんだ?)


 あまりに謎すぎるその光景に俺は言葉を失う。今まで二十年間生きてきた中で、こんなにも何も無い空間を見たことはない。まるでここには俺達しか住んでないような、そんな錯覚にすら陥りそうな光景だった。


「どうかされましたか? 王子」


 その景色を見て呆然としている俺を不思議に思ったのか、セレスが話しかけてきてくれる。


「えっと、セレスだっけ? 一つ聞いていいか?」


「何でしょうか?」


「今俺の目の前に広がっている光景が、この国現実なのか?」


「はい、そうです。これが我が王国ナルカディアでございます」


 確かにさっき、国が危ないとか色々言っていたがらこれはその域を超えている。


「これが本当に国と呼べるのか?」


「私には分かりませんが、ココネ様がそう言う限りナルカディアは国であり続けますよ」


「ふーん」


 セレスの答えがちょっと曖昧なのが気に入らないが、今は納得しておくしかないそうだ。


「今王子が何を聞きたいのか分かりますが、それはまた後にお話する機会がありますので、その時までは待っていただけないですか?」


「お話する機会……ねえ」


 多分それは来ないと思うけど。


 ■□■□■□

 ベランダから部屋に戻ると、改めてこの部屋が今までと別次元であることを感じる。以前自分が暮らしていた部屋とは比べ物にならないほどの豪華さのその部屋は、平民である俺にとっては勿体無いくらいだった。


(ここで俺はこれから生活していくのか……)


 あちらの世界で使っていたもののほとんどが使えない環境での生活とはいえ、これだけ豪華だと不便な点はないと思う。けれど、何か違うんだよな。


「ではまた後ほどお呼びに参りますので、それまでどうぞごゆっくりとしていてください」


 そう言ってセレスは俺を置いて部屋を出て行く。一人取り残された俺は、とりあえず近くにあった椅子に座り天井を眺めた。


(簡単に受け入れたけど、これって色々とまずいよな…)


 別に結婚するのを了承したわけではないが(というか絶対にない)、俺は一人見知らぬ世界に来てしまった。しかも国を築き上げるって公言したけど、俺にそんな事できるのだろうか? 色々と把握できていないこの状況で、突然国を築くだなんて小学生に高校の勉強をさせるくらい難しい。


(あんな無から、何を作り出せるんだよ……)


 もう一つ気がかりなことがある。元の世界ではどうなっているのだろうか? 時間の進み具合は分からないが、恐らくこの先俺が行方不明になったって事で親が心配するだろうし、それに……。


(ちゃんとあいつに答えだしてやれなかったよな……)


 やり残したことがあっちの世界にある。だからこの世界にずっといるってわけにもいかないのだが……。


 コンコン


 これからの事をどうしようか悩んでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「入るわよ」


 俺が返答するよりも先に、その声の主が入ってきた。そいつは金色の長い髪をたなびかせながらすごい不機嫌そうな顔で、俺の目の前にやって来た。この国の姫のココネだ。

 さっきは若干遠い距離で彼女を見ていたが、こう近くで見るとやはり姫だと実感させられる。整った顔立ち、鼻をくすぐる微かな甘い香り、年相応(?)の胸の膨らみ、腰の辺りまで伸びている髪の毛。そして高級感あふれる服装。やはり普通の女性とは少し違った雰囲気が彼女にはあった。


「何だよさっきの自称お姫様か」


 そんな彼女の来訪に、先程の仕返しと言わんばかりにちょっとふざけた呼び方をしてやる。


「何が自称よ。折角この私がわざわざ挨拶に来たというのに、その態度はいい度胸ね」


 見事に釣れたのだが、どうも彼女の言い方と口調が気に入らない。どうしてこうも人を見下すような言い方をするのだろうか?


「何でいちいち上から目線なんだよ。そんなに人の上に立つのが好きなのか?」


「別にそんなのどうだっていいでしょ。それよりあんたに一つ忠告しにきたの」


「忠告?」


「いい? 私はあんたを絶対にこの国の王だって認めないわ。こんな得体のしれない人が王だなんて笑わせてくれるわ」


「気が合うな。俺だってあんたみたいな奴と国を築こうなんて思わない。さっさと帰らせてほしいくらいだ」


 一国の姫と王(仮)がしている会話とは決して思えないのだが、これでいいんだ。こうすれば結婚なんてすることないし、元の世界にだって戻ることができる。さあ、さっさと俺を元の世界に戻してくれ。


「何を考えているか知らないけど、この世界から出ることはできないわよ」


「何で言い切れるんだよ」


「こっちの世界とあんたの世界を結ぶ扉は一度閉じられたら、長い間開かれることはないわ」


「は? それってつまり本当に俺はこの世界から出られないって事なのか?」


 確かに扉はさっき見事になくなっていたが、だからといってすぐに帰れないってわけではないはずだ。


「何度も言っているでしょ。あなたの意志だけでは絶対に帰れないって」


「絶対って……。じゃあ俺は一生この国にいなければならないのか?」


「半分合っているけど半分間違っているわ」


「間違っている? どういう意味だよ」


 今の話を聞く限りでは、そうとしか受け止められないのだが、何か帰れる方法でもあるのだろうか?


「実はあの扉は特定の条件を満たせばもう一度開くことができるの」


「特定の条件? それってまさか……」


「つまりそういう事。この世界でするべき事を全てこなしたとき、その扉はもう一度開かれるわ。その時があんたが元の世界に帰ることが出来る時よ」


「なるほどな。じゃあつまり現時点で俺はどうあがいても帰れないんだな」


「そうね。あなたも私もその気がないんだから」


「ですよねー」


 こんな奴と結婚するイコール元の世界には戻れるけど人生の半分を捨てることになるという事だ。だったらまだ死んだほうがマシな気がする。


「というかその扉に関しても色々おかしいだろ。そんな特殊な条件の扉なんて元からあるわけじゃないだろ?」


「そうね」


 こっちは真剣に悩んでいるというのに、あまりに素っ気ない返事の仕方に少しイラッとする。


「つまりお前達がこの扉を作ったんだろ? だったらそんな条件をいちいち出さなくったって、帰すことができるだろ」


 俺はすごく正論なことを言うが、何か特殊な理由がない限りでは、わざわざ条件付きで閉じ込める必要なんてないはずだ。


「すぐにでも帰したいぐらいよ私だって」


「だったらどうして!」


 曖昧なことばかりの彼女にいい加減我慢の限界に達した俺は、椅子から立ち上がり突っかかろうとしたがやめる。何でそうまでして俺をいさせようとするのかサッパリ理解できない。俺だって大切な人を置いてきているんだ、そんな理由もなくこんな所に居させられるのはどうみても納得できない。


「あなたの気持ちは分からなくなくもないけど、これは教えられないわ。この国の最重要機密だもの」


「その国に俺はこれから関わるんだぞ? そんな曖昧な説明で誰が納得するんだよ」


 そこに答えてくれないと、俺だってちゃんと納得ができない(さっきは、なるって言ったけど、しっかりとした理由がほしい)。


「理由がなく行動するのは、正直納得できないのは私も分かる。けどそれは仕方がない事もいずれかは話す時が来ると思うから、その時までは待ってくれないかしら」


 さっきまでの態度とは違い、真剣に頭を下げる姫。ここまで頼まれてしまうと、それを断るのは男としていかがなるものか問いたくなる。だから今回は仕方なく納得してあげるとしよう。


「本当は納得できないけど、どやかく言っても解決しないし、今だけは納得してやるよ」


「ありがとう。じゃあそのお詫びに早く元の世界に帰るための策を考えてみたのよ」


「お、策があるのか?」


 この仲悪い状況のままなんとかなる方法があるのなら、それは思ってもいない提案だ。


「と言っても私も乗り気じゃないけど、あんたとなるべく接触したくないし」


「だからその肝心の内容を教えろよ」


「私とあんたは結婚するフリをするのよ。どうせセレスの事だから無理矢理でも結婚させようとするわ。そこで形だけの式を上げて、私達は正式に夫婦になったフリをするの。そうすれば一応結婚するという条件は満たせるし、国を築きあげるのだってそんなに難しい事じゃないわ」


「本当にそれで大丈夫なのかよ」


 確かにこいつが言っていることをやれば、元の世界に戻れる可能性が広がる。とてもシンプルでいいのだが、何か腑に落ちない。確かに形だけ結婚するのはいい案だ。けど、そんな形だけの夫婦が果たして国を造り上げる事は出来るのか?


「現状を見て分かる通り、あんたも私もお互い拒絶し合っているんだから、それしか方法がないのよ」


「そういう事じゃなくて、そんな方法で国を築き上げれるのかって俺は聞いてんだよ」


「何が言いたいのよ」


「確かにお前の言っている方法なら、お前の顔を見ないで簡単に元の世界に戻れるかもしれない。だけどそんな曖昧な気持ちじゃ、国を再建することなんてできない。もっとしっかりとした意志を持たないと意味がないだろ」


「意志ならちゃんとあるわよ。今だって少しずつ国はできてきているわけだし、あんたには分からないでしょ、私がどれだけ頑張っているのかを」


「ああ。確かに俺にはここまであんたが何をして、どうして異世界の住人をこの世界に読んだのかさっぱり分からない。けどな」


 会ってまだ数時間も経っていないのに、こいつがどんな性格なのか分かってしまった気がする。

 こいつ何でもかんでも一人でやればできるもんだと思っているタイプだ。

 そうでなきゃ、あんな策が生まれてくるわけだし、そんな甘い考えじゃ国なんて作れるわけがない。


「まだ会って数時間の赤の他人が言うセリフじゃないかもしれないけど、お前国造りを甘くみすぎてないか」


「な、何よ私のやり方に文句でもあるの?」


「あるな。沢山」


「そんな酷いっ!あんたみたいな男大嫌い!」


 そう言うと彼女は乱暴に部屋の扉を閉めて出て行ってしまった。おいおい、これは色々と危ない気がするんだが……。


「ハァ…、これは結婚したとしても色々問題ありそうだな」


 正直俺でも見て分かるぐらいこの国は終わっている。先代とかがどうなのかは分からないが、恐らく彼女の代は全くうまく行ってないのだろう。

 俺もそんなに詳しいというわけでもないが、あの態度からすると、マナーとかも気にしないタイプだろ。国を築き上げる際、他国との信頼とかもそれなりに重要になってくるだろうし、国同士の仲が悪ければ争いだって起きる。彼女の場合を見ると、間違いなく国同士の仲は芳しくない。


(よくあんなので姫やれるな、あいつ)


 自分の力じゃどうにかできないと判断した彼女、いや国は異世界の人間を呼び出して助けを求めた。でもそれすらも彼女のあの性格が台無しにしてしまっている。呼び出した側は最低限の責任を請け負う必要がある。それは国とかそういったものは一切関係なく、人としての最低限のマナーだ。それができていない彼女に、果たして国を築き上げられるのだろうか?


(どうやらこれは、あのお姫様が頑張るというより、俺が頑張らなきゃいけないらしいな……)


 元の世界に戻る道のりが、少し遠くなった気がした。


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