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第14話疫病神

 今回俺とココネがやって来たのは、ナルカディア王国の北に隣接する国で、主に商業などが盛んな国らしい。国同士の交易を結ぶ架け橋みたいな国でもあるため、多くのの国の商人が集まっている国だと。

 その名も商業国ライドア。

 ここに来れば何らかの収穫を得られると思い、今回やって来たのだが、どうもさっきから周りの視線がどうも怖い。俺何かやらかしたか? ていうか、他国へ出かけること自体がないのに、もしかして俺の知らないところで罪を被せられていたりするのか?


「大丈夫、あなたは何も悪くないから」


「でもやっぱり気になるだろ」


「気持ちは分かるわ。だけれどこれくらい私慣れているから」


「え?」


 ココネがいかにも不穏な言葉を口にする。


(慣れている? それはどういう事なんだ?)


 けどその疑問は、すぐに分かることになった。少し街中を歩いている途中、一人の男性が俺達に悪態をついてきたのだ。


「あんた、もしかしてナルカディア王国の姫じゃないか?」


「そうよ。それがどうかしたかしら」


「どうかしたもなにも、疫病神と呼ばれるあんたがこんな所にいられたら、こちらも商売ができないんだよ」


(疫病神?)


 彼からそんな言葉が出てきたので、俺は一瞬耳を疑ったがどうやら聞き間違えではないらしい。


(ココネが疫病神? それは一体どういう……)


「その隣にいるのはまさか噂の婚約者か? あんたも災難だねこんな姫と結婚させられるだなんて」


「それはどういう事だ?」


 確かに結婚の話は災難かもしれないが、どうも彼の言い方は別の意味を含んでそうなので、気になって尋ねる。


「あ、もしかして知らないの?だったら知っておいたほうがいいと思う。彼女は……」


「やめて!」


 俺の疑問に男性が答えようとしたのを、無理やりココネは遮った。本当にどうしてしまったのだろうか。


「おっとそこで怒るんだ。自分の罪に自覚もないあんたが何か言う権利はないと思うけど、まあいい。いずれ分かる事なんだから」


 やれやれと言いながらその場を立ち去る男性。それに対してココネは、何か言い返そうともせず、黙ったままその場に立ち尽くしていた。


「ココネ?」


 呼びかけてみるが反応なし。


「私だって……自覚していないわけじゃないのよ」


「え?」


「私は……私はただ……」


 独り言のように喋り出すココネ。心配になった俺は、彼女に寄る。


「おーい、どうしたんだよ」


 そこから更に呼びかけてみるが、やはり反応しない。仕方がないので彼女の肩に触れて気付かさせることにした。


「おいココネ、どうしたんだ……よ?」


 ビクッと反応して後ろを振り向いた彼女の顔を見て、俺は思わず言葉を失ってしまう。何故なら……。


「ココネ……お前……何で」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「何で泣いているんだよ……」


 何故なら彼女は泣いていたからだ。


挿絵(By みてみん)


 それは、ココネが俺に初めて見せた涙だった。


 ■□■□■□

 こんなにも落ち込んでいる彼女を連れたまま、商談なんてできやしないと判断し、結局その日はすぐに城に戻ることに。

 あの後すぐに泣き止んだのだが、先程から口数も少なく、重々しい空気を背負ったまま帰還。とりあえず彼女を自分の部屋まで連れて行った。


(どっちにせよ俺もここの部屋だし)


「……」


「なあココネ」


「……」


 いつもなら何で名前で呼ぶのよって怒るのに、今日はそれすらもない。どれだけ落ち込んでいるんだよこいつ。


「なあ、黙っていないで何か言ってくれよ」


「……」


「おい」


「……」


 いくらな呼んでも反応しない彼女に、いい加減腹が立ってくる。いくらさっきの事がショックだったとはいえ、なにも喋らないのは卑怯すぎる。せめて一言でもいいから喋ってほしいのだ。いつものように……。


(そうでなきゃ、寂しいだろ……)


 それから更に時間が経った後、


「私ね……一つあんたに謝らなきゃいけない事があるの」


 俺の願いが通じたのか、ココネがようやく口を開いてくれた。


「謝らなきゃいけないこと?」


「私ね……国を復興させたいとかなんとか言っているけど……この国をここまでの状況に追い込んだ原因が私自身なの」


「え?」


 国がここまでの状況になっている原因が、その国の姫であるココネ自身? それは一体どういう意味なんだ?


「これから私が話すことは全て実際にあったこと。それを今からあんた……いやこの国の新しい王のタカヤマ・ケイイチは知ることになるんだけど、その覚悟はできてる?」


 そんなもの初めからできてはいるが、それほど覚悟をようすることなのだろうか。でもこの国の王様(仮)である俺が知っておかなければならないのかもしれない。だったらどんな事だって受け入れる自信はある。


 それが国王としての一歩を踏み出す為なら尚更だ。


「ああ。できている。これからお前がどんな事をはなそうとしているか俺にはさっぱり分からないけど、全部受け入れてやる」


「分かった。じゃあ……話すわよ」


 そう前置きを置くと、彼女は静かに語りだした。今から五年前、彼女の両親が亡くなって少し経った後に起きた彼女の罪を。


 ■□■□■□


「お父さん、お母さん……どうして……」


 五年前、私は両親を両方とも亡くし、絶望していた。その時の私はまだ幼くて、目の前の現実に向き合えなかった。だから非現実的な思考ばかりしていた。


 例えば、死者を蘇らせられる、とか。


 普通ならあり得ない事を、私は考えていて、それを実現させようとしていた。まさかそれが、絶望の始まりとなるとはその時は知らずに……。



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