表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/85

第12話少しずつだけど確実に

 その日の晩、ココネの部屋で寝ることになってしまった俺は、彼女に散々文句を言われる羽目になった。


「もう、本当に最悪。何で私があんたと同じ部屋で寝なきゃいけないのよ」


「それはこっちのセリフだ。何でこんなに城が広いのに部屋の一つや二つ用意できないんだよ」


「何? 城に文句まで言い出すの? 本当に最低な男ね」


「俺にこれだけのスペースしか与えないお前のほうが最低だよ」


 ちなみに俺の寝床は、彼女の部屋の隅っこ。人一人が体育座り出来るかできないかのスペースだ。そこで俺はこれから生活していかなきゃいけないなんて、今までのどんな仕打ちよりも酷い。


「もう、あんたと話すと本当に疲れるわ。さっさと寝るわよ」


「へいへい、言われなくても分かってるよ」


「一応おやすみだけは言ってあげるわ。おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 ココネ自らが部屋の明りを消し部屋は真っ暗になる。俺は体育座りしたままゆっくり目を閉じ、襲い来る睡魔に身を任せ眠りに……。


(って、寝れるわけあるか!)


 自分に思わずノリツッコミをする。どう見たってこの態勢で一晩を明かすことなんてほぼ不可能に近い。ていうか寝れるわけがない。俺は布団すらも与えられない状況で一体どうすればいいのだろうか?


(もういっそのこと部屋に戻るか)


 どうせココネのことだ、もう眠ってしまっているだろう。だから今からこっそり戻っても何一つ問題はない。


(そっと、音を立てないように……)


 気づかれないように一歩ずつ慎重に歩く。よし、扉までたどり着いたしあとは部屋から出るだけ。


「まさかとは思ったけど、本当に抜け出そうとするなんて思わなかったわ」


 ドアノブに手をかけ、まさに外に出ようとした瞬間、ココネの声と共に部屋の明かりがつけられた。しまった、バレたか。


「って、別に俺が外に出たほうがお前にとっては全然構わないんじゃないのか?」


「そうね。今すぐにでも元の部屋に戻ってほしいくらいだわ」


「だったら何でわざわざ止めるんだよ」


 ドアを開けるのをやめ、振り返りながら尋ねる。別に何一つ問題ない事なのに、彼女は何故俺を止めたんだ?


「夜中に出歩いたことがないから分からないかもしれないけど、この城夜になると出るのよ」


「出るって何が?」


 まさかおばけが出るとか言い出したりしないよな?


「出るのよ、ここ。幽霊が」


 言い出しました。


「まさかお前そんなの怖がって……」


 ゾクッ


 笑いながら受け流そうとしたが、急に背筋に寒気が走る。おいおい、まさか……そんな訳ないよな? だって今まで一度もこんな事なかったぞ?


「今どうしてって思っているかもしれないけど、あなたは夜のこの城の姿を見たことがないわよね」


「この城の夜の姿?」


 なんだそのホラーゲームみたいな設定は。


「馬鹿らしい話かもしれないけど、これは事実なの。今何かをあんたも感じたでしょ?」


「あ、ああ。背中がゾクッとした」


「そう、それがこの城の覆う怨念と、死者の魂よ」


「死者の魂?」


 さっきからこいつは何を言っているんだ?


「前にも話したと思うけど、この国はかつては栄えていたの。だけれどそれが、一晩で全てがなくなってしまった。たった一度の出来事で私は大切なものを失ったの」


「一晩で……国が?」


 いくらなんでも短すぎないか? たった一晩で国が壊滅的な状況になるなんてあまりにもおかしすぎる。そんなの大きな大災害が起きたか、それともまた別の理由があったか、それ以外はありえない。


「もしかして……魔物と何かと関係があったりするのか?」


「それは……まだあなたには話せないわ。でもいつかは知ってもらう時が来る。あなたにこの国の王としての自覚があるならね」


「王としての自覚……」


 たまに忘れそうになるが、俺は一応この国の王になったんだ。と言っても扉の条件を満たした時はその座位から降りるけど、それまでは王としての立場であるのは間違いない。だったらそれなりの自覚はなければならない。


「ここ二ヶ月、あんたのやる気を見させてもらったけど、なかなか頑張っていたから、ほんの少しだけ認めてもいいかなって思ったのよ」


「それは光栄だな」


「でもまだまだ足りないわ。あんたの覚悟、もっと見せてほしいから」


「そうだな。俺にはまだまだ足りないものがある。この前みたいな事を繰り返しては駄目だもんな」


 ココネを守るためだったとは言え、そこから三日も休むよな人間じゃ、この先も駄目な気がする。だからもっと俺は強くなる。せめて誰かを守ってやれるようになるまで。


「じゃあ話も済んだし、今度こそ寝ましょ」


「ああ、そうだな」


 ココネが再び明りを消して、俺は定位置に戻る。さて、今度はちゃんと眠れるだろうか?


「ねえ、け、け、ケイイチ」


 ようやくやって来た睡魔に身を任せようとした時、ココネが俺の名前を呼んだ気がしたので、俺はそれに答えた。


「ん? どうかしたか」


「け、ケイイチは初めて私と会った時、どう思った?」


 今まで彼女の方からこんな質問をしてきたことはなかったので、少々驚いたが落ち着いて話を続けるろ


「どう思ったって?」


「ほら、嫌な人間だとか、駄目な人だなとか」


「随分マイナスな事を言うんだな。まあそう思ったのは事実だけど」


「せめて否定してほしかったわ」


 (多分十人に聞いたら九人が同じ答えをすると思うぞ)


 何をやっても面倒臭がってやろうとしないし、性格はよくないし、すぐに文句は言うし、悪いところしかないイメージなのは事実だ。事実なのだが、決して全てが悪いとは思っていない。


「でもまあ、最近自分の意志で変わろうとしているだろ? それだけはいい点なのかもしれないな」


 彼女は最近それらを自分の力で変えようとしている。それについては俺も感心している。


「私……そんなに変わろうと努力できてるかな」


「ああ。最近のお前を見ていると、少しずつだけど変わろうとしている。それは多分この城の人も気づいてんじゃないのかな」


 セレスやこの城のメイド達だってきっと気づいている。ココネが自分の力で何かを得ようとしていることを。


「そうなんだ……」


 そこで一旦会話が止まる。この間に彼女は果たしてどんな事を考えているのだろうか?


「じゃあさ、私があんたの思うような所まで変わることができたらさ……」


「できたら?」


「そ、その。わ、わ、私と……」


「私と?」


「やっぱり何でもないわ! もう寝るわお休み!」


「あ、おい」


 今の言葉の続きを聞こうとしたが、その後彼女からの返事は一切なかった。


(俺が思うような所まで変われたら、か)


 今でもかなり成長しているのだけど、まだ足りない所はある。今後彼女がそれも越えることができた日には、


(できた日には……)


 俺も何か考えておくとしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ