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第9話二つの感謝

 再び俺が目を覚ました先は、見慣れた城の天井だった。


(いつの間に戻ってきてたんだ?)


 確かあの時意識を失ってたんだよな。っそれでその後は…。


(全く覚えてない)


 あの後ココネがわざわざ俺をここまで運んでくれたのだろうか? それだったら何だか申し訳ない気分になる。折角の休暇だというのに、こんな目に合ってしまうなんて、俺だけでなくあいつだって嫌だったはずだ。


(俺が怪我したせいで、本当に楽しめなかったんだろうなあいつは……)


 心配になったので体を起こした時、ずっと横にいたその気配に俺はようやく気づいた。


「すぅ……すぅ……」


 そこにいたのは、体をベットに預けて伏せたままぐっすり眠っているココネだった。


(まさかわざわざ看病してくれたのか?)


 彼女が眠っている姿を見た俺は驚きを隠せずにいた。あんなんも性格が悪い彼女が、わざわざ俺のために……。


「ん……あれ……目を覚ましたの? ヘタレ」


 そんな事を考えていると、目を覚ましたココネが、目を擦りながら話しかけてきた。


「ああ。つい今さっきな」


「そう……、それならよかったわ」


「お前がここまで運んでくれたのか?」


「ええ。急に倒れちゃったから大変だったのよ。人を庇って守ったくせに、ぞの庇った本人が倒れるなんてとことんヘタレ人間よねあなた」


「悪かったよ。俺もまさか意識を失うなんて思っていなかったからさ。折角の休暇を無駄にしてごめんな」


 俺は心の底から彼女に謝った。彼女だって本当は怒っているだろうし、いくら守るためだったとは言え、台無しにしてしまったことには変わりない。


「別にいいわよ休暇の一つや二つ」


「でも休暇は滅多に取れないって言ってただろ?」


「何よそのくらい、私は姫なんだから休暇なんていつでも取れるわよ。そんな事心配するより、自分の体の事を心配しなさいよ」


「お、おう」


(そうは言われてもなぁ)


 まあ確かにこいつの言うことは一理あるかもしれないが、それでもやっぱり罪悪感が湧いてくる。本人が気にしていないって言うなら、それ以上は言わないが……。


「気づいていないみたいだけど、あなた二日も寝ていたのよ」


「マジかよ! 俺そんなに眠っていたのか?」


 どれだけ気を失っていたんだよ俺は……。二日って寝ていたくても寝られないぞそんな時間。

 そしてその二日はある答えを出してくれた。


「その間お前がわざわざ看病してくれたのか?」


 それはココネが長い時間、俺を看病してくれていたこと。それも含めると、やはり申し訳ない気持ちになってくる。


「ば、馬鹿言わないでよ。私があんたのためにそんなに時間使えるわけないじゃない」


「だったら何でそこで寝てたんだよ」


 彼女が先程まで寝ていたところを指差して、からかってやる。


「そ、そ、それは、ほら農作業とかやってて疲れただけよ。あなたの看病なんてついでのついでのついでよ」


「はいはい。でも、ありがとうな」


「っ! か、感謝するなら行動で表しなさいよ」


「分かってるって。ちゃんとやる事はやるっての」


「分かればいいの、分かれば。でも、あまり無理するのだけはやめなさい。せめて傷が癒えるまではしばらく休みなさいよ」


「え、いいのか? 手伝わなくて」


「いいの! とにかくちゃんと休みなさい」


 それだけ言うとココネは乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。二日間の看病に加え、今の言葉。俺は彼女を少しだけ見直した。


(何だかんだ言って優しんだなあいつ……)


 乱暴に閉じられた扉を眺めながら、彼女のちょっとした優しさを噛み締めた俺なのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 翌日、まだ少しだけ傷が癒えていないと言われ、俺は今日まで特別に休むことをもらう事になった。


「とは言っても、部屋に一人きりだとやる事ないよな……」


 お昼になった頃には本当に暇になった俺は、どうしたものかとベッドの上で悩む。そもそも俺の部屋は暇つぶしできるようなものが置いていないため、休暇をもらったとしても特別やる事がない。誰か暇つぶしになる相手とかがいたりしないだろうか。


「暇なら手伝いなさいって言いたいところだけど、今日は特別休暇もらってるのよね」


 そんな俺をいつものようにココネはからかいにやってきた。


「休暇をくれた本人にそんな事言われるなんて思っていなかったよ俺」


「無理してこの前みたいに倒れられても困るし、今日だけ特別よ。明日からちゃんと復帰しなさいよ」


「あいよ」


 適当に返事して、ココネも部屋を出て行くかと思ったら、五分経ってもずっと立ったまま動かなかったので、流石に見かねた俺は声をかける。


「仕事戻らないのか?」


「も、もちろん戻るわよ。あなたみたいなアホと話していたくないし」


「だったら早くいけよ」


「行くけど……その……」


「ん? どうかしたか?」


「この前は……私を……庇ってくれて……あ、あ、ありがとう」


 いつまでもその場から去ろうとせず、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに何かを言っているココネ。勿論聞き取れているが、あえて何も聞こえていないふりをする。


「何か言ったか?」


「だ、だから……その……ありがとうって言ってるの」


 ここまでハッキリ言われても、やはり聞こえないふりをする。何だかそのやり取りをするのも楽しくなっている自分がいた。


「え? なんだって?」


「絶対に聞こえてるでしょ! ああもう、やっぱりこんな事言うもんじゃなかったわ。もう戻るわね」


「あ、おい」


 からかいすぎた結果、ココネは怒って部屋から出て行ってしまう。


「ちょっとからかい過ぎたかな」


 再び一人になった俺は、天井を眺めながらちょっとだけ反省する。


(感謝するのは俺の方なんだけどな……)


 ここ四日ほど、いやこの世界に来てからずっと、彼女にお世話になっている。だからちゃんとした感謝の言葉を述べたいのだけれど、そのきっかけもなかなか掴めない。


(セレスにでも今度相談してみるか)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 彼がやって来てから私の世界は変わった


 お父さんとお母さんが亡くなってから、誰も私と真正面から向き合ってくれる人がいなくなってしまった。

 私が姫であるが為に、皆が我が儘を全て聞いてくれて、たまに無茶な事を言っても全部聞いてくれた。


 だから私もそれに甘えてばかりだった


 今回異世界の人間をこちらに呼ぶのだって、本当は不可能に近いものだった。それでもやっぱり誰一人文句を言わなかった。いや多分言えなかったんだと思う。それは私がこの国の姫っていう立場だからってだけであり、本当は文句の一つや二つ言いたいのだろう。


(一つや二つじゃないわよ、きっと)


 けど彼は全く違った


 私が文句を言うといつも突っかかってくるし、逆に文句だって沢山言う。最初は本当に嫌な人だと思っていた。


 でもそんな彼は、私という人間に正面から向き合ってくれた


 私のどういう所が悪くて、どこを直せばいいか具体的に教えてくれ、その変え方も教えてくれた。今まで気付けなかった自分の悪い部分にも気づかせてくれたし、それを直そうという気にもさせてくれた。


 そんな彼が今度は私を命を張ってくれて守ってくれた


 大きな怪我には至らなくて良かったけど、これでもし大きな傷を背負うことになってしまったら、私はどう謝ればいいのだろう。


(だから本当に無事で良かった……)


 あの時急に倒れたから、すごく慌ててしまったけど、今はこうして元気でいてくれている。それがどれだけ私の救いになっているか、本人は気づいていないだろう。だからせめてもの言葉で私は彼に伝えた。


『ありがとう』


 たった一言だけど、充分伝わったと思う(途中でからかわれたから部屋を飛び出してきちゃったけど)。でもいつかはちゃんと彼に伝えたらなんて思う私がいる。今度は面と向かって、ちゃんとした言葉で伝えたい。この気持ちを。


(それがいつになるかは分からないけど)


「遠くならないといいな……」


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