表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/85

閑話2 素直じゃない自分

 私を庇って怪我をしたあいつは、二日間目を覚まさなかった。今回の事件はあまりに突発的だったとはいえ、二日も目を覚まさないとなると心配になってくる。


 その二日間私は何をしていたかというと、


「その冷水、王子に持っていくんですか?」


「べ、別にそうじゃないわよ」


「じゃあ一体何に使用するのですか?」


「え、えっと。ほら、今日は畑を耕したいから」


「その割には少ない気がしますけど」


「う、うるさい!」


 彼を部屋に運び込んでからずっと看病。あえて隠してはいたんだけど、やはり誤魔化すことは困難だった。

 そして今日も彼が眠っている部屋で、私一人で様子を見ていると突然セレスがやって来た。


「やはり心配ですか? ココネ様」


「誰がこんな奴の心配をしなきゃいけないのよ」


 からかわれたので思わず反論する。少しは心配しているのだけど、それとは裏腹に、余計な言葉が出てきてしまう。

 昔から自分がそんな性格なのは分かってはいるし、あいつに指摘されていた通りそれが原因で人間関係が悪化することもある。


「セリフと表情が合っていませんよ? ココネ様って結構心配性なんですね」


「誰が心配性よ」


 ただちょっと悪かったなって気がしただけで、別にそこまで心配していない。それなのにこの側近ときたら私が素直じゃないとか、全部顔にでているとか余計なお世話なことばかり言ってくる。


(本当いつも、余計なお世話よ)


 長年彼とは一緒にいるが、彼のお世話っぷりには呆れている。こんな生活が長年続いているのだから、もうツッコミを入れる気力すら湧いてこない。


「それにしてもまさか、王自らがココネ様をお守りしてくださるなんて、わたくし感激です」


「何であんたが感激しているのよ。そもそも海に送り出したのは他でもないあんたじゃない」


「そうですけど、何か問題でも?」


「おおありよ! あんな危ないところに行かなければ、あいつはこんな目に合わなかったのよ?」


「やっぱり心配なさっているのですね」


「っ! だ、誰が心配なんか……ってそうじゃなくて!」


 さっきからセレスのペースに乗せられてばかりで調子が狂う。そもそもセレスがあんな危険な海に私たちを行かせようとしたのがいけないというのに、本人がそれを自覚していない。それが腹立たしい。


「今は無事に目を覚ます事だけを祈りましょうよ」


「そんなの当たり前に決まっているでしょ!」


 このまま死なれたら、全部私の責任になるのは面倒臭い。それに……。


(このまま後味が悪いまま居なくなられたら、困るわよ! この馬鹿!)


「本当素直じゃないんですね、ココネ様は」


「もう出て行って! 本当あんたといると調子が狂うわ」


「長年一緒にいたものに対して、その言い方はどうかと思いますが、二人きりになられたいのなら、最初から仰ってくだされば」


「勝手に入ってきたのはそっちじゃない! 早く出て行って」


「はいはい。分かりましたよ」


 ■□■□■□

 半分呆れながらセレスは部屋から出ていき、再び私と寝たままのあいつと二人きりになる。


(そういえば以前、逆の立場で同じような事があった気がする)


 確かあの時は、私が一人で部屋を全て片付け終えたあと眠ってしまった後だった。その時彼は色々なことを言っていた。恐らく私が寝ているからと思っていたからだと思うけど、


(本当は起きていたのよね、私)


 思い返すと聞いているこっちが恥ずかしくなるような言葉ばかりだった。


「何であんたはあんなセリフを言えるのか、不思議だわ」


 もう少し自重するべきだと思うが、本人の目の前で絶対にそんな事は言わないだろう。私だってあんな事は絶対に言わないだろうし、そんな事思ってすらいないと思う。


「人って本当寝てる時は無警戒よね」


 結構な大怪我をしているというのに、苦しそうな表情が寝顔から一切見えない。人の寝顔なんてまともに見たことないから、何だか斬新な気分だ。


(それって、私も一緒だったのかな……)


 こいつも私の寝顔を見て、可愛いだなんて言ったのだろうか?自分の寝顔なんて見たことはないので、可愛いのかも分からない。でも一つはっきり言えることは……。


(すごく恥ずかしい)


 人生でこんな言葉を一度も言われたことはなかった。両親はもしかしたら言っていたのかもしれないけど、そんなの覚えていない。


「ふわぁ……」


 そんな彼を眺めながらあくびをもらす。連日ちゃんと睡眠を取っていないせいか、段々眠くなってきてしまう。もし私が彼よりも後に目を覚ましたら、とんだ恥をかく。それだけは避けたいんだけど……。


(段々……眠く……)


 やはり睡魔には勝つことができず、私はいつの間にか夢の世界へと飛んでいってしまった。この後当然私は恥をかくことになるのだけど、それはまた別の話。


「何であんたが私より先に目を覚ましちゃうのよ!」


「寝てるお前が悪いだろ!」


「へえ。勝手に倒れておいてそのセリフをよく吐けるわね」


「だから何で俺が悪いんだよ!」


 目を覚ました後も普段通りの喧嘩をする私達。人にわざわざここまで運んでもらっておいて、その言い方は全くもって酷い。せめてお礼の一つや二つしてくれたっていいのに。


(こんなんじゃいつまでも私の方から礼を言い出せないじゃない)


 本当面倒くさい男だ。


(まあ、でも、助けてくれたことはちゃんと感謝しないと……駄目よね)


 いつになるか分からないけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ