未来電報局
少々不運が重なってどうしようもなくなった時、友人にとある電話番号を教えられた。
もはや大して世の中に期待はしていなかったが、どうしてもかけろと言われたので、家の固定電話のボタンを押してみる。
が、聞こえてきたのは静寂だけだった。
友人にからかわれただけなのだろうか。
受話器を置くと、すぐに電話がかかってきた。少々驚きながら、受話器を耳にあてる。
やはり静かだ。イタズラだろうか。
また受話器を置くと、プルルルルとけたたましい呼び出し音が部屋中に響いた。今度はなんだ。
もしもし。もしもし。
いくら呼びかけても、受話器の向こうはシンと静まり返っている。
もしもし。もし、と繰り返す。
もしもし。聞こえていますか?
次いでプーと、高い機械の音が鳴った。
プツ、ガチャッ………もしもし?
声が聞こえた。
もしもし、どちら様?こっちは今忙しいんだ。イタズラなら止めてくれと弱々しく呟くと、声が言った。
こちらは、未来電報局です。×××ー○○○番号のお客様、今から十年後のお客様は、まだ元気に生きておられますよ。
声はそのまま、社会にどう貢献するだの捨て犬を拾うだの、誰かの暮らしを話している。
思わず自分の手を見た。
手に握っていた丈夫そうな縄を離すと、プツッと唐突に声が切れた。
そういえばこの電話番号を教えてくれた友人は、どこの誰だっただろうか。
―――――もしもし。もしもし。
今日も電話が鳴る。
ガチャッ。こちら、未来電報局です。
△△△ー×××番号のお客様は、先日ご結婚されました。おめでとうございます。可愛いお子さんもいらっしゃいますよ。
あなたの未来のお話です。ですからどうか、未来まで生きてください。
未来には、幸せなことが待っていますよ。
もしもし。もしもし――――。
END