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その日の朝は変わっていた

作者: OTYAO

「ついていない」

確かに僕はあまり良い運の持ち主とは言い難い。いつも何かしらの災難に会うのは避けられない運命なのだと半ば諦めている。そういう意味でついていないというのもあるにせよ、今の僕は合わせて二重の意味でついていない。

朝起きると、女になっていた。

つまり、男の証たるものが、ついていないのだ。

「なんということでしょう」

驚きのビフォーアフターを経験してしまった。これは元に戻るのか。

とりあえず立ってみる。スラリと長い脚。引き締まったお尻。くびれたウェスト。そして……

「おっぱい!!」

世の女性たちに嫉妬されそうな豊満な胸がボインと揺れていた。

つついてみる。ボイン。揉んでみる。ボインボイン。先っぽをキュっと……

「あふん!!」

完全に女性の胸だ。それもこれはかなりデカいサイズの。よく分からないが多分FかGくらいはあるかもしれない。

しかし残念なことに、小さめの胸が好みの僕はさして興奮を覚えない。ていうか自分の体だし。

そもそも何故こんなことになってしまったのだろう。昨日の夜は普通に家に帰り、普通に寝て、夢も見ずに普通に起きたはずだ。魅惑のセクシーボディを得とくするチャンスなどまるで無かったはず。解決策が見いだせない。

何とかしなければと思うもののどうにもならずに時間ばかりが過ぎていく。今日は平日だ。高校に入学し親元を離れ一人で暮らしていることが唯一の救いか。まだ誰にも見つかってはいない。今日は学校を休むか。ちょうど五月だ。五月病を理由にすれば、そうかこれは五月病だ、五月病が悪化して女体化なんて事態を招いたに違いない。そうだきっとそうなんだ……。

どうしようもなく混乱した頭とこんがらかった考えでショート気味の僕に、更なる窮地が訪れる。

「おいコラー、学校だぞー早く起きんかー」

丁寧に設置されているありがたい呼び鈴を無視して、セーラー服を着込んだ女子高生が堂々と部屋に入ってきた。

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

これはマズい。こんな姿を学校の女子になど見せられるわけがない。

僕は全力で布団に潜り込み我が身を隠す。

「ちょっと何ですかー今の奇声はー、ほら早く出てこんかい。女の子が朝から起こしに来てくれるなんて最高のシチュエーションだろう? なんならお目覚めのキスもおまけしてあげますですよー?」

「待ってくれ。僕は五月病なんだ。重症だ。今日はとても学校には行けそうにない。だからお前は僕を気にせず先に行けえ!」

「お前を置いてなんて行けるわけがないだろうおおお!」

なんてこった。僕はそんなノリを期待しているわけじゃない。そんな全力で布団を引っぺがしにかかるんじゃない!

「やめるんだ。これ以上お前の馬鹿力で引っ張ると布団がふっとぶ!」

「それだけで済むなら本望じゃないか!」

更に激しく剥がしにかかるな! もうやめてくれ!

ああもうどうしてこんなことになったんだろう……。確かに僕は男であることに劣等感を抱えていた。貧弱な体で、男らしいという言葉から最も縁遠いところにいたのは間違いない。いっそ女の子にでもなりたいと思ったことが無いわけでもない。

でも、こんなのは違うんだよ。僕みたいなやつにも、こうして毎朝一緒に学校へ行ってくれる女の子がいる。

僕が女の子だったら? 彼女と僕はこんな関係になっていただろうか。

彼女は劣等感を抱えている僕の大切な友人だ。情けない僕と友達になってくれた。この体はそんな彼女に対する裏切りだ。

あまりスタイルのよろしくない、いわゆる幼児体型の彼女が今の僕を見れば絶望するに違いない。

だから僕は決して彼女にこの姿を晒してはいけないんだ。大切な友人を悲しませてはいけない!!

「やめろ!僕は君の涙なんて見たくない!」

「うるせー、お前が学校に来ないほうが私は泣く! オラアアアアアアア!!」

彼女の馬鹿力の前に、僕の非力はあっという間に敗北した。僕の決意は固くとも僕の力は脆かったのだ。

あぁ、もうダメだ……。

「……ふむ」

ああそんな目で僕を見ないで。妖艶なこの肉体を。豊満な乳を……

「なるほどねぇ、お前が頑なに布団を離さなかった理由はわかったよ。いやはや、私も浅はかだった。そこらへん配慮すべきだったよ。お前は『男の子』なんだからね」

ってはい? なんだって?

「それが鎮まるまで私は外で待っているよ。ちゃんと制服をきて出てこいよ」

彼女はそういうと外へ出て行ってしまった。待ってくれ。一体どうしたというんだ。僕のこの体を見てそれだけの反応? しかも『男の子』って。

「……あれ」

これは。

「ついている」

男の証。それが硬直した姿で僕の下半身に。パジャマをテント状に盛り上げていた。男の朝の現象だ。

「おっぱいもない」

女の証。それはもう、いつもの僕の貧弱な胸板に戻っていた。

「……夢?」

あれは寝ぼけた僕の見た幻か。それにしてはまだかすかに掌に残るあの胸の感触。

幻にしては現実味がありすぎたが。

「でもまあ、いいか」

こうして僕は男に戻っている。また彼女といつも通りの関係を保てる。いつかはそれ以上に、なんて。

僕が男じゃないと、それ以上は僕と彼女にとって、多分無い。

あのセクシーボディは、悪化した五月病が見せたひと時の幻ということで。

それでいいじゃないか。

そして僕は、クローゼットから男子制服を取り出した。

トイレに行くのを我慢しつつ書いたものがこちらになります。書き終わった後のトイレは気持ちよかったです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いですが、文章の初めを一マス開けないと読みづらいです。
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