願う 1
世界が変わった日
「世界が変わった日……今からでも、この世界を変えることはできるのだろうか?」
……いや。
もう、すべては終わっている。
2066年、ネバダ州。
そこは一面に広がる砂の大地だった。
砂漠には、風に乗って移動する怪物たちがいた。
人間をまるで菓子でも食べるかのように喰らう化け物。
そして放射能は、そこが危険な土地だと理解するよりも早く、人間の命を奪っていく。
「俺が誰かって?」
俺は、ただのカウボーイだ。
この地獄のような世界で、娘を探している。
だが――。
この世界は、最初からこんな場所だったわけじゃない。
かつて人々は、ゲームや映画の中で何度も終末世界を描いてきた。
しかし――。
こんな終末を、誰も予想してはいなかった。
今から50年前。
ちょうど50年前のことだ。
世界に、誰も予想していなかった存在が現れた。
すべての始まりは、日本のとある島だった。
そこへ突然、正体不明の存在が現れた。
そして――。
島を消滅させるほどの大爆発を引き起こした。
何千人もの人間が命を落とした。
生き残った人々が理解したのは、ただ一つ。
この世界には、人間では到底及ばない力を持つ存在がいる。
各国は、その存在が残した微量のエネルギー――「オーラ」の残滓を研究し始めた。
そして、ほどなくして、その研究を利用した新たな元素。
さらに、新たな兵器が生み出された。
それは、放射能を残すことなく、あらゆるものを破壊できる兵器だった。
……少なくとも、当時の人間はそう考えていた。
世界の支配層は、その技術を目にした瞬間に理解した。
このままでは、いつか人間同士がこの力を奪い合う。
そして未来には――。
人類そのものを制御する必要がある。
そこで各国の権力者たちは協力し、ある薬を開発した。
その名は――。
「ファースト・ブレス」
目的は単純だった。
世界大戦が起きたとしても、人間を支配し続けること。
彼らは人類を――。
奴隷にしようとしていた。
しかし、その計画を知った一人の科学者がいた。
彼女は計画の中心人物だった。
科学者は施設へ向かい、装置の封印を解除した。
……彼女が薬を使用したのか。
それとも、どこかへ隠したのか。
それは今となっては分からない。
ただ、一つだけ確かなことがある。
彼女があの場所で何かをした。
そして――。
2034年。
核戦争が起きた。
その日を境に、世界は今の姿へと変わっていった。
他の国々がどうなったのか。
生き残った国が存在するのか。
それすら、今では分からない。
ただ、アメリカは生き残った。
現在のアメリカは、各州が分割され、それぞれが独自の統治を行っている。
そして、その上に存在するのが「議会」だった。
議会は戦争の決定や、放射能から人々を守るための政策を担っている。
もちろん、アメリカには皇帝も存在する。
だが、その地位は――。
どちらかと言えば、象徴に近いものだった。
しかし……。
二日前
午前12時12分。
一軒の家。
そこに、一人の男がいた。
ジョン・スコット、29歳。
彼は椅子に座り、自分の銃を丁寧に拭いていた。
その隣では、妻のエマ・スコット、35歳が、残り少ない食料でなんとか料理を作っている。
「あなた……」
エマが不安そうに口を開いた。
「水がもうすぐなくなるわ……」
ジョンは黙って銃を磨き続ける。
「それに昨日、隣の家の人が言ってたの。私たちの州の議会が……」
エマは一度言葉を止めた。
「皇帝と議会が、私たちの住んでいる場所を……放棄することに決めたって」
その時だった。
「パパ! パパ!」
元気な声が響く。
二人の娘――。
シャルロット・スコット、5歳。
彼女が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「パパ、見て!」
小さな手には、一枚の紙が握られていた。
「これ、私が描いたの!」
ジョンが紙を見る。
そこには、大きな土地と建物が描かれていた。
「ここはね、私たちの議会があるネバダの土地!」
シャルロットは笑顔で言った。
「ねえパパ、上手に描けたでしょ?」
そして、嬉しそうに続ける。
「いつかここに住んだら、食べ物もいっぱいあって、みんなで幸せに暮らせるんだよね?」
ジョンはロッキングチェアに座ったまま、娘の絵を見つめた。
その顔は、険しかった。
「……そうだな、チビ」
その瞬間――。
ブロロロロ……
家の外から、車のエンジン音が聞こえてきた。
ジョンの表情が一変する。
「……車?」
こんな砂漠の中で?
周囲には何もない。
家は四キロに一軒あるかどうか。
そんな場所に、車の音が近づいてくる。
「くそ……!」
ジョンは立ち上がった。
「エマ、シャルロットを連れて地下室へ!」
「あなた……!」
「早く!」
「パパ?」
シャルロットが不安そうに父を見る。
「パパ、どうしたの?」
「大丈夫だ。行け」
「でも……」
「いいから!」
「……うん」
「行きましょう、シャルロット。お父さんなら大丈夫よ」
エマは娘の手を握り、地下室へ向かった。
そして入口の蓋を閉めようとした、その時――。
「ワンッ!」
一匹の犬が家の中へ駆け込んできた。
ドイツ・シェパードだった。
「おい、いい子だ。静かにしろ」
ジョンは犬の頭を撫でる。
「伏せろ」
犬はすぐに命令に従い、床に伏せた。
ジョンは窓の隙間から外を覗く。
遠くから、一台の車がこちらへ近づいてくる。
そして――。
井戸の近くで止まった。
車から降りてきたのは、武装した数人の男たちだった。
彼らは周囲を見回しながら、笑っている。
「……マローダーか」
ジョンは銃を握り直した。
そして、息を殺して奴らの様子を見つめていた。




