(4)キャンプ場1
川で水を汲み広場へ戻る。すると、自分のテントの前に人影があった。中年の男女。そして二人が忠史に気づく。
「あ、そこのテントに居る者です」
男性が軽く会釈する。穏やかな声だ。
「夫婦でね。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ。よろしくお願いします」
忠史も頭を下げる。
女性のほうがにこりと笑う。
「このあとシチューを作るんですが、よかったらご一緒にどうですか?」
思いがけない申し出だった。
断る理由はない。むしろありがたい。
「あ、では……お言葉に甘えて。お願いします」
そうして三人での夕食準備が始まった。
男性が手際よく火を起こす。焚き火台に薪を組み着火剤に火をつけるとぱちぱちと小気味いい音が広がる。女性は野菜を刻み、忠史は言われるままに水を鍋へ注ぎ具材を運ぶ。簡易テーブルを広げランタンを準備する。
作業をしながら自然と会話が弾んだ。
「遺跡を見に来たんですけど、まだ見れてなくて」
「へえ、袴狭の? 若いのに渋いねえ」
男性が笑う。
「私たち、ここ何度か来てるんですよ」
女性が言う。
「ここ、いいとこですよ。静かで」
男性が薪を調整しながら続ける。
「でもね、来年このキャンプ場、閉鎖が決まったらしくてね。だから今のうちにもう一回来ておこうって」
「閉鎖……」
店主の言葉がよみがえる。
“もうキャンプ中止みたいな話、聞いたけどなぁ”
「利用者が減ったんですかね」
忠史が言うと男性は少し首を傾げた。
「さあなぁ。理由は聞いてないけど」
一瞬、間があった。
焚き火の音だけが響く。
女性が明るく言い直す。
「でも、いい場所なのは変わらないですよ。滝もきれいだし」
やがて鍋からいい匂いが立ち上る。湯気が夕方の冷え始めた空気に溶けていく。三人でシチューを取り分ける。
あたたかい。
山の中で食べる料理はなぜこんなにも旨いのか。
「大学生さん?」
女性が尋ねる。
「はい、二年です」
「いいわねえ。自由で」
男性が笑う。
「若いときの好奇心は大事にしたほうがいい」
焚き火がぱちりと弾ける。
忠史はもう一つのテントの方も気になったので率直に聞いてみた。
「あの青いテントの方も誘われたんですか?」
「……人見知りな人かもね」
女性が小さく笑う。
「ソロの人はだいたい静かに過ごしたい人が多いから」
男性もそれ以上は気にしない様子だった。
忠史も深く考えないことにした。キャンプ場での距離感は人それぞれだ。
干渉しない。それも礼儀。
やがて日が完全に落ちた。




